闘うコラム大全集

  • 2015.04.09
  • 一般公開

川内原発の安全性、報道の偏り

『週刊新潮』 2015年4月9日号

日本ルネッサンス 第650号


3月17日、関西電力が福井県に立地する美浜原子力発電所1、2号機、日本原子力発電が福井県の敦賀1号機を廃炉にすると発表した。翌18日には九州電力が佐賀県の玄海1号機、中国電力が島根1号機をそれぞれ廃炉にすると決定した。

 

一方、停止中の原発の再稼働が足踏み状態だ。日本における原発の未来展望は非常に暗く、日本を除く少なからぬ国で新しい原発の建設が急ピッチで進められ、高い水準にある日本の原発技術に対する需要が高まっているのとは対照的である。

 

日本で原発再稼働が進まないのは、原発の安全性や信頼性について国民の理解が得られていないからだ。その大きな要因として、バランスを欠いた報道があると言わざるを得ない。メディアの責任は、本来、原発への賛否を超えて、何が危険で何が安全なのかについて、出来るだけ客観的で科学的な知識を提供することだ。だが、反原発の立場に立つ余りか、そのような公正な情報の提供は少ない。3月24日のテレビ朝日「報道ステーション」の川内原発の報道で、とりわけその思いを強くした。


「川内原発この夏にも 再稼働目前で・地震想定・大丈夫か?」と題した特集で、キャスターの古舘伊知郎氏が次のように語っている。


「あの4年前の福島第一原発の事故をもう一度考えてみますと、津波の到来によってさまざまなものが壊れて、結果全電源の喪失に至ったという見方もある中で、反面、いや、そのもうちょっと前に起きた地震によって機器の一部が損傷して壊れた、地震による破損によってああいう苛酷なものになっていたんじゃないかという地震破損説がありました」「地震によるものなのか、津波で壊れたのか、そこがハッキリしないまま今に至ってしまっている」

 

古舘氏は、川内原発再稼働は十分な検証を経ているのかと、疑問を提起しているわけだ。


問題提起そのものが間違い

 

3月27日、インターネット配信の言論テレビの番組「君の一歩が朝を変える!」で私は北海道大学教授の奈良林直氏と共に、古舘氏の番組の問題点を話し合った。奈良林氏はまず、原発事故が津波によるものか地震によるものか、「今に至」るまで「ハッキリしない」という問題提起そのものが間違いだと語る。

 

原発事故がなぜ起きたかについては、4つの事故調査委員会が調査済みだ。国会事故調、政府事故調、東電事故調、民間の専門家が作った民間事故調である。「報ステ」は国会事故調の元委員、石橋克彦神戸大学名誉教授のコメントを採用している。

 

4つの事故調の中で、地震によって事故が起きた、つまり、地震で福島第一原発(1F)の配管が破損されたという可能性を主張したのは国会事故調だけだった。だが、それはすでに昨年夏の段階で専門家らによって否定され、事故は津波による電源喪失が原因だったと結論づけられた。奈良林氏の指摘だ。


「昨年7月18日、原子力規制委員会が事故の分析に関する中間報告で、地震で配管が破損したという国会事故調の結論を否定しました。これは10月8日に正式な報告として受理されています」


奈良林氏が分かり易く説明した。地震で配管が破損したとすれば、当然、原子炉内の高温高圧の熱水が漏れ出してくる。その場合、水蒸気が発生し、辺りはもうもうたる湯気で一杯になり、しかも轟音が発生する。だが、事故調の聞き取りに際して、そのような証言は全くなかった。

 

もうひとつ、地震による破損が起きていなかったことは、1Fの1号機では津波に襲われるまで非常用復水器が作動し続け、原子炉の圧力を15分で75気圧から46気圧まで下げ、その後70気圧まで戻していたことによっても説明されている。これらは全て記録に残されており、地震で配管が破損されていれば、このように圧力を上下させる操作はできない。できたということは、地震による破損はなかったことを示している。

 

実はこの件に関して、私は昨年8月14日・21日号の当欄で詳報済みだ。専門家がすでに国会事故調の地震による破損説を否定しているにも拘らず、そのことを認めないのはどういう理由か。奈良林氏が語る。


