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闘うコラム大全集

2017.02.02号
米新政権の始動、日本は活用できるか

『週刊新潮』 2017年2月2日号

日本ルネッサンス 第739回


「トランプ氏の政治は予測しにくいと言うけれど、アメリカ・ファーストという言葉を当てはめれば、わかり易い。ワールド・セカンド、ジャパン・サードとか、そういう感覚ですよ」


「言論テレビ」でこう語ったのは、米国大統領選挙前からドナルド・トランプ氏の勝利を予測していた木村太郎氏である。トランプ氏の政策は「アメリカ身勝手政策」とでも呼ぶべき、極めてストレートなもので、それ以上でも以下でもないというのだ。氏はこうも指摘した。


「就任演説ではトランプ氏は専門家の助言を入れて『まともな』考えを語るだろうといろいろな人が言っていますけれど、僕はそうは思わない。彼は選挙キャンペーンと同じことを語ると思いますよ」


氏の指摘どおり、1月20日の就任演説は、驚くほどこれまでのトランプ氏の発言に沿ったものだった。以下がその要旨である。


◎何十年もの間、私たちはアメリカの産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきた。


◎他国の軍隊を支援する一方で、われわれの軍を犠牲にした。他国の国境を守る一方で、アメリカの国境を守ることを拒んできた。


◎何兆ドルも海外で使う一方で、アメリカの産業は荒廃し衰退した。


◎アメリカが他国を豊かにする一方で、アメリカの富と強さ、そして自信は地平線のかなたに消えた。


◎アメリカの中間層の富は奪われ、世界中に再分配された。


アメリカが世界中の国々に貢献したにもかかわらず、被害を蒙ってきたという主張である。だから、と氏は言う。これからは他の国々の「略奪」からアメリカを守るのだと。アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇うという2つのルールを徹底し、「この瞬間から、アメリカ第一となる。貿易、税、移民、外交問題に関する全ての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するために下す」と。


倒錯した世界


日本はすでに防衛費が少額すぎると非難されている。この点において、トランプ氏の指摘は正しい。氏が選挙戦で指摘した国防における日本のアメリカ依存は異常で、日本自身が解決しなければならない問題である。日本は防衛予算のみならず、憲法改正問題でも、トランプ氏の警告にまともに向き合う必要がある。


他方、トヨタへの批判はおかしいだろう。保護主義に傾く経済政策は、自由貿易と開かれた市場で潤ってきたアメリカにも、中・長期的に見れば、負の結果しかもたらさないのは明らかだ。


トランプ大統領が就任演説で保護主義はアメリカに繁栄をもたらすと語った3日前、中国の習近平主席がスイスで行われたダボス会議(世界経済フォーラム)で、開かれた経済と自由貿易の重要性を訴えた。倒錯した世界が私たちの目の前にあるのである。


トランプ氏の就任演説に関して「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)紙は「トランプのポピュリスト政策」と題した社説で、「トランプの就任演説はポピュリズム全開政策」「支持者に受けのよい体制批判」「就任演説がどのように政策に反映されるのか、不明」「明らかなのはトランプが論争に頭から突っ込んでいったこと」だと批判した。


就任式を報じたCNNなどは、トランプ氏が「アメリカの殺戮」を終わらせると語ったことを取り上げて、盛んに疑問を呈した。WSJも「そのような表現は(トランプ氏が信頼を寄せるプーチン大統領の)ロシアが爆撃を続けるアレッポの街に相応しい」「トランプはいつものようにアメリカの現状が実際より暗黒であると言い募る」と、論難した。


トランプ氏はトランプ氏で、メディアに「地球上で最も不誠実な輩だ」と、怒りをぶつけている。


アメリカのメディアの大半がヒラリー・クリントン氏と民主党を支持する余り、反トランプの偏向報道に傾き、現在も反トランプ報道が続いているのを見れば、トランプ氏の怒りもわからないではない。メディアとのこの険悪な関係は、客観的に見てトランプ氏の政権運営に悪しき影響を及ぼしていくだろう。


国際社会にとっての危惧も深刻だ。トランプ大統領は「古い同盟関係を強化し、新しい同盟を作る」としたが、「新しい同盟」の対象がロシアである可能性もあるのか。


トランプ氏のロシアに対する融和的姿勢と、中国に対する強硬姿勢は、どのように整合するのか。いずれも他国の領土を力で奪い取る国だ。両国の侵略は国際社会にとって受け入れることのできない点で同じである。にもかかわらず、各々に異なる姿勢を示すのは、経済的な利害得失が原因か。


国と国との関係は、価値観やイデオロギーによって、伝統的に①敵対国、②中立国、③友好国、④同盟国の4つに大別されてきた。これがいま、トランプ大統領の下で変わろうとしているのか。アメリカの長年の敵対国であったロシアを、①から外して、たとえば③の友好国に定義し直すということか。


米国の期待と日本の課題


ジェームズ・マティス国防長官をはじめ、新政権の閣僚たちはロシアを明確に最大の脅威と位置づけており、トランプ大統領とは異なる見解で、安全保障上、ロシアの位置づけが変わることはないとの見方が主流である。だが、アメリカの政策はホワイトハウスの主が最終的に主導する。同盟国や友好国をその他の国々と同列に並べるトランプ大統領の姿勢は、国際社会の枠組みを不安定化させる可能性がある。


小野寺五典元防衛相は、しかし、そのような状況下で日本が重要な役割を期待されている点に目を向けるべきだと語る。氏は就任式直前のワシントンを訪れ、トランプ新政権に近い人々と意見交換をしたばかりだ。


「ワシントンには安倍政権に対する大きな期待があります。保守系シンクタンクでトランプ政権との距離が近いとされるハドソン研究所のワインシュタイン代表が期待を語りました。トランプ大統領が国際会議にデビューするとき、是非、安倍総理に支えてほしい、トランプ氏が真っ先に電話で相談する相手に安倍総理がなってほしいと言うのです」


ワシントンにおける対日感情が好ましいのは何よりだ。しかし、日本の課題は、トランプ氏を支える力を果たして持っているのかということだ。安倍首相の外交能力が如何に優れていても、外交を支える力として、経済力と軍事力がなければならない。日本の課題はやはり憲法改正なのである。国防に関してトランプ氏の警告に耳を傾け、憲法改正をはじめとして、自力で日本を守る体制を作らなければ、中国の脅威にも備えられないということだ。



櫻井よしこ


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