闘うコラム大全集

  • 2016.09.10
  • 一般公開

対中国戦略でも高まる重要性 大きな可能性を内在するアフリカ外交

『週刊ダイヤモンド』 2016年9月10日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1148


日本およびアフリカ五四カ国の首脳が集うアフリカ開発会議(TICAD)が8月27、28日にケニアのナイロビで開かれた。日本主導の同会議は、5年に1度だったのが、これからは3年に1度となる。今回初めてアフリカで開催され、安倍晋三首相がナイロビを訪れた。日本国首相として、15年ぶりのアフリカ訪問である。

 

多くの問題はあっても非常に大きな可能性を内在しているアフリカの将来は豊穣な大地のようなものだ。資本と知恵を投入し、きっかけを与えれば豊かな果実を生み出す。

 

年来の日本外交ではアフリカ大陸は必ずしも重視されてきたとはいえなかったが、今回の安倍首相のメッセージには力強いものがある。アフリカの掲げる大計画、アジェンダ2063を日本は支援し、2023年までにアフリカから国連安全保障理事会の常任理事国を誕生させる国連改革も全面的に支持するというものだ。

 

日本のアフリカ貢献の大きな柱の1つが人材育成である。安倍首相は向こう3年で5万人の青年たちに職業訓練を提供し、同時に100万人の人づくりを支援すると約束した。

 

発展途上国にとっては人づくりこそ、最重要である。人を育て技術を移転することに関して、日本にはどの国にも負けない実績があり、それは中国との大きな相違として評価されてきた。

 

それでも現実は決して甘くない。官房副長官の萩生田光一氏が語る。


「今回、多くの課題を話し合ったわけです。全般的に、日本と各国は非常に良い関係にあり、絆は深まりました。しかし、南シナ海をはじめ国際社会の共有財である海、その航行の自由について安倍首相が語ったとき、各国首脳からの反応がないのです」

 

日本による人材育成プログラムは前述のように中国とは全く異なるアプローチであり、アフリカ諸国の首脳から大歓迎されている。だが、南シナ海の一件になると、反応がなくなるというのだ。


「それで首相がもう1度、同じ趣旨の話題を持ち出すのですが、それでも全く反応がないのです。いかに中国が南シナ海や東シナ海の案件を気にして、十分な根回しをしているかが見えてきた一例です」と、萩生田氏。

 

中国は南シナ海での暴挙が世界に受け入れられないことを、フィリピンとの争いの中で痛感したはずだ。それでも、傷を最小限にとどめ、あわよくば南シナ海のほぼ全てを自国領とする主張を世界に認めさせたい、少なくとも、世界が国連を舞台にして中国非難決議をする場面などは絶対に阻止したいということであろう。

 

国連安保理での中国非難決議は、彼ら自身の拒否権行使で回避できる。しかし、彼らに国際法を守らせたいと考える日本などが取り得るもう1つの手、国連総会での非難決議はそうはいかない。総会決議に関しては常任理事国にも拒否権はなく、出席国の過半数の賛成で成立する。

 

アフリカ大陸の50を超える国々に対し、中国非難決議に関して反対の立場を取らせれば、決議を阻止することができる。国連加盟諸国200のうち、約4分の1を占めるアフリカを押さえることは、国際政治において大きな力を得ることなのだ。

 

国際政治を動かす力としてのアフリカ、また資源供給源としての重要性を念頭に、中国は早くからアフリカ外交を進めてきた。彼らの戦略性を日本は謙虚に評価し、彼らに劣らぬ外交を展開しなければならないだろう。

 

その気になれば、わが国は中国よりもはるかに真にアフリカに貢献する外交や人材育成を実施することができる。やる気になれば必ずできるのである。いまここで安倍首相の地球儀外交の意味を再度確認し、戦略を強化し、頑張ることが大事なのである。

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