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闘うコラム大全集

2017.02.11号
友を退け敵をつくるトランプ政権の未来は孤立化と衰退の道

『週刊ダイヤモンド』 2017年2月11日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1169


邦字紙は無論、英字紙の外信、経済、政治のどの面も、連日、ドナルド・トランプ米大統領関連の記事で埋まっている。米大統領選挙期間中、米国のメディアはトランプ旋風で視聴率が上がり、収益が改善したと、悪い冗談のようにいわれている。大統領になればなったで、次々と繰り出す刺激的な大統領令で、氏はメディアの主役を張り続ける。

 

トランプ政権に比較的好意的なメディアにも、しかし、次のような懸念の声は少なくない。


「(外交分野の問題で)彼には衝動はあるが、経験はない。一時的(思い付き)発言にはハラハラする」(就任演説を受けての米「ウォールストリート・ジャーナル〈WSJ〉」紙社説)

 

TPP(環太平洋経済連携協定)を永久離脱した米国は、アジア諸国を中国に接近させ、「膨張する中国抑止で米国が協力を申し出ても、アジア諸国は応じそうにない」。結果、「米国は再び中国を偉大な国にする」(米「ブルームバーグ」マイケル・シューマン氏)。

 

メディアを敵に回し続けるトランプ氏の姿勢から見て当然だが、もっと激しい批判は米「ニューヨーク・タイムズ」紙などには洪水のように溢れている。激しい攻撃と対立姿勢故に米国民の支持を得たトランプ氏は、これまでのどの大統領よりも、強引な政権運営に傾きつつある。シリア難民の受け入れ停止とイスラム教国七カ国の国民へのビザ発給の一時停止を定めた大統領令発令から、トランプ流独走の形が浮かび上がる。

 

1月27日金曜日、同大統領令が出されるや否や、激しい反発が起きた。日曜日になって、ホワイトハウスはビザ発給停止は選挙戦での公約で、大統領は公約を迅速に実現したにすぎず、その措置は「(イスラム教徒を狙った)宗教問題ではなく、米国の安全、テロリスト対策だ」などのコメントを出した。月曜日夜には、大統領令は合法なのかと疑問視したサリー・イェイツ司法長官代行を解任した。

 

同大統領令発令に至る内情を報じたWSJの記事が興味深い。大統領令は発令直前のギリギリまで推敲され、その過程で、例えば30日間のビザ発給停止が90日間に延長されるなど、より強硬になったという。

 

また、同大統領令には限られたインナーサークルの人々だけが関わっており、肝心の国務省は蚊帳の外だったこと、移民局や税関局などの現場職員も同様で、新規則をいつから実行すべきなのかについてさえ、指示はなかったことなどが暴露されている。同大統領令発令から48時間後に国土安全省がグリーンカード(永住権)保持者は入国自由だと発表したことにもその混乱ぶりが表れていた。

 

同大統領令は発表直前まで極秘にされ、その結果、法的整合性についての検討さえ十分にはできなかったわけだ。理由として、内容が事前に知られてしまえばテロリストたちは急いで米国に入国してしまう、そうなれば彼らを捜し出して取り締まることは困難を極めるからだというインナーサークルの声が報じられている。ここには、ビザ問題がいかに重要で、深刻な影響を国家戦略に及ぼすかについての理解と慎重さが見られない。

 

トランプ政権にはジェイムズ・マティス国防長官ら優れた閣僚がそろっているかもしれない。しかし、政策を決めるのはホワイトハウスである。今回の件はトランプ氏という人物の独断に伴う危うさを浮き彫りにした。

 

米国はテロリストとの戦いで、穏健なイスラム教徒の助力を必要としている。だからこそ、従来の米国政府はよきイスラム教徒をテロリストと同一視する愚行を避けてきた。トランプ氏とそのインナーサークルの人々には明らかにその配慮が不足している。友を退け敵をつくるトランプ政権の未来は孤立化と衰退の道だと思われてならない。



櫻井よしこ


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