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Vol.40 一般公開

「問題の本質はTPPと“農業問題”ではなく、“農協問題”だ」
聖域は米ではなく、減反政策で高い米価を維持することなのか

2013.07.26 59分

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)拡大交渉会合が7.15~25までの日程で、マレーシア東部コタキナバルで開かれました。最終日には、初参加する日本向けの特別会合が開かれ、先行参加国が交渉の現状を説明し、集中討議が行われました。マレーシア交渉が終わったばかりのタイミングで、これまで農政アナリストとしてTPPを研究テーマとしてきた山下一仁氏と櫻井キャスターが、交渉の分析と見通しを論ずることが今回の対談の狙いです。

 対談の冒頭、櫻井キャスターは「日本は遅れて入ったが、交渉の余地はかなりあるという説明はその通りだと考えてよいのか」と質問すると、山下氏は「その通りだろう。各国とも関心品目、守りたい業界、攻めたい業界があり、ただ言いあっているだけで平行線のまま」と述べました。交渉妥結の時期については「アメリカに一方的にやられるという主張が日本国内では多かったのだが、実はアメリカが重要な分野で、孤立しているという感じがする。いまのままで交渉妥結出来るかというと、相当に時間がかかる」と語り、年内の妥結は難しいという見通しを示しました。

 コメなど農産品5品目の関税を維持し聖域化したいというのが日本にとっての最重要課題です。櫻井キャスターは「聖域です、守りますというが、高い関税を守りきることが農業のために本当に意義があるのか」と質しました。山下氏は「高い関税で国内マーケットを守っても、これからどんどん市場が小さくなっていく。それに合わせて農業を生産していこうとすると、日本の農業は安楽死せざるを得ない。価格を下げて輸出する必要がある。日本の市場は縮小するが、海外の市場は拡大していく」と国内農業を攻めの農業に体質転換する必要性を強調しました。さらに、米の減反政策で高い米価を維持しているが、米の価格が下がれば農協の販売手数料も下がる、現状を維持することは農業の生き残りではなく農協の生き残りだと指摘し、問題の本質は“農業問題”ではなく“農協問題”であると厳しく断じました。山下氏と櫻井キャスターは、真の意味で日本の農業をどのように守り抜くかを放送時間を超えて熱のこもった議論が展開されました。

≪対談インデックス≫
 1.TPP交渉は目標通り年内妥結ができるか
 2.遅れて参加したが日本がやれる余地はかなりあるのか
 3.カナダにとって乳製品は日本のコメどころではない理由
 4.農産物の関税維持は「高レベルの自由化」を掲げるTPPの原則に外れる
 5.日本は米だけ関税を維持し、残りは関税撤廃をする交渉決着を考えている?
 6.関税を守ることが国益か、農業を守ることが国益か
 7.減反政策で高い米価、止めれば米価が下がり、農協の販売手数料が下がる
 8.高い米価の維持は農協の生き残りのためだ
 9.米価が下がっても政府から直接支払いで補償すれば農家は困らない
10.農地は食糧安全保障の基礎、減反政策はその基礎を減らした
11.ISD条項が入っても日本のリスクにならない
12.中国はTPPに参加できるのか

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山下 一仁

山下 一仁
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農水省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士。2005年東京大学農学博士、農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、食糧庁総務課長等などを歴任し、08年農林水産省退職。現在、(独)経済産業研究所上席研究員、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。剣道4段。著書に『TPPおばけ騒動と黒幕~開国の恐怖を煽った農協の遠謀~』『農協の陰謀-「TPP反対」に隠された巨大組織の思惑』『環境と貿易』『農業ビッグバンの経済学』など多数。

※ プロフィールは放送日2013.07.26時点の情報です

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