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闘うコラム大全集

2017.04.20号
どこまで続く、トランプの世界貢献

『週刊新潮』 2017年4月20日号

日本ルネッサンス 第750回


4月7日(日本時間)のアメリカ軍によるシリア攻撃は驚きだった。

 

シリアで化学兵器が使用されたとの第一報が入った4日(現地時間、以下同)、トランプ氏は声明で、「許せない」とし、シリアや後ろ盾のロシアではなく、オバマ前大統領の「弱腰」を非難した。声明には犠牲になったシリア国民への特別な同情の言葉は全くなかった。ところがそれから53時間後にトランプ氏は豹変し、シリア攻撃命令を下したのだ。「女性や子供、かわいい赤ちゃんたちまで殺害された」「その悲劇が私のアサド政権への考えを根本的に変えた」と、氏は怒った。

 

真っ当な怒りである。この怒りはこれからどこまで続き、どこまで広がるのか。この怒りで、アメリカは再び世界の秩序を守り立てる国となるのだろうか。

 

シリア攻撃のニュースはトランプ氏の豪華な別荘に招かれていた中国国家主席・習近平氏にとって、驚きを超える屈辱だったのではないか。

 

両首脳は確かに和やかな話し合いの印象づくりに心を砕いた。トランプ氏は東シナ海及び南シナ海問題では国際規範の順守や、かつて習主席が軍事拠点を作らないと約束したことを守るよう要求した。

 

スプラトリー諸島に作った滑走路についてトランプ大統領は厳しく質したが、習主席は「居住用の滑走路だ」と答えたと、政府要人は語る。

 

トランプ氏は、もし中国が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止に協調しないのなら、アメリカ単独で行う用意があるとすごんだが、中国は明確には反応しない。一方で台湾、チベット、南シナ海問題では中国の原則的立場を強調した。「高高度防衛ミサイル」(THAAD)システムの韓国配備にも重ねて反対した。

 

米中間の懸案に見てとれる決定的な溝は全く埋めきれていないのである。そうした中、友好関係を演出してにこやかに会談してみせたものの、その間にアメリカはシリアを空爆していたのだ。アメリカ単独で断行した攻撃は、明らかに北朝鮮及びその背後の中国への警告である。こうしたことを習主席はディナーの終わりに告げられたのだ。


自国民に化学兵器を使用

 

ホワイトハウスの報道官、スパイサー氏の説明を聞くと、アメリカ側が周到に用意していたことが伝わってくる。トランプ大統領が攻撃命令を下したのが、6日午後4時だった。それから3時間40分後には、地中海東部に展開中の駆逐艦2隻から59発のトマホーク(巡航ミサイル)が発射された。ミサイルは8時30分から40分にかけて着弾、59発のミサイルは10分程で発射されたわけだ。

 

この頃、副大統領のマイク・ペンス氏を筆頭にレックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官、ハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官らが米議会の主要指導部や外国首脳らに説明の電話をかけ始めた。

 

すると、国連決議もなく、アメリカ単独で断行した軍事作戦を、殆どの国が理解し支持した。強いアメリカ、行動するアメリカの復活を世界が望んでいる証左であろう。

 

一方、7時頃には、トランプ、習両首脳らのディナーが始まっていた。スパイサー氏は、食事もデザートも終わった段階でトランプ氏が習氏にシリア爆撃について報告したと説明し、ティラーソン氏が習氏の反応を具体的に語った。

 

トランプ氏は、アメリカ軍がシリアをミサイル攻撃したこと、理由は、アサド大統領が国際合意に反して自国民に化学兵器を使用し、女性、子供、赤ちゃんたちを含む多くの命を奪ったからだと、説明したそうだ。

 

習氏はトランプ氏に、報告してくれたことと理由の説明に謝意を示し、「子供たちまで殺しているのであればそのような対応は必要だ、理解する」と語ったという。

 

トランプ氏の気勢に呑まれたかのような位負けした反応は、南シナ海の軍事用の滑走路を居住用だと強弁するイメージとは全く異なる。

 

翌日開催された国連安全保障理事会で、中国の劉結一大使はアメリカを名指しはしなかったが、「軍事行動は状況を複雑化し、混乱させる」と批判した。だが、なんと言っても国家主席が「理解する」と言ってしまっているのである。国連大使の批判はどうしても迫力を欠く。

 

首脳会談開催前は、中国が周到な準備で臨む一方、トランプ政権は幹部ポストも空席が目立ち準備不十分で、中国がアメリカを交渉で圧倒するのではないかと危惧されていた。それ故に、首脳会談開催は早すぎるとも言われていた。しかし、劇的なシリア攻撃によって状況はアメリカ有利に激変した。


電光石火の決断

 

プーチン大統領も気勢を殺がれたのではないか。ロシア国防省は7日になって、目標地点に着弾したのは59発中半数以下の23発でミサイルの性能は「非常に低い」と強調したが、7日の記者会見でティラーソン氏は全てのミサイルが目標を正確に捕えたこと、作戦は大成功だったことを強調している。

 

シンクタンク「国家基本問題研究所(国基研)」の太田文雄氏は「ロシアも中国も同様のミサイルを保有していますが、中国は実戦の経験がありません。全ミサイルが正確に目標を捕えていることは、中露にとっては相当の脅威でしょう」と語る。

 

だが、アメリカはロシアを敵に回さないよう十分に注意している。地中海東部で発射されたミサイルは南方向に進んでイスラエル上空から北西方向に進路を取り、ロシアの海・空軍が使用している地中海に面したラタキア近郊の基地を避けるため迂回して、内陸部にあるシャイラート空軍基地を叩いた。

 

この基地からシリア政府軍は飛び立ち化学兵器の攻撃を実施したとされている。アメリカはロシアが使用する空港には触れていないのだ。攻撃も2時間前に通告した。ロシアとの対決を回避する姿勢である。

 

そのようなアメリカに対し、プーチン大統領は関係悪化を避けようとするのではないか。国基研の田久保忠衛氏が語る。


「プーチン氏の足下では深刻な危機が発生し続けています。3月26日にはモスクワで3万人規模、サンクトペテルブルクで約1万人が反プーチン・反政府デモに参加しました。4月3日にはサンクトペテルブルクで地下鉄爆破テロも発生しました。問題山積のプーチン大統領は、強い軍事力をもって、前例のない程の電光石火の決断で攻勢に出たアメリカと、結局、協力せざるを得ないのではないでしょうか」

 

9日、アメリカ政府は原子力空母カールビンソンを朝鮮半島近海に向かわせた。北朝鮮情勢は非常に厳しく何が起きても驚かない。行動するアメリカが世界秩序を作れるか、まだ、不明だ。



櫻井よしこ


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