闘うコラム大全集

  • 2014.09.06
  • 一般公開

得意とする安保担当大臣を石破氏はなぜ拒否するのか

『週刊ダイヤモンド』 2014年9月6日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1049
 


石破茂氏はなぜ、安全保障担当大臣就任の申し出を拒否するのだろうか。安全保障を得意とする政治家にとって、いまは最も働きがいのある時期である。


国際社会の雲行きが怪しく、局地的な紛争が戦争として拡大していくやもしれない瀬戸際に、世界はある。この時期に、平和を維持し、周辺国の脅威から国土、国民、日本を守るために日本は何をどのようにすべきか、考えに考えて死力を尽くすのが安全保障を専門とする政治家の存在意義であろう。その意味で、安保相を引き受け、その場で汗をかくことが将来の総理総裁の道にもつながると、私は思う。


中東のイラクではイスラム国(ISIS)勢力が広がりつつある。その勢力は最初は少数だったが、いま1万人規模に膨らみ、強力な武器装備を保有するに至った。油田を制圧したことから潤沢な資金も手に入れた。


彼らはイラクの北部の町モスルを攻め、クルド人を弾圧して改宗を迫る。彼らの特徴はその際立つ残酷さにある。キリスト教徒を憎むあまり、壊滅させると宣言し、異教徒のクルド人を捕らえては改宗か死かと迫り、拒否すると実際に容赦なく処刑する。


ISISによる虐殺が続く中、海外の紛争への介入を極度に嫌ってきたオバマ大統領がついに8月7日、限定的空爆に踏み切った。ISISの拡大を防ぐのに空爆は一定の効果をもたらしてはいるが、空爆だけでISISを壊滅させることなど到底できない。


そこでオバマ大統領はクルド人に大量の武器装備の援助を与え始めた。またISISの供給地といわれるシリアに偵察機を飛ばし始めた。8月27日現在で議論されているのは、米国によるシリア空爆の可能性である。


オバマ大統領が空爆に踏み切ったとき、その先の展望は極めて不透明だ。


ISISは反アサド勢力である。彼らを攻撃するためのシリア空爆は、アサド政権への援助となる。アサド政権を支えているのはイランであり、過激なテロ勢力のヒズボラであり、ロシアである。皮肉なことだが、いずれも米国が敵対もしくは対立する相手だ。ISISとの戦いのためとはいえ、米国はこれらの国々と協力などできるのか。


仮に、米国が本格的軍事介入するとして、どの国が行動を共にするのだろうか。ドイツ、フランス、アラブ諸国は動かない。英国でさえ、議会の反対がある。


米国が恐れるのは中東での戦いだけではない。ISIS勢力の中に百人規模の米国人がいるといわれる。彼らは米国のパスポートでいつでも帰国できる。ひげをそり、背広を着て、普通の市民を装い、米国社会に溶け込んで、機を見て攻撃を仕掛けることもあり得ると、恐れられている。


米国人ジャーナリストが処刑され、処刑犯の英語が英国なまりだったことを受けて、キャメロン首相は急きょ首相官邸に戻った。程なくして犯人が23歳の英国籍のアブデル・バリー容疑者であることを突き止めた。英国もまた、米国と同様の危機に直面しているのである。


こうした中、中国が着々と地歩を固めている。習近平国家主席が7月3日に韓国を訪れ、朴槿恵大統領と首脳会談を行った際、「米国のミサイル防衛網から脱退せよ」と迫っていたことが判明した。韓国に米国と手を切れというわけだ。朴大統領の返答は不明だが、中国の脅威は深く潜行拡大しているのである。


そうした状況下での安保相ほど、働きがいのある役職はないであろうに。それを断るのはなぜか。予測不可能な人事について明言するつもりはないが、石破氏が次の総裁を狙うために安保相を断るのだとしたら、この大事な局面で国益より私益を優先するかのような選択をするのは、石破氏らしくないと思うがどうか。

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