闘うコラム大全集

  • 2015.08.01
  • 一般公開

中国の意向気にして情報を公開しない外務省主導の対中・対北外交の甘さ

『週刊ダイヤモンド』 2015年8月1日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1094 


7月22日、政府は、中国が東シナ海日中中間線のすぐ近くでガス田開発を急速に進めている実態を15枚の写真を基に公表した。菅義偉官房長官は記者会見で2013年6月以降に新設されたプラットホームや土台は12基に上り、開発済みのものと合わせると、16基に達することを明らかにした。

 

中国による増設のペースは速く、13年に3基、14年に5基、15年に4基である。それを7月23日の「読売新聞」朝刊はまるで「雨後の竹の子」だと表現した。

 

外務省ホームページ上の公開写真ではいずれのプラットホームも作業員用宿舎とガス掘削施設、ヘリポートを備えている。専門家は宿舎は3桁の数の人員を収容可能な規模だと指摘する。

 

菅氏は昨年11月の北京での初の日中首脳会談で、安倍晋三首相が習近平国家主席にプラットホーム増設に強く抗議したことを明らかにしたが、中国側は日本政府の抗議を無視して建造を続行していたのだ。


「ヒゲの隊長」、佐藤正久参議院議員は7月17日、インターネット配信の「言論テレビ」で次のように語った。


「海上自衛隊は日々、東シナ海の哨戒活動を通して中国のガス田開発の映像を記録しています。新たな動きは逐一政府中枢に報告しています」

 

報告は原則として防衛、外務、経済産業の3省に送られ、そこから国家安全保障会議(NSC)に上げられる。このプロセスの中で東シナ海の中国による侵略的開発の事実は非公開にされてきた。私の疑問はなぜ、約3年間も日本政府は東シナ海の状況を公開しなかったのかという点だ。

 

複数の関係者によると、情報を非公開とした主体は外務省とNSCだという。NSC事務局長は外務省出身の谷内正太郎氏である。7月23日の「朝日新聞」朝刊も今回の公表について、「外務省幹部」が「『官房長官から宿題を出されたので回答せざるを得ない』と、公表の背景に官邸の意向があったことを認め」たと報じた。外務省任せなら、中国の東シナ海での蛮行は現在も公表されていなかっただろう。

 

中国外務省は日本側の公表について、即、「ことさらに対立をつくる意図があり、両国の関係改善に何ら建設的な意義を持たない」と反発したが、中国の行動こそ、建設的ではない。

 

日中中間線から申し訳程度に中国側に入った海域での開発は、ガス田が海底で日本側につながっている可能性が高いだけに問題視するのは当然である。また中国は「傾斜掘削」という方式を開発したといわれる。中国側から掘削パイプを下ろし、海底を這うようにして中間線の日本側に入り、日本のガス田にまでパイプを延ばし、ガスを掘り出す技術だという。

 

日本の資源が盗まれることに加えて、一連の施設の軍事利用も警戒しなければならない。南シナ海の埋め立てを中国は当初、平和利用だと主張した。米国が逆立ちしてももはや埋め立てた島を元に戻すことが不可能になった時点で、初めて中国は人工島の「軍事利用」を宣言した。同じことが東シナ海でも起き得ると警戒するのは当然だ。

 

にもかかわらず外務省は中国の意向を気にして3年間、情報を非公開にした。外務省は9月初旬の日中首脳会談の実現を目指して交渉中だ。中国の一方的開発に目をつぶったのはそのためだろうか。それでどんな日中首脳会談を行おうというのか。

 

外務省は北朝鮮外交でも、大失敗を犯している。昨年7月、拉致被害者を調査する特別調査委員会を立ち上げただけで、制裁を1部解除したのだ。1年が過ぎた今、何の成果もない。先に譲歩することで相手も同様にしてくれるという甘い外交で成果を得られるはずがない。対中国でも同様だ。安倍首相は外務省主導の対中、対北外交を根本から見直すべきではないか。

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