闘うコラム大全集

  • 2017.03.04
  • 一般公開

左派勢力主導で進む韓国大統領の弾劾裁判 異議を唱える保守勢力がデモで巻き返し

『週刊ダイヤモンド』 2017年3月4日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1172


朝鮮半島情勢は北も南も緊迫事態だ。北朝鮮は金正恩氏の指示による金正男氏殺害事件という国家犯罪を引き起こした。身内の異母兄を刺客を放って外国で殺害させた最大の要因は、正恩氏の恐怖心だと分析されている。

 

正恩氏を持て余す中国は、北朝鮮は開国すべきだという考えを持つ正男氏を支持していた。正男氏は、すでに処刑された叔父の張成沢氏とも通じていた。正男・張両氏を中国政府が支援し、北朝鮮亡命政府を樹立させ、正恩氏にとって代わらせるというシナリオに、正恩氏は脅えていたという。

 

北朝鮮の現体制がどこまで保つか不透明な一方で、韓国の政治状況も同様に危うい。朴槿恵大統領は国会の弾劾訴追を受けて、現在、憲法裁判所の判断を待つ身である。その憲法裁判所に保守派が異議を唱えて3月1日に大規模デモを予定している。

 

朝鮮問題専門家の東京基督教大学教授、西岡力氏が語った。


「次の大統領選挙を含めて、左翼陣営の勢力が圧倒的に強かった韓国の政治状況が、いま、変わりかけています。保守勢力が巻き返し、3月1日の保守派主催のデモは10万人規模に達する見通しです。左翼優勢で絶対に勝てないと見られていた闘いで、保守が五分五分まで盛り返しています」


「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が一連の動きを解説した。


「韓国の保守派が、憲法裁判所にも大統領弾劾事案を調査する特別検察官にも疑問を抱いて立ち上がった理由は、当局が北朝鮮の工作に沿った筋書きで大統領を弾劾しようとしていることが明らかになったからです」

 

朴大統領は、民間人の崔順実氏への機密漏洩もしくは特別な利益提供の疑いが浮上して躓いた。直接のきっかけは崔氏の所有とされるタブレット端末だった。これをまっ先に報じたのは「中央日報」系列のテレビ局、「JTBC」だったが、タブレット端末の件は捏造だったというのだ。


「大統領弾劾という非常に深刻な事態をもたらした物的証拠を、憲法裁判所は採用せず、検証もしていません。検察もメディアも真偽を確かめようともせず、黙殺したままです。検察は国家の起訴権を独占し、国家の正義、大義を守る役所です。それなのに公正さを欠いている。結果として検察が北朝鮮を代弁する左翼陣営と結託していることに、保守が危機感を抱いたのです」

 

弾劾裁判では憲法裁判所の判断が全てである。単審制だけに、審理はより公正でなければならない。現実はしかし一方的な「人民裁判」の様相を帯びていると、洪氏は警告する。

 

3月1日のデモを主催するのは「国民抵抗本部」(共同代表・權寧海、鄭光澤)である。陸海空軍の予備役将校団、各軍の士官学校同窓会の全てが参加し、これまでに大韓民国の国旗、太極旗を掲げてデモを繰り返してきたために「太極旗集会」と通称される。彼らの要求は「弾劾棄却」「国会解散」「特別検察解体」である。

 

洪氏が語った。


「太極旗集会の参加人数が、大統領弾劾を支持する左派集会の人数を超えたのが昨年末でした。でも、メディアはそのことを伝えず、警察もデモ参加人数の発表をこの頃から取りやめました。左派勢力に不利な情報をメディアや当局が隠す。このような状況への不信から、保守派支持が増えました」

 

2月に入って韓国三大ネットワークのひとつ「MBC」が太極旗集会を積極的に報じ始め、支持はさらに広がりつつある。他方、高い信頼性を誇っていた「朝鮮日報」紙が、左翼の文在寅(ムン・ジェイン)氏が次期大統領に当選すると予測して、社論を劇的に左に転換した。その結果、読者多数が購読を中止したという。韓国は予想以上の混乱の中にある。3月1日のデモの行方を、固唾をのむ思いで見詰めている。

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