「日本では、ずっと地震について心配してきました。しかし、地震の随伴事象として津波がある。そのことを我々原子力の専門家も反対の立場の人も見逃してきたのは大きな反省点です。いま、本当に原発の安全性を高めようとすれば、1Fの事故原因に向き合わなければなりません。事故原因の正しい把握こそ重要で、反原発のために地震原因説を強調するとすれば公正ではありません」


放送倫理違反


「報ステ」の中で、石橋氏は次のように語っている。


「規制基準の規則で定められているのは内陸地殻内地震、それからプレート間地震、それから海洋プレート内地震、それぞれについて敷地に大きな影響を与えると思われる地震を検討用地震として選定して、それぞれについて地震度を評価しなさいっていうふうに決まっているのに、九州電力は(川内原発で)内陸地殻内地震しか取り上げていない」

 

これも事実と異なると、奈良林氏。


「九電のHPにも原子力規制委員会のHPにも、九電の報告書が載っています。3つの地震の中で最も大きな震動を引き起こすのが内陸地殻内地震で、これは更に2つに分かれます。震源を特定した地震動と、特定しない地震動です。後者が一番大きな震動を与えます。九電はその前提で計算し、540ガルの値を出しました。川内の耐震は540ガルを上回る620ガルでなされています」

 

3・11で最も震源に近く、従って最も強い地震動に見舞われたのは東北電力女川原発で、そのときのガル数が575、川内原発はそれを上回る620ガルを想定して耐震を行っている。それだけ安全の幅を大きくとったということだが、番組ではそのことは報じられていない。

 

実は「報ステ」は、この同じ川内原発の報道に関して、今年2月9日、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会の意見書で厳しく批判された。対象となったのは昨年9月10日の放送で、BPOは「客観性と正確性、公平性を欠いた放送倫理違反」だと厳しく指摘した。

 

具体的には、「竜巻をめぐる質問に答えた原子力規制委員会の田中俊一委員長の発言を、火山に関する発言になるよう編集した」などと指摘された。その同じ川内原発に関する3月の報道を見る限り、古舘氏らの偏向報道はまだ正されていない。こんなことで日本のエネルギー政策が曲げられてよいはずはない。

 

実は、同番組に関して指摘すべきことはまだある。南海トラフ巨大地震と川内原発の関係だ。同件に関しては稿を改めて指摘したい。

言論テレビ 会員募集中!

生放送を見逃した方や、再度放送を見たい方など、続々登場する過去動画を何度でも繰り返しご覧になることができます。
詳しくはこちら
Instagramはじめました フォローはこちらから

アップデート情報など掲載言論News & 更新情報

週刊誌や月刊誌に執筆したコラムを掲載闘うコラム大全集

  • 異形の敵 中国

    異形の敵 中国

    2023年8月18日発売!

    1,870円(税込)

    ロシアを従え、グローバルサウスを懐柔し、アメリカの向こうを張って、日本への攻勢を強める独裁国家。狙いを定めたターゲットはありとあらゆる手段で籠絡、法の不備を突いて深く静かに侵略を進め、露見したら黒を白と言い張る謀略の実態と大きく揺らぐ中国共産党の足元を確かな取材で看破し、「不都合な真実」を剔抉する。

  • 安倍晋三が生きた日本史

    安倍晋三が生きた日本史

    2023年6月30日発売!

    990円(税込)

    「日本を取り戻す」と叫んだ人。古事記の神々や英雄、その想いを継いだ吉田松陰、橋本左内、横井小楠、井上毅、伊藤博文、山縣有朋をはじめとする無数の人々。日本史を背負い、日本を守ったリーダーたちと安倍総理の魂と意思を、渾身の筆で読み解く。

  • ハト派の嘘

    ハト派の噓

    2022年5月24日発売!

    968円(税込)

    核恫喝の最前線で9条、中立論、専守防衛、非核三原則に国家の命運を委ねる日本。侵略者を利する空論を白日の下にさらす。 【緊急出版】ウクライナ侵略、「戦後」が砕け散った「軍靴の音」はすでに隣国から聞こえている。力ずくの独裁国から日本を守るためには「内閣が一つ吹っ飛ぶ覚悟」の法整備が必要だ。言論テレビ人気シリーズ第7弾!