闘うコラム大全集

  • 2016.06.04
  • 一般公開

オバマがサミット前に沖縄の事件に言及 増幅する怒りの中で求められる冷静さ

『週間ダイヤモンド』 2016年6月4日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1135


伊勢志摩サミットに先立って行われた5月25日夜の日米首脳会談では、「少人数会合の全ての時間を沖縄県の事件に割いた」と、安倍晋三首相が危機感を表明した。その後に行った共同記者会見は夜半近くまで続いた。

 

会見で首相は、「身勝手で卑劣極まりない犯行に非常に強い憤りを覚える。日本全体に大きな衝撃を与えた。日本国民の感情をしっかり受け止めてもらいたいと(オバマ大統領には)申し上げた」と言った。

 

シンザト・ケネス・フランクリン容疑者の犯行は、日本だけでなく米国の一般常識のある全ての人々にとっても理解し難く許されざるものだ。結婚し子供が生まれて間もないというのに、襲う相手を数時間も物色していたこと自体、常軌を逸している。事件発生の第一報に、多くの人が深い驚きと強い怒りを感じたのは当然だった。

 

とりわけ沖縄の人々の胸には、過去に発生した性犯罪が次々と浮かんできたはずだ。沖縄の怒りと絶望にも似た思いは当然なのだ。「米軍再編も、沖縄の皆さんの気持ちに寄り添うことができなければ前に進めていくことはできない」という安倍首相の言葉はその通りだ。

 

石垣市長の中山義隆氏も、「許されない。何回こんなことが起こるのか」と憤る。同時に氏はこうも説いた。


「基地があるから事件が起こったというが、基地があろうがなかろうが、こんな犯罪を起こしてはいけない。犯罪があろうがなかろうが、基地の整理縮小に頑張らなくてはならない。それが政治だ」

 

政治家としての責任をきちんと遂行するためには、犯罪への怒りとともに、基地縮小はいかに実現され得るのかを冷静に考えるべきだという氏の指摘は正しい。その点から氏は事件後の状況を懸念する。


「『沖縄タイムス』も『琉球新報』も事件を政治利用するかのように反基地キャンペーンに活用しています。6月5日は県議会議員選挙です。2紙は恐らくそれまでずっと反基地キャンペーンを続けるでしょう」

 

沖縄の現地紙はいま、「全基地撤去を要求」「基地『我慢できぬ』」などの見出しで連日、反基地の主張を展開中である。中山氏が指摘する。


「そうした報道は県民の怒りを増幅させます。怒りは当然ですが、感情の渦の中で基地問題を冷静に判断する空気が薄れていくのは沖縄の未来にとって良くありません」

 

沖縄県議会の定員は48人、辺野古移設に反対し、結果として米軍再編を阻み、さらにその結果として基地全体の縮小を阻んでいる翁長雄志知事派が多数を占める。しかし、2年間の翁長治政は前向きな解決策に何ら結び付いていない。結果として翁長氏離れが進んできた。中山氏は、6月の選挙では「まともな保守派」が翁長氏陣営を逆転し過半数を占めるところまできているとみる。だがシンザト容疑者の犯行で状況は一変しかねない。再び米軍基地全廃という極論に走ることが沖縄の未来を担保するわけではない。

 

日本が目指す国際秩序は国際法を基準とするものだ。異なる主張と関心を有する国々がひしめく国際社会において、問題解決は国際法を基準にするしかない。武力による威嚇や現状変更を許さないルールの確立が大事である。

 

これは中国の脅威に直面する日本、とりわけ尖閣諸島を抱える沖縄県にとって切実な問題だ。だからこそ、中国に国際法違反の、武力を背景にした無謀な行動を取らせない態勢をつくり上げなければならず、その中で沖縄の占める位置は比類なく大きい。沖縄と共に歩むために、政府は沖縄の人々の「いつも自分たちばかりが犠牲になる」との思いを減殺する施策を急ぎ、同時に中山氏の指摘する沖縄問題での冷静さも保ち続けなければならない。

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