闘うコラム大全集

  • 2016.04.14
  • 一般公開

日本人にとっての4月の意味

『週刊新潮』 2016年4月14日号

日本ルネッサンス 第700回


日本にとって4月は特別な月だ。28日はサンフランシスコ講和条約が発効し、占領下にあった日本が主権を回復して独立した日で、翌29日は昭和天皇のお誕生日である。

 

29日はいま「昭和の日」に改められているが、長年「みどりの日」という訳のわからない祝日だった。それがようやく「昭和の日」という本来の由来に適った祝日になったが、みどりの日が5月4日に移され、3日と5日の谷間を埋める新たな祝日にされたのは周知のとおりだ。一方、主権回復の日として、日本全体で祝うべき28日には、国民の注意は殆んど向けられていない。

 

今年の暦で気づくのは、8月11日が「山の日」として祝日に加えられたことだ。「山に親しみ山の恩恵に感謝する日」とされているが、関係筋は、7月に「海の日」の祝日があるので、山の日も必要だと語る。

 

これで日本の祝日は年間16日にふえた。先進国中最多である。人生を楽しむ一方、余り働かないイメージのあるイタリアは日本の次に祝日が多い。それでも年間13日だ。フランスは11日、アメリカ10日、ドイツ9日、イギリス8日と続く。

 

休日はよく働いたことへのご褒美とも言えるが、その割には日本の労働生産性は非常に低い。アメリカとの比較で4割近く、ドイツとの比較では2割以上も低い。労働生産性の低さは自慢できるものではなく、日本経済が成長しない要因として指摘されている。そんな状況で、海の日があるから山の日もという理屈にならない理屈で、新たな祝日を設けたのは正しいことだったとは思えない。

 

祝日には各々意味があるはずだ。単なる休日にとどまらず、日本に生まれてこの国で暮らす人々が、日本がどういう国でどんな足跡を辿ってきたかを想い出す日でもあってほしい。4月28日に想いを致すことの重要性もそこにある。


皇室の「私的行事」

 

4月にはもうひとつ大事な日があった。2600年前、初代神武天皇の崩御の日が3日だったのだ。天皇皇后両陛下が秋篠宮御夫妻を伴って、奈良県橿原市の神武天皇陵で式年祭に臨まれたと報じられた。陛下は神武天皇の御霊への御自身の想いを「御告文(おつげぶみ)」に託して読み上げられ、神武天皇を祭る橿原神宮も参拝された。他方、皇太子御夫妻は皇居皇霊殿での儀式に「古式ゆかしい装束」で参列された。

 

おかしなことだ。どの報道を読んでも、式年祭の様子がよく伝わってこない。神道に基づく式年祭で捧げられた御告文はどんな内容なのか。日本の求心力の中心軸であり続ける皇室の、その初代天皇である神武天皇に、現代日本国民を代表して御告文を捧げた今上天皇のお気持は那辺にあるのか。要点だけでも国民に知らせることが大事だと思う。

 

また皇太子御夫妻以下皇族の方々が身にまとわれた「古式ゆかしい」衣装とはどんな衣装なのか。視覚的に想像するためにも、説明がほしい。

 

更に皇太子御夫妻は古式ゆかしい衣装に身仕舞を整えるに当たって斎戒沐浴をなさったのか。それとも今回の祭式ではそこまでの必要はなかったのか。皇室の神事には殆んど欠席されていた雅子さまが今回出席なさったのは、ご体調の改善として喜んでよいことなのか。以降は皇室そのものと言ってよい神事に携わっていかれるのか--国民として知りたいことは少くない。


「産経新聞」記者の山本雅人氏が著した『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書)には、神武天皇祭についてざっと以下のように書かれている。

 

神武天皇崩御の日には皇霊殿で午前10時から祭儀が行われる。宮内庁楽部によって「東遊(あずまあそび)」が奏され、天皇が御告文を読み上げられ、皇后、皇太子御夫妻が拝礼される。皇霊殿・御神楽(みかぐら)は午後5時から未明まで続けられる。

 

一日中続く祭儀と、明け方まで奉納され続ける御神楽から、歴代天皇が神武天皇の御霊に感謝し、御霊に喜んで戴けるよう心を尽してきたわが国の歴史が窺われる。今年は2600年の特別の式年祭であるために、天皇皇后両陛下は遠い橿原神宮に参られたのであろう。そこに秋篠宮御夫妻を伴わせ、皇太子御夫妻は皇居に残られた。

 

このように大事な祭祀であるにも拘らず、メディアは本当に知りたいことを伝えていない。現行憲法の下では祭祀はすべて皇室の「私的行事」とされているからか。祭祀は本来、皇室の最重要の仕事であり、その位置づけは今日も変わるまい。祭祀はかつては国の行事でもあった。それを現行憲法は、皇室といういわばひとつの家族の内々の行事に格下げした。「私的行事」であるために、メディアも詳報せず、国民の目にも耳にも、皇室行事の実態は伝わらない。皇室と国民との縁は遠くなりがちで、これは日本にとって不幸である。


日本の国柄

 

いま習近平主席は「中国の夢」、「偉大なる中華民族の復興」というスローガンを掲げる。習氏の目指す強く大きい中国がうまくいくとは限らない。それでも周辺国は中国の脅威を恐れ続け、属国化されないための努力を重ねている。最大の標的にされているのが日本である。捏造した歴史を世界に広げる彼らの執念に見られるように、中国は日本の精神、日本の背骨を打ち砕こうと懸命である。そんな中国の意図に屈しないために、私たちは何よりもまず、己れを知ることが大事だ。わが国の国柄を理解して彼我の違いを知り、自信をもって日本の価値観を推進していくのが最善の道だ。

 

聖徳太子(574~622)から天武天皇(?~686)、さらに聖武天皇(701~756)へと受けつがれた価値観の流れを把握しておけば、日本の国柄についての本質的理解に近づけると思う。

 

聖徳太子は小野妹子を隋に派遣し、彼らと対等の地位を勝ち取った。十七条の憲法を物し、中国とは正反対の、民(国民)を大事にする価値観を国家統治の基本として定着させた。

 

天武天皇は、日本を唐風に染めるのか、大和風を守るのかの戦いだった壬申の乱で勝利し、中国の属国化を回避した聖徳太子の路線を引きついだ。日本の国柄を守り抜き、それを伝える民族生成の物語を大和言葉による古事記として稗田阿礼に誦習、伝承させ、今日に伝えしめた。

 

聖武天皇は聖徳太子と天武天皇をこの上なく尊敬し、民と国家のために祈る祭祀王としての責務を完(まっと)うした。豊作の年には民の租税を大いに免じ、光明皇后は施薬院や悲田院を設けて病苦と貧しさから民を助ける慈善事業を確立した。

 

今上天皇及び皇后陛下の国民に寄り添われる姿勢や国民のために祈る心の源流が、このような皇室の歴史の中から生まれている。4月の暦から読みとれる日本の国柄を、これからの日本の強みとしたいものだ。

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