闘うコラム大全集

  • 2014.07.10
  • 一般公開

今も昔も変わらぬ朝日の偏り社説

『週刊新潮』 2014年7月10日号
日本ルネッサンス 第614号


集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更が7月1日、ようやく閣議決定された。同日の「朝日」の紙面には相も変わらぬ反対論が溢れていた。22年前、国連平和維持活動(PKO)に自衛隊を参加させるPKO法案でも、彼らはいまと似たような反対論を展開していた。


宮澤喜一首相が公明、民社両党と組んで成立させたPKO法を巡る「朝日」の一連の社説を読み直して、改めて感じたのは、本当に学習能力に欠ける新聞だということだ。なぜか、イデオロギーの偏りから抜け出せない。成長出来ず、現実に背を向けて観念の世界に遊ぶような主張にとどまり続けている。知性的メディアとして、人類の地平を切り開くような価値観や知恵の提言など、到底期待出来ない。


1992年6月のPKO法成立から22年、いま明らかなのは、「朝日」の読みが完全に間違っていたことだ。具体的に見てみよう。


同年3月17日、「朝日」はこう書いた。「自衛隊がPKOの任務をおびて海外に出動したとしても、それがただちに侵略につながると思う人は少ないだろう。だが、そんな心配をしている人々がアジアなどにいることを忘れてはならない」。


平和維持のために海外に行った自衛隊が、どのようにしたら侵略行為に走るというのか、まるで訳のわからない心配をしているのだ。


たとえPKOでも自衛隊だけは海外に出したくないとの思いが、同年4月24日の社説に色濃い。


「日本は戦後これまで、掃海艇のペルシャ湾派遣を除けば、自衛隊の能力を実地に用いるための海外派遣を控えてきた」「もしここで自衛隊派遣を制度化するのであれば、それは、国の姿勢の転換にほかならない。ことはそれほど大きい」


6月5日には、「PKO協力問題は、自衛隊の海外派遣を可能にする意味で、戦後日本のあり方を大きく転換するものであり、拙速の処理であってはならない」と主張した。


徹頭徹尾、中国寄り


もっと議論に時間をかけよとは、先延ばしでPKO法を阻止せよということであろう。面白いのは92年4月8日の社説である。


当時、中国は89年の天安門大量虐殺事件で国際社会の制裁を受けていた。制裁解除を狙う中国は、日本を西側社会の連携の「最も弱い輪」と位置づけ、まず日本に働きかけて経済制裁を解除させた。その上で、92年10月には天皇皇后両陛下のご訪中を実現させ、中国は孤立から脱却したとの印象を国際社会に植え付けようと画策した。中国のその狙いを「朝日」が後押ししたことを示すのが、4月8日の次の社説である。


「天皇訪中は、中国の再三にわたる招請にこたえて、素直に実現するのが望ましい」「これを拒んで、天皇訪中の当否自体を日中間の政治問題にしてしまうのは愚かなことだ」


天皇ご訪中を政治的問題にしてはならないというが、中国自身が天皇ご訪中問題を政治的思惑から要請したのではないか。


同じ社説で、日本が他国に先がけて制裁解除に踏み切ったことを、「人権問題に甘い、という批判は確かにあるが、結果としてみると、経済制裁の率先解除をはじめとする一連の対処は、中国の改革・開放の加速化を促すうえで、一定の役割を果たした」と評価している。徹頭徹尾、中国寄りである。


中国政府発表で319人もが殺害された天安門事件にも目をつぶり、天皇ご訪中を促した「朝日」は、92年4月の江沢民国家主席来日の際、こんな主張もしている。


「江(沢民)氏は講演で『日本軍国主義によって中国人民が大きな災難を被った』過去に触れた」「自衛隊の海外派遣を盛った国連平和維持活動協力法案(PKO協力法案)は、『日本の過去』との関連でとらえられている」


中国が、日本のPKO法を過去の軍国主義に絡めて批判しているぞというわけだが、自国民を大量殺害し、民主化運動を弾圧する国に自衛隊のPKO活動で物申す資格などないことを、「朝日」は理解出来ない。


右の社説を92年3月16日の社説と合わせて読むと、「朝日」のねじ曲がった価値観がさらによくわかる。


「首相の外国訪問や海外の被災地、紛争地から邦人を救い出すのに使う政府専用の2機のジャンボ機が、4月に防衛庁(航空自衛隊)に配属される。これに備えて、自衛隊に海外の邦人輸送の権限を与える自衛隊法改正案が国会に提出された。問題は、改正案が、2機のジャンボ機だけでなく、自衛隊の保有機全般について、海外の災害や内乱、国際紛争時の邦人の救出輸送に充てることができるようになっている点にある」


「朝日」は完全に間違った


弾圧も国民虐殺も中国がやることは不問に付すが、自衛隊には海外の邦人救出のために保有機を飛ばすことさえ許さないという姿勢である。


あれから22年が過ぎた。その間に自衛隊のPKO活動がアジア諸国から侵略と断罪されたことは一度もない。逆に、自衛隊は各国で大歓迎された。イラク暫定政権のヤワル大統領は、04年6月9日のシーアイランド・サミットの際、当時の小泉純一郎首相に「イラク国民が最も歓迎しているのは日本の自衛隊だ」と賞賛した。


第1次イラク復興支援の部隊を率いた番匠幸一郎氏は、部隊が日本に引き揚げるとき、部族の長老以下子供たちまで涙を浮かべて見送ってくれたと語る。


ヒゲの隊長、佐藤正久参議院議員は「現地の人たちは、日本に戻らないでほしい。ずっといてほしいと我々を引きとめようとした」と語る。


「朝日」は完全に間違ったのだ。集団的自衛権反対の彼らの主張には、既視感がついてまわる。まず、その執拗さである。反PKO法案のキャンペーンも凄まじかったが、集団的自衛権も同様である。安倍政権発足以来7月1日まで、集団的自衛権に関して、実に60本の社説と19本の天声人語を掲載し、反対論に明け暮れてきた。


もうひとつ気づくのは、「戦前回帰」(13年12月18日)、「平和主義からの逸脱」(同年9月17日)などという根拠のない非難を繰り返し、「国内外で理解が得られない」(同)と結論づける手法だ。


日本の集団的自衛権に反対しているのは中国と韓国、北朝鮮くらいなもので、東南アジア諸国も豪州もインドも米国も、およそ皆賛成であるが、「朝日」はそのようなことには言及しない。


それにしても「朝日」の主張に決定的に欠けているのが、国際社会の大変化についての認識である。国際情勢を読みとらずして、集団的自衛権を含む安全保障問題を論ずる資格などはないのである。

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