闘うコラム大全集

  • 2017.07.13
  • 一般公開

軍艦島を第二の慰安婦問題にするな

『週刊新潮』 2017年7月13日号

日本ルネッサンス 第761号


「月刊Hanada」8月号の「特集 国連の正体」に、藤井実彦氏が驚くべき記事を書いている。


日本軍が朝鮮半島の女性たちを性奴隷にしたという根拠のない出鱈目話をまとめたのは、周知のように国連特別報告者のクマラスワミ氏だ。クマラスワミ報告書は一読しただけで虚偽だとわかる代物である。藤井氏は藤岡信勝氏らが主宰する同報告書の研究班に入り、クマラスワミ氏が報告書をまとめる際に参考にした文献の調査に当たった。


氏が参考にした唯一の英語の文献がオーストラリアのジャーナリスト、ジョージ・ヒックス氏の『性の奴隷 従軍慰安婦』で、藤井氏はこの書が金一勉という人物の『天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦』に依拠していることを突き止めた。さらに金氏の著書が「週刊大衆」や「週刊実話」などに掲載された官能小説、漫画、さらには猟奇小説に依拠していることも突き止めた。


国連特別報告者という権威の衣をまとってまとめた慰安婦の報告書が、世間ではおよそ通用しない週刊誌記事に依拠していたこと自体、驚きだ。


こんなつまらない報告書が、今も日本の名誉を傷つけ続けているのである。なぜ外務省は反論しなかったのか。なぜ、同報告書について調査しなかったのか。


外務事務次官を長年務めたある人物は、欧米諸国は慰安婦問題に関する日本の弁明や説明は聞いてくれない、「絶望的な気分になる」と語ったが、自業自得であろう。クマラスワミ報告書を民間人の藤井氏らが調べたようにきちんと調査すれば、いくらでも説得力のある説明は可能なはずだ。欧米の知識人も、彼らの信じる「日本軍、性奴隷、強制連行」説が下品な漫画や官能小説に依拠していたとわかれば考え方を変えるはずだ。そうした調査を怠って、天を仰いで嘆息するばかりが外交官の仕事ではないだろう。


全て作り話


根拠を欠く悪質で下品な主張であるにも拘らず、クマラスワミ報告書は国際社会における日本の慰安婦批判の聖書に祭り上げられた。そしていま、同じような事象が徴用工問題でも起きつつあるのではないか。


韓国の「対日抗争期強制動員被害者連合会」は、日本に強制動員された徴用工の像を、今年8月15日、ソウル、釜山、光州の3か所に設置すると発表した。ソウルでは、日本大使館前に違法に設置されている慰安婦像の横に置くそうだ。


また、7月下旬には柳昇完監督による韓国映画「軍艦島」が韓国で封切られる。長崎県端島(軍艦島)の炭鉱に「強制連行」され、「奴隷労働」を強いられた朝鮮人労務者が集団脱走を試みて、大量虐殺されるという筋書きだ。


柳監督は「映画的想像力を加味」、「現在の韓国映画で可能な極限の技術」で、生々しく仕上げたと語っている。だが、強制連行も奴隷労働も集団脱走も全て作り話だ。


端島では日本人も朝鮮人も互いに助け合いながら暮していた、子供たちは日本人も朝鮮人も同じ教室で机を並べて学んだと、「真実の歴史を追求する端島島民の会」の皆さんが異口同音に証言している。


80代、90代の旧島民の皆さんは、端島が強制労働の地獄の島として、根拠もなく非難され貶(おとしめ)られ、それがやがて真実として定着していきかねない現状を憂えている。端島に行けば体感できるが、島は狭く、住民は文字どおり、ひしめき合って住んでいた。そうした中で、如何にして朝鮮人を拷問し、虐殺できるのか。如何にして、机を並べて勉強する子供たちの目や耳に届かないように、そんなことが可能なのかと、彼らは憤る。


映画が封切られる今夏、多くの人々がそれを観て、恐らく強い反日感情が生起するだろう。文在寅政権が日本政府に徴用工の強制連行や強制労働に関して謝罪を要求する可能性もある。


だが、前述のように、端島の実態は韓国側の主張とは正反対だったのである。日本政府は今度こそ、きちんと事実を主張しなければならない。


この際、徴用工についての日韓両政府の交渉内容を知っておくことも重要であろう。2005年、盧武鉉大統領は日韓国交正常化交渉に関する全資料3万6000頁を公開させた。徴用工についての交渉もその中にある。同志社大学グローバル・スタディーズ研究科の太田修教授による『日韓交渉 請求権問題の研究』(クレイン)から、少々長いが引用する。


韓国―我々は相当の補償を要求する。他国の国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者らの精神的、肉体的苦痛に対する補償だ。


日本―日本人として徴用されたので日本人に支給したものと同じ援護を要求するのか。被害者個人に対して補償してくれということか。


韓国―我々は国として請求する。個人に対しては国内で措置する。


日本―わが方でもそのような人々、さらにその遺族にも相当の援護措置を講じており、韓国人被害者にも可能な限り措置を講じようと思う。


事実上、決着済み


このような応答のあと、以下のようなやりとりがあった。


韓国―日本は韓国人を奴隷扱いしたにもかかわらず当時日本人だったというのは事実を隠蔽するものだ。


日本―非常に気の毒なことで、当然援護しなければならないと考える。そのような人々の名簿を明らかにすれば早急に解決できる。


韓国―若干の資料があるが不完全だ。


日本―我々もその点について整理しており、不完全であるが相互に対照させれば明らかになると考える。日本の援護法を援用し、個人ベースで支払えばはっきりする。日本側は責任を感じており、被害を受けた人に対して何ら措置を講ずることができず申し訳なく考えている。特に負傷者、行方不明者、死亡者やその家族に措置を講じなかったことは遺憾である。相互に国民の理解を促進し国民感情を宥和させるためには、個人ベースで支払うのがよいと思う。


韓国―国内問題として措置する考えであり、その支払いはわが国の手で行うつもりである。


太田氏の著書にはもっと詳しい交渉の様子が記述されており、徴用工問題では日本政府が個人補償を繰り返し申し出て、韓国政府が国内問題として措置したい、徴用工個々人への支払いは韓国政府が行うと言っているのがわかる。


こうした外交資料を読んだ盧武鉉大統領は、「請求権協定を通じて日本から受け取った無償3億ドルは、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等が包括的に勘案されているとみるべきