闘うコラム大全集

  • 2015.10.22
  • 一般公開

外務省無策で、記憶遺産登録

『週刊新潮』 2015年10月22日号

日本ルネッサンス 第676回


国連教育科学文化機関(ユネスコ)記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺文書」が登録される。


「慰安婦関係資料」は今回は却下されたが、彼の国は次回審査に向けて韓国、北朝鮮、インドネシア、オランダを巻き込んで申請する計画だとも伝えられる。


「南京大虐殺」など存在しなかったことは、これまでの研究で明らかにされている。韓国政府の主張する慰安婦の強制連行も「南京大虐殺」同様、事実ではない。にも拘わらず、中韓が捏造した歴史が、人類が忘れてはならない事柄として国際社会の記憶遺産に登録される。一体わが国政府、外務省は何をしているのか。

 

明らかに日本政府は情報発信を怠ってきた。中韓両国がこれまでの数年、国家戦略として対日歴史戦を展開してきたことに、日本外交が如何に無関心であり続けたか。ユネスコの記憶遺産とは直接関係ないが、日本外交の無策振りを示す事例を、前衆議院議員の杉田水脈氏が体験談として語った。

 

氏は14年2月の衆議院予算委員会で河野洋平氏の参考人招致を要請し、河野談話を正す国民運動を立ち上げ署名14万筆超を集めた。昨年12月に落選した氏は今年7月27日、ジュネーブの国連本部で開かれた女子差別撤廃委員会の会合に出席して、日本外交の重大欠陥を実感したという。


「参加したのは女子差別撤廃委員会の準備会合です。『なでしこアクション』代表の山本優美子さんと各々2分間の意見発表を許され、慰安婦は性奴隷ではないと訴えました。同会で発言した他の人は日弁連、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク、すぺーすアライズ、全国『精神病』者集団、大阪子どもの貧困アクショングループ、それにもうひとつ、正式名称は不明ですが非嫡出子の権利を守る団体の日本人でした。彼らからは、『従軍慰安婦は日本の重大な戦争犯罪で、日本は十分に謝罪していない』『教科書から従軍慰安婦の記述が削除された』などと日本批判が出ました」


「日本政府の回し者」

 

日本における差別が主題であるため参加者は日本人ばかり。訴えを聞く委員は、日本について余り予備知識もない外国人だ。氏が続けた。


「日弁連の人は如何にもこの種の委員会になれているように見えました。日本に選択的夫婦別姓制度がないのは女性差別だという主張や、他のNGO代表からは琉球民族やアイヌ民族など4つのマイノリティが酷い差別を受けているとの訴えもありました。日本が多額の資金を拠出して支えている国連で、多くの日本人が、恐らく何も知らない間にこのような日本非難が行われていることに、私は唖然としました」

 

山本、杉田両氏は役割を分担して的を絞って語った。山本氏は、米国では慰安婦に関する虚偽の情報が書かれたプレートや像が設置され、日本人が酷い被害を受けている。これは女性の人権という問題を超えて、日本を貶める政治的キャンペーンだと英語で主張した。

 

杉田氏は、慰安婦は強制連行ではなかった、強制連行説は吉田清治氏の捏造から生まれた、氏の作り話を歴史的証拠として32年間の長きにわたって報道した『朝日新聞』も、吉田証言を報じた一連の記事を14年8月5日に取り消したと、フランス語で報告した。彼女はまた、世界では慰安婦は強制連行の性奴隷だと考えられているが、事実無根だと断言した。こうして2人は各々、持ち時間を最大限活用して主張を終えた。

 

杉田氏らに、委員側から「あなた方は日本政府の回し者か」という詰問調の質問があった一方で、「このような見解は初めて聞いた。あなたの主張に事実の裏づけはあるのか」という、少なくとも事実関係を重視しようという問いもあった。

 

主張を裏づける根拠を示せと言われた杉田氏らに、日本で「テキサス親父」と呼ばれる評論家のトニー・マラーノ氏らが助け船を出した。


「マラーノさんは慰安婦に関する1944年の米軍の調査報告書などを引用して、女性たちは性奴隷でも強制連行でもなかったと反論してくれました」

 

杉田氏は、委員たちが「慰安婦の強制連行はなかったという主張は初めて聞いた、証拠は何か」と繰り返し質問したこと、さらに委員会の議長が「今後は慰安婦問題には2つの異なる見方があることを念頭に置いて考える」と言ってくれたことが印象的だったと語る。

 

つまり、それ以前の会議では、NGO関係者が日本を非難することはあっても、彼らに反論し、事実を基に日本擁護の主張を展開する日本人がいなかったということではないのか。国連に出入りする日本のNGOは、左翼的思想で日本非難をする人々が圧倒的に多いということでもあろう。


「性奴隷」という決めつけ


旧日本軍の蛮行を象徴する言葉として国際社会に定着している観のある「性奴隷」(sex slave)という表現は、戸塚悦朗弁護士が「多分に直感的に」考え出したと、氏自身がミニコミ誌『戦争と性』第25号(2006年5月)で回想している(『よくわかる慰安婦問題』西岡力、草思社)。

 

氏はこの言葉を用いて国連人権委員会の下部組織「差別防止少数者保護小委員会」(通称、人権小委員会)や「現代奴隷制作業部会」に日本非難を働きかけ続けたという。その結果、「性奴隷」という決めつけが国連から世界へと広がった。だが、日本政府が正しい情報をきちんと発信していれば、戸塚氏の造語が恰も真実を語る言葉であるかのように広がることはなかったかもしれないのだ。

 

さて、杉田氏らが自費参加した女子差別撤廃委員会から7月に、日本政府に質問状が届いた。慰安婦は強制連行ではないとの主張について答えよとの内容だ。杉田氏らの発言が国連の委員らの注意を喚起したのだ。正しい情報を発信すれば、そのことに耳を傾け、まともな議論が行われる余地が国連にはあるということだ。日本側が本気で慰安婦問題についての事実を語り、すでに明らかになっている資料を示せば、来年2月に開かれる同委員会の本会議で日本の主張が認められる可能性がある。そこでいま外務省がどう回答するかが非常に重要なのである。

 

慰安婦問題は始まりから現在に至るまで日本人によって捏造された濡れ衣で、中韓両国に利用された。それに対して外務省はこれまで殆んど反論してこなかった。民間の女性が必死の思いで自費でジュネーブに行き、数ある委員会の内のひとつで、慰安婦は強制ではなかったと、ようやく意見陳述し、日本政府に事実関係確認の要請がきた。外務省は今度こそ慰安婦の強制連行などなかったと明確な事実を示せ。そうしたことのために、500億円という予算が与えられたのではないか。

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