闘うコラム大全集

  • 2015.03.14
  • 一般公開

現実感増すイランの核兵器保有 重視すべきネタニヤフ首相の警告

『週間ダイヤモンド』 2015年3月14日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1075


イスラエルのネタニヤフ首相はおよそいつも「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙など米国のリベラル系のメディアにあしざまに批判される。イスラエルがイランやパレスチナなど、“敵対的”な国あるいは民族にいわば囲まれる形で、国際社会の中で生き延びるために、ネタニヤフ首相は、非常に現実的かつ強硬な話をする。NYTなどはそれを嫌い「超右翼主義者」という形容詞で報じる場合が多い。


しかし、3月3日、ネタニヤフ首相が米国上下両院合同会議で行った演説は堂々たる内容で、オバマ政権に真っ正面から問題提起するものだった。

 

ネタニヤフ首相は米国が中心になって行っているイランとの核交渉を「非常に悪い取引」だと断じたのである。米国主導の、つまりオバマ大統領主導の合意案ではイランの核保有は阻止できない。イランの平和的核利用を認める結果、核施設は廃棄しないという案はイランの核計画に必要な施設をほぼ無傷で残すものだと、主張した。

 

オバマ大統領は現在の合意案では、イランが製造を決断してから実際に核兵器を保有するまでに一年かかる、米国など国連安全保障理事会常任理事国が中心になって、イランの核開発を阻止することができると主張する。核計画を制限する合意の履行期間を「10年以上」としているために、その間の核開発も不可能だというのだ。

 

だがネタニヤフ首相はオバマ大統領の考えが楽観的過ぎるとし、イランが核兵器製造を決断して実際に保有するまでは1年よりずっと短いと、イスラエルの情報では分析されていると説明する。履行期間10年ということは、その先は制限が撤廃され核兵器製造が可能になるということであり、結論としてイランの核保有は阻止できないのではないか、と反論する。

 

ネタニヤフ首相の警告する通りイランが核兵器保有に至る可能性は高いと、専門家らもこれまで繰り返し指摘してきた。イランが核を持つとき一体何が起きるだろうか。中東諸国が激震に見舞われるのは目に見えている。イランの核保有を恐れる気持ちはアラブ諸国に非常に強い。加えて米国の中東政策に頼りながらも、オバマ大統領の軍事介入に対する消極姿勢にアラブ諸国の不安は拭えない。

 

従ってイランが核保有に至るとき、サウジアラビアをはじめとする近隣諸国は米国の核で守ってもらうという発想よりも、自らの核武装を選ぶことは十分にあり得る。そのとき、すでに崩壊気味の核拡散防止条約(NPT)は最終的に破綻するだろう。

 

一方でイランは自国の核の一部をイスラム過激派の手に渡しかねない。あらゆる意味で、核兵器が一挙に拡散する危険性が生じかねない。このような最悪の事態にどう対処するのか。

 

オバマ大統領はこうした世界規模の危機に対処しかねている。振り返ればオバマ大統領は、イランの核開発の危機にかつて一度も積極的に取り組んだことはないのではないかと思えてならない。

 

オバマ大統領は、イランが核兵器を完成させる前に関連施設を攻撃すべきだというイスラエルの考えを、再三、けん制してきた。イスラエルの存亡に関わる核攻撃の危険について、オバマ政権はあまりに危機感を欠いているとネタニヤフ首相が考え、批判するのも当然であろう。

 

ネタニヤフ首相はホワイトハウスの頭越しに野党共和党によって招かれたが、オバマ大統領の意向を気にして訪米と演説を取りやめることをしなかった。上下両院合同会議には50人以上の欠席者が出たが、それでも自説を曲げることはなかった。オバマ大統領はネタニヤフ首相が実行可能な、検証可能な案は示さなかったと批判したが、それでもネタニヤフ首相の警告は重要な意味を持つと私は思う。

言論テレビ 会員募集中!

生放送を見逃した方や、再度放送を見たい方など、続々登場する過去動画を何度でも繰り返しご覧になることができます。
詳しくはこちら
Instagramはじめました フォローはこちらから

アップデート情報など掲載言論News & 更新情報

週刊誌や月刊誌に執筆したコラムを掲載闘うコラム大全集

  • 異形の敵 中国

    異形の敵 中国

    2023年8月18日発売!

    1,870円(税込)

    ロシアを従え、グローバルサウスを懐柔し、アメリカの向こうを張って、日本への攻勢を強める独裁国家。狙いを定めたターゲットはありとあらゆる手段で籠絡、法の不備を突いて深く静かに侵略を進め、露見したら黒を白と言い張る謀略の実態と大きく揺らぐ中国共産党の足元を確かな取材で看破し、「不都合な真実」を剔抉する。

  • 安倍晋三が生きた日本史

    安倍晋三が生きた日本史

    2023年6月30日発売!

    990円(税込)

    「日本を取り戻す」と叫んだ人。古事記の神々や英雄、その想いを継いだ吉田松陰、橋本左内、横井小楠、井上毅、伊藤博文、山縣有朋をはじめとする無数の人々。日本史を背負い、日本を守ったリーダーたちと安倍総理の魂と意思を、渾身の筆で読み解く。

  • ハト派の嘘

    ハト派の噓

    2022年5月24日発売!

    968円(税込)

    核恫喝の最前線で9条、中立論、専守防衛、非核三原則に国家の命運を委ねる日本。侵略者を利する空論を白日の下にさらす。 【緊急出版】ウクライナ侵略、「戦後」が砕け散った「軍靴の音」はすでに隣国から聞こえている。力ずくの独裁国から日本を守るためには「内閣が一つ吹っ飛ぶ覚悟」の法整備が必要だ。言論テレビ人気シリーズ第7弾!