闘うコラム大全集

  • 2014.04.03
  • 一般公開

〝集団的自衛権〟反対論者は世界を見よ

『週刊新潮』 2014年4月3日号
日本ルネッサンス 第601回


山口那津男公明党代表が3月22日、愛媛県松山市で集団的自衛権の行使について語ったが、その主張は腑に落ちない。氏は次のように述べた。

①「(集団的自衛権の行使について)しっかり議論しない限り簡単に認めるわけにはいかない」、②「過去に(日本との)戦争を経験した国から見れば、また日本が自分の国に来て戦うことを憲法上、可能にするんだな、そう思われてしまうかもしれません」、③「政府が一晩で『解釈を変えました。こうします』と言ってしまうのはいかにも乱暴だ」

まず、①の主張は責任政党の代表として無責任ではないか。自民党は2012年12月の衆院選挙でも、13年7月の参院選挙でも、集団的自衛権の行使容認を公約に掲げた。その自民党と選挙協力をしたのは他ならぬ公明党である。自民党の公約を承知のうえで一体となって闘い、議席を得、与党の地位を得た。にも拘わらず、共闘で掲げた目玉政策に異を唱え続けるのは筋が通らない。

こう書けば、恐らく、議論が十分ではないから認められないと、山口氏は言うのであろう。だが、集団的自衛権は、第一次安倍内閣のときから具体的事例を基に議論が積み重ねられてきた。それから今日まで、公明党は一体何をしてきたのか。未だに議論が足りないというのは、むしろ、政党としての怠惰を自ら白状しているようなものではないか。

国際情勢は激変しているのである。中国と親しい公明党であれば、かの国の異常な軍拡の実態はよく知っているであろう。その脅威の前で、日本が単独で日本国の領土、領海、国民を守り抜くことは難しい局面に突入していると、感じないのか。日本国の政治家として、国民の生命や安全をどう考えているのか。責任政党として考えるべきは、侵略を防ぐために、あらゆる面で日本の力を強化することだ。そのひとつが集団的自衛権の行使容認であろう。

帝国主義的侵略

②で山口氏は、日本が他国にまで出かけて戦争をすると思われると心配しているが、自国の意図を各国に説明するのが政治家の仕事であろう。日本の安全保障政策の基本は専守防衛である。集団的自衛権の行使容認の議論も、他国に攻め入る話ではなく、専ら日本を守るためだ。他国に戦争をしに行くかのような言い方は、国民のみならず、かえって諸外国の誤解を招くもので、政党の代表として無責任極まる。

③について、政府の憲法解釈は過去にも変更された事例がある。自衛隊員は1954年の自衛隊発足当初は「文民」とされていたが、11年後の65年、「文民に当たらない」と正反対の解釈が打ち出された。憲法の条文でも、解釈は絶対不動ではない。時代や状況によって当然、変更されることもあるのである。

政権与党の代表が柔軟性を欠いた議論ばかりしているとき、日本周辺では何が起きているか。諸外国は日本をどのように観察しているか。そうしたことを、与党の一翼を担う立場で、しっかり見るべきだ。

ロシアのプーチン大統領によるクリミア半島の強権的併合は、世界が全く新しい危険な局面に入ったことを示している。国際法に基づく秩序から引き剥がされて、軍事力による帝国主義的侵略が横行しかねない局面に立たされているのだ。

ウクライナは、旧ソ連が崩壊した当時、戦略核も含めて1900発の核弾頭を保有していた。核拡散を恐れる米英露は、核弾頭をロシアに移し核拡散防止条約に入るようウクライナに迫った。代償として三国はウクライナの領土保全を約束し、ブダペスト覚書を交わした。

中国とフランスも後にウクライナの領土保全を約束すると合意し、同合意はブダペスト覚書に加えられた。

しかし、どの国もクリミア半島のロシア編入を防ぎきれなかった。ロシアの強権外交がこのまま通用し続けるとは、私は思わないが、覚書や条約によって安全が守られる時代ではもはや、ないのだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は3月19日の社説で、ウクライナの教訓は、核の放棄は危険覚悟でせよということだと書いた。ウクライナのように、核のない国は力でねじ伏せられる。大国アメリカも助けない。これではイラン、北朝鮮などが核を諦めることは金輪際ないとして、WSJは日韓両国についてはこう書いた。

「中国が領土拡張の要求を押し通そうとするとき、日韓両国は当然、核兵器保有の選択を考慮する」

WSJは、日本も「当然」核のオプションを探ると見ているのである。脅威が迫るとき、国家はあらゆる力を結集して国民を守らなければならず、その中には核も含まれるというのが世界の常識なのだ。

とりわけアメリカが世界の警察官をやめたいま、諸国は自衛策の強化に走っている。剥き出しの力を信奉する「力治国家」のロシアも、それよりも数段複雑な戦略を展開する狡猾な中国も、アメリカの介入が言葉による非難を土台とする外交努力にとどまる限り、全く意に介さない。

日本の核の選択

日本が特に心すべきことは、オバマ大統領が中国の提唱した新型大国関係に踏み込んでいることだ。オバマ政権が米中関係を日米関係の上位に置く可能性は少なくない。

ペンシルベニア大学教授のアーサー・ウォルドロン氏が3月7日の日経新聞で、10年後に日本が直面する危うい状況に警告を発している。その中で氏は、現在でもワシントンでは日本よりも中国が重要だと考える人々が影響力を発揮している、と書いている。今後10年間で中国は大量の核及び通常兵器を増やし、アメリカは逆に縮小する。現時点でアメリカの軍事力は中国を凌駕し、その差は20年とも言われる。他方、空母11隻を保有するアメリカは今年2月時点で、3隻しか展開していなかった(コーエン米国海軍研究所元局長)。アメリカの軍事力は急速に縮小されつつある。

尖閣諸島で日中間の武力衝突が起きるとき、アメリカは日本を支援するより中国との妥協を迫って尖閣諸島の領有権放棄を日本に促すだろうと、ウォルドロン氏は見る。だからこそ、日本はいますぐ、自らを守る軍事力を持つべきだと警告する。英仏のように最小限の核抑止力を含む包括的かつ独立した軍事力を開発すべきだとまで主張している。

アジア情勢はこれほど厳しい。日本の核の選択を当然と見る人々も少なくない。だが、彼らは決して無責任なアジテーターでも軍国主義者でもない。秩序と平和を望む知性ある人々だ。山口氏をはじめ、集団的自衛権に反対の人々は、こうした国際社会の意見に注目し、少なくとも中国につけ入る隙を与えないことが日本の責任であることを知っていなければならない。

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