闘うコラム大全集

  • 2014.09.18
  • 一般公開

すでに囁かれ始めた11月総選挙

『週刊新潮』 2014年9月18日号

日本ルネッサンス 第622回


5人の女性閣僚と、殆ど誰も予測しなかった谷垣禎一氏の自民党幹事長起用。斬新さと絶妙さにおいて際立つ人事を断行した安倍政権への支持率が急上昇した。


「読売新聞」の世論調査では、支持率が64%と、内閣改造前の8月比で13ポイント跳ね上がった。「日本経済新聞」の調査では、安倍内閣に距離を置いていた女性の支持が16ポイント上昇して59%となり、無党派層の支持も13ポイント上昇して38%になった。


政治ジャーナリストの後藤謙次氏は9月5日、30年来さまざまな内閣改造を見てきたが、今回の支持率大幅上昇は「驚き」だと、『言論テレビ』の番組で語った。


「改造効果がこれほど数字にはね返った政権は余りありません。一時支持率が落ちた小泉政権は、02年9月に拉致被害者を取り戻した直後の内閣改造で数字をグーンと上げた。しかし安倍(晋三)首相はこの間、国民が驚くような大きなことをしたわけではありません」


集団的自衛権行使容認の閣議決定という歴史に残る大仕事はした。しかし、同問題で世論は二分され、反対論も強く、拉致問題への取り組みほど歓迎されていない。にも拘らず、10ポイント以上の上昇である。これは野党総崩れで安倍首相しかいないという国民の気持ちの反映であり、強硬だと誤解されがちな政権に女性登用などで新しい風を吹き込んだ首相の政治的勘の冴えによるものであろう。


安倍首相は改造内閣を「実行実現内閣」と命名したが、眼前に並ぶ消費増税、原発再稼働、拉致問題、沖縄知事選、来年の統一地方選、集団的自衛権、さらに中韓両国とのせめぎ合いなど、ひとつひとつ解決し、実績を積み上げていけるだろうか。この点について後藤氏が思いがけない見通しを語った。


内閣改造の真の意図は早期の解散、総選挙にあるというのだ。その意味で注目すべきは内閣人事よりも、党人事だという。


斬新な内閣人事


幹事長を引き受けた谷垣氏は、野党時代に多くの新人候補を発掘して今日の大勢力の基礎を築いた。新人議員119人の谷垣氏への信頼は厚く、首相が谷垣氏の協力を勝ち取ったことは新人議員の納得も得て、党内を固めることにもなる。


谷垣氏はかつてスパイ防止法案に反対した党内リベラル派であるが、昨年の特定秘密保護法には、宗旨替えをして、賛成した。組織に忠実な人物は、首相の信頼にも応えるだろう。


「谷垣氏登用で新人議員をまとめ、有力なライバルとしての谷垣氏も抑え込んだ。老獪な人事です」


と、後藤氏。


また二階俊博氏の総務会長起用についてこう語る。


「首相の頻繁な外国訪問を一日の狂いもなしに実行出来るように、予算委員長として国会を仕切った政界のプロ」


高い調整能力を持つ二階氏とリベラル勢力の雄でもある谷垣氏をしっかりと引きつけ、党内の権力基盤を固めた老練な党人事に比べて内閣人事には斬新さが目立つ。


「華やかな人事ですが、来年1月召集の通常国会で、予算委員会を筆頭に各種委員会で展開される審議を、この布陣で乗り越えられるか、一抹の不安が残ります」


後藤氏は、安倍首相が目玉政策だとする国防問題を担う江渡聡徳防衛大臣の名を具体的にあげた。


来年4月の統一地方選後に、自衛隊法改正も含めて、政府は安全保障関連法案の整備に取りかかる。当然、集団的自衛権などについて厳しい議論が連日続くだろう。ただでさえ分かりにくい集団的自衛権の議論を失言なしに乗り切るのは容易ではなかろう。初入閣となる江渡氏の起用は首相自身が前面に立つという意欲の表れとも受け取れるが、後藤氏はそこに解散、総選挙とその後に控える更なる内閣改造の意図を読みとるわけだ。


だが、前防衛大臣の小野寺五典氏も大抜擢だったがよく務めた。稲田朋美氏も高市早苗氏も同様だ。江渡氏も同じではないのか。初入閣の政治家の抜擢を、もっと前向きに受けとめてもよいのではないか。


後藤氏は、しかし、安倍政権の直面する重要政治課題のひとつ、消費税増税からも早期の総選挙を読みとることが出来るという。


「8%から10%へ、財政上の必要性からも国際社会の期待からも、引き上げは止むを得ません。けれど、大衆課税ほど怖いものもないのです。平成の総理大臣はこれまでに17人、その多くが税で倒れました。竹下登、宇野宗佑、村山富市、橋本龍太郎、菅直人氏も10%だと言って選挙で負けた。野田佳彦氏に至っては308議席が57になった。増税はそれだけ怖ろしいのです」


野田政権のとき、民自公三党合意で15年10月1日から消費税を10%に上げると決定した。だが、法律で決めたことと、それを実施することは、国民感情への影響という点で全く別のものである。仮に安倍政権が来年10月の増税に踏み切れば、支持率下落は容易に想像出来る。翌16年12月には衆議院の任期が満了し、選挙となる。逆風の中での選挙の厳しさを考え、安倍首相は対策を練り上げていると、後藤氏は読む。


「民主党幹部も同様に考えています。投票日を今年11月9日と踏んで選挙事務所を手当てした人物もいます」


野党の協力は吹き飛ぶ


11月9日には大きな意味がある。沖縄県知事選挙の1週間前だ。自民党推薦の現職、仲井眞弘多氏は劣勢に立たされており、元々自民党だった翁長雄志氏が野党連合に担がれ、広範な支持を集めている。公明党は与党であるにも拘らず自民党との協調や仲井眞氏支持に少なくとも積極的ではない。自民党にとってこの構図を打ち砕くのは容易ではないが、11月9日に総選挙を実施すれば事情は一変する。


衆議院総選挙になれば、公明党も野党との選挙協力はやりにくい。野党各党は自党候補の選挙活動をせざるを得ないために、知事選挙で生まれたオール野党の協力は吹き飛ぶ。つまり、総選挙で野党をバラバラにすれば、仲井眞氏に勝機を呼び込むことも可能になるというわけだ。


首相に近い記者も語った。


「実は、今が解散の絶好の時期なのです。なんといっても野党が割れている。首相の支持率が高く、自民党内は今は落ち着いていますが、処遇に不満のある議員もいる。党内引き締めのためにも今が選挙の時なのです」


この秋の選挙を仮定すれば、自民大勝の可能性は大きい。だが、自民党は大勝せずとも、現状維持で十分だといえる。新たな4年の任期を手にすること自体が重要で、その間、基本的に選挙の心配をせずに教育改革、憲法改正、皇室典範改正など、大目標とする政策実現に集中出来るという読みである。

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