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闘うコラム大全集

2017.04.15号
自国の繁栄ばかり優先する米中により世界情勢の先行きに大きな不安要素続出

『週刊ダイヤモンド』 2017年4月15日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1178


北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、シリアでは猛毒サリンと見られる化学兵器が使用された。世界情勢の先行きに大きな不安要素が続出している。

 

諸国の蛮行を抑制するには、力のある国が力を背景に説得しなければならない。力のある国といえば、米国である。無論、中国もロシアも、その中に入る。だが中国は本気で北朝鮮の核・ミサイル開発を止めようとはしていない。ロシアはむしろシリアの蛮行を支持する姿勢である。

 

北朝鮮がミサイル4発を発射した時、中国は北朝鮮からの石炭輸入を止めると発表したが、日本海を舞台に数百隻の船が中国・北朝鮮間で物資を運び続けているという現実がある。船は北朝鮮籍だが、2年契約で中国がチャーターしたものが大半だ。

 

日本政府は日本海での船の動きを発表していないが、中国の対北朝鮮制裁破りは明らかだ。中国が本気で北朝鮮を牽制し、制裁している事実はないと考えるべきだろう。

 

米国はどうか。シリアで毒ガスが使用された件について、米国の国連大使、ニッキー・ヘイリー氏は英国、フランスと共にシリア非難を強め、「アサド政権防護に手を貸している」とロシアも非難した。国連では米国は正しい議論をしている。

 

レックス・ティラーソン米国務長官は、当初、「(アサド政権の存続に関しては)シリア国民が決定することだ」と語った。共和党の大御所で米上院軍事委員会の長、ジョン・マケイン上院議員は「現代のシリアでまともな自由選挙が行われる可能性があると信じるなど、愚かなことだ」とティラーソン氏を批判、ティラーソン氏は「ロシアとイランは(化学兵器使用による犠牲者への)道義的責任がある」と、発言を事実上修正した。

 

一方、ドナルド・トランプ米大統領の反応が的外れだ。大統領は化学兵器の使用は「大いに非難すべき」(reprehensible)で「許せない」(intolerable)とツイートしたが、その後、原因を作ったシリアでなくオバマ前米大統領を批判したのだ。


「バッシャール・アル・アサド政権のこうした極悪非道の行動は過去の(米国の)政権の不決断と弱腰さが招いた結果だ」として、オバマ氏を攻撃する一方で、肝心のアサド大統領、その背後にいるプーチン・ロシア大統領には全く言及しなかった。

 

ヘイリー国連大使は、自身の発言と大統領発言のギャップを問われて、「大統領も私も同じ目標を目指している点については何ら相違はない」と弁明せざるを得なかった。

 

浮かび上がってくるのは、米国外交の統一性のなさである。中東、ロシアなどの重要事案に関する基本的方針がいまだ確定されていない。閣僚人事はようやく決まったが、副大臣も局長も、その下の部長クラスの人事もほとんど進んでいない。掛け声を上げるトップリーダーはいても、実務を取り仕切る人材が揃わない。これではまともな外交はできない。

 

一方、トランプ大統領はあくまでも、「世界はアメリカのために何ができるか」を最重視する。無論、指導者が自国の国益を第一にするのは当然だ。しかし、米国の歴代大統領は、「世界益」も考えた。トランプ大統領はそのことを考えているだろうか。疑問である。

 

シリアにおける人権蹂躙を非難する言葉にも、犠牲者への思いは伝わってこない。世界は米国の役に立ってこそ意味があり、その余のことは殆ど気にしないとしたら、大変である。

 

習近平氏の掲げる中華思想は他国の資源、水、領土を奪い、中国共産党の繁栄につなげることを重視するばかりだが、その習氏の考え方とトランプ大統領のそれが意外なほど似ているのではないかということだ。実に不確実な時代に、私たちは入っている。



櫻井よしこ


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