闘うコラム大全集

  • 2014.09.27
  • 一般公開

目先のことに振り回され機能不全に陥る朴政権

『週刊ダイヤモンド』 2014年9月27日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1052


韓国の司法当局は9月16日までに「産経新聞」ソウル支局長の加藤達也氏に対する出国禁止措置をまたもや延長した。8月8日に加藤氏にソウル中央地検が出頭を要請し、翌日出国禁止措置が取られて以来、4度目の延長である。


氏は、セウォル号沈没事件当日、朴槿恵大統領の日程に「7時間の空白」があったことに関して、現地有力紙「朝鮮日報」が報じた内容を引用して、男性と会っていた可能性を示唆する記事を産経デジタル版で報じた。


これに対し韓国司法当局がいきなり出頭を要請したわけだが、もともとの情報を報じた朝鮮日報の崔普植記者には書面による事情聴取のみだ。崔氏は「自身は記事の中で男女関係などの表現はしていない」として、産経の記事を「扇情報道」だと非難している。


崔氏の産経批判は報道の自由というテーマの前では小さな問題である。加藤氏に対する韓国司法の対応はすでに「ウォールストリート・ジャーナル」や「フランス通信」などで批判され、国連でも問題視された。加藤氏が検察当局に起訴されるような事態になれば、朴政権は国際社会のより強い批判に直面するだろう。


この種の情報に朴大統領は極めて敏感な反応を見せている。例えば9月16日の閣議で「(7時間の空白時に)大統領が恋愛をしていたという話」について、それは「うそだと思う」と発言したにすぎない野党議員を、大統領は厳しく非難した。


野党議員は明確にうそだと思うと述べている。それでも大統領は「大統領の恋愛」という表現に憤って語った。


「国民を代表する大統領に対する冒涜的な発言は度を越えている」「こうした政界の発言は育ちゆく世代に嫌悪感を与え、国会の品位を大きく落とす」


大統領の言い分にも一理あるかもしれない。また大統領は、独身であればこそ身辺の人間関係をきれいにしておき、あらぬうわさが立たないよう努力してきた人物でもあろう。だから「大統領の恋愛」などと書かれて、潔癖を好む感情が害されたのは確かだろう。大統領の自伝からも彼女の潔癖性は伝わってくる。およそ誰も信用せず、自身の心に忠実な人物であることも読み取れる。疑いを抱かれただけで憤りが収まらないのだ。


憤りを忘れないことは重要だが、感情にからめ捕られて正常な判断ができないとしたら、問題だ。この場合、指導者として示すべき正常な判断とは、民主主義国として韓国も言論の自由を守るというメッセージを発信することだ。三権分立の下では司法への政治介入は慎むべきだが、韓国の国際社会における評価に密接に関わる事案である。大統領の一言があっても少しもおかしくない。


が、閣議でも怒りを隠し切れない人物にそれは期待できないだろう。感情抑制ができず、目先のことに振り回されがちな朴政権の下で韓国は、いま無政府状態に陥りつつあるといってよい。例えば4月16日にセウォル号事件が起き、5月2日に通常国会が開催された。以来今日までの4カ月以上、ただの一本も法案を通し得ていない。国会が機能停止に陥っているのだ。


ソウルなど大都市では従北勢力といわれる親北朝鮮反韓国勢力や、保守系勢力などさまざまな背景を有する団体が国会解散を求めて署名集めを開始した。右の勢力にも左の勢力にも、現状への不満が鬱積しており、朴大統領の置かれている状況は極めて厳しい。政権発足時から国内で守勢に立たされた大統領は、政権の土台を強化するために、反日という禁じ手を多用してきた。


韓国の生きる道は外交、安全保障で日米両国と強力な関係を築くことしかないにもかかわらず、朴大統領の政策はこうした大戦略とは正反対だ。加藤氏の拘束が朴政権の機能不全にさらに拍車を掛けると、私はみている。

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