闘うコラム大全集

  • 2013.03.23
  • 一般公開

お金の使い方に人、社会、国家の性格が最も正確に表れる

『週刊ダイヤモンド』 2013年3月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 978 


春闘で軒並み満額回答が出されている。裾野が広く経済全体に大きな影響を与える自動車業界では、大手10社中マツダを除く全社が満額回答だ。円安の影響もあるが、安倍晋三首相の経済界に対する賃上げ要請がきっかけになっているのも確かであろう。

国内需要も中国市場も低迷する中での賃上げはかなりの負担だとの分析もあるが、一連の満額回答の背景に日本的経営の精神があるのではないかと思えてならない。

日本にも高額の年収を手にする経営者は存在する。例えば大東建託の多田勝美前会長の8億2300万円、タカタの故高田重一郎前会長の6億9500万円(ビリオネア・リサーチグループ、2011年8月4日)などだ。

ちなみに、同年、日産自動車のカルロス・ゴーン社長は年収9億8200万円、ソニーのハワード・ストリンガー会長は8億6300万円を得ていた。

こうした高収入の経営者は、しかし、日本ではむしろ例外的で、日本企業の社長報酬は一般社員のそれの20倍以内にとどまっているのが通常のケースだという(「アメリカの格差、日本の格差」プロトピックス、09年7月号、西浦道明)。

日本と対照的に、米国の社長と一般社員の年収の差は275倍だと紹介されている。こんな数字をたどるうちにブッシュ政権の国務副長官を務めたゼーリック氏は政権入りする前、ゴールドマン・サックスで得ていた年収が当時の為替レートで69億円だったのを思い出した。

日本は格差社会だといわれ、年収200万円以下の人が増えているのも確かだが、経営者と社員の格差は、国際社会の水準で見れば大きくはない。こうした点は、日本式経営の長所の一つだといってよいのではないか。

同じアジアの大国である中国が、類例のない格差社会であるのはすでに広く認識されているが、その詳細を見てみよう。中国の国民1人当たりの所得は5400ドル(1ドル100円換算で54万円)である。その国で、政府要人中の要人、温家宝前首相の一族の蓄財は27億ドル(2700億円)だった。桁違いの格差と腐敗である。

驚く数字はまだある。中国共産党8200万人の懐に入る賄賂が年間約80兆円とみられているのだ。日本の一般会計予算92兆円に迫る信じ難い額の不正なお金があって初めて、温家宝氏をはじめとする信じ難い額の蓄財が可能になっているのだ。

彼らがそのうち約10兆円を毎年海外に送金していることも統計から読み取れるのだが、それは何を意味するか。

温家宝氏も胡錦濤前国家主席も、凄まじい経済格差を放置すれば中国共産党下の中国は崩壊すると語っている。彼らは本気で国民の蜂起、つまり革命を恐れているのである。その恐れがどれほど強いか、習近平政権の常務委員、王岐山氏が昨年12月に出した全共産党員への指示から読み取れる。王岐山氏はフランスの思想家トクヴィルの『旧体制と大革命』を読むようにと指示したのである。これは腐敗と特権に凝り固まったフランス貴族が国民から見放された結果、血の革命が起きたことを指摘した書である。毎年10兆円規模の海外への送金は、万が一海外に脱出しても十分豊かに暮らしていくための準備金と考えてよいだろう。

お金の使い方、使われ方こそ、その人、その社会、その国家の性格を最も正確に表現する。デフレ脱却を目指して今年の春闘で経営者も社員も富を少しずつ分かち合い、その循環を裾野に広げていく日本的経営を大事にしたいものだ。こうした中、安倍政権がTPP交渉参加を表明。日本的経営とTPPは相いれないという意見があるが、必ずしもそうではないだろう。日本の経営の特長は、その優しさに加えて、本来、資金調達や雇用形態なども非常に柔軟だったことを忘れてはならない。

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