いよいよ今週に安倍・プーチン会談が山口県長門市と東京で行われます。一時日本で高まった北方領土返還への期待は、首脳会談が近づくにつれロシア側の冷ややかな対応が目立ち、萎みつつあります。日ロ交渉の「新しいアプローチ」を掲げた安倍首相は、是が非でも交渉の突破口を開く意向です。
ロシア研究の権威で新潟県立大学教授の袴田茂樹氏との対談で、櫻井キャスターは「首脳会談を前になんとなく還ってくるのではないかという期待感が盛り上がったが、なぜこうなったのか」と問いました。袴田氏は「日本のメディアや専門家は、4島の帰属問題を法と正義の基礎として解決し平和条約を締結する『東京宣言』よりも、ソ連が平和条約締結後に歯舞、色丹を日本に引き渡すとことで合意した『日ソ共同宣言』をより重視するアプローチが多いからだ」と指摘しました。期待感を持たせるきっかけになったのは、2012年3月に行われたプーチン首相(当時)と西側メディアとの会見に出席した朝日新聞の若宮啓文主筆が、柔道の「ヒキワケ」を使って説明したプーチン首相の会見内容を「領土での妥協をも示唆するようなリスクをとっての発言は、領土問題解決への強い意欲の表れともいえる」と期待感を抱かせる記事を書いたことから始まったと説明を加えました。
ところが、プーチン首相は同じ会見の中で「日ソ共同宣言で合意した日本への歯舞、色丹2島の引き渡しが、如何なる根拠に基づくのか、2島がどちらの国の主権におかれるかは書かれていない」と強硬発言も行っていました。しかし、若宮主筆の記事は主権についての強硬発言を取り上げていません。プーチン大統領は直近のペルー首脳会談後でも同じ強硬発言を繰り返しています。
櫻井キャスターは対談の最後に「安倍・プーチン会談でどんな結果が予見されるか」と尋ねますと、袴田氏は「これまでの流れから2島返還をプーチン大統領が約束することは考えられない。しかし、ロシアは領土問題に応ずる気がない、日本に経済協力をしても意味がないという失望感を与えないために、交渉を継続するレトリックやポーズを準備していると思う」と答えました。
≪動画インデックス≫
1.櫻井よしこが「北方領土をめぐる歴史」を駆け足で解説
2.ロシアにとって対日政策で最大の失敗は「東京宣言」認めたこと
3.なぜプーチンは「東京宣言」から「4島は戦争の正当な権利で得た」に変わったか
4.プーチン大統領「平和条約問題で最初に強硬な立場に転じたのは日本だ」
5.野中広務氏が「領土と平和条約問題は切り離しても良い」する発言(2000.7.27)
6.日本が「4島の帰属問題を解決し平和条約締結」路線から「2島決着」路線への転換
7.袴田氏「平和条約交渉の基礎は『東京宣言』で『日ソ共同宣言』ではない」
8.期待感のきっかけは朝日新聞若宮啓文主筆のプーチン首相の会見記事
9.繰り返されるプーチン強硬発言「日ソ共同宣言に歯舞、色丹の主権は何も書いてない」
10.日本メディアは交渉に期待を抱かせる部分しか記事にしない不思議
11.安倍官邸はなぜ「楽観論」に乗ってしまったか
12.首脳会談が山口と東京に分かれた理由
13.プーチン「領土問題が解決には中ロのような高度な信頼関係が必要だ」
14.山口、東京の安倍・プーチン会談でどんな成果を予見できるか?
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袴田 茂樹
国際政治学者・新潟県立大学教授
1944年広島県生まれ。1967年東京大学文学部哲学科卒、モスクワ大学大学院に留学、帰国後、77年東京大学大学院で国際関係論博士課程修了した。米プリンストン大学客員研究員、モスクワ大学客員教授、東京大学大学院客員教授を経て、青山学院大学教授。現在、新潟県立大学教授、青山学院大学名誉教授。著書は『「プーチンのロシア 法独裁への道』(NTT出版)、『沈みゆく大国 日本とロシアの世紀末から』(新潮選書)、『文化のリアリティ』(筑摩書房)、『ソビエト70年目の反乱』(集英社)など多数。
※ プロフィールは放送日2016.12.09時点の情報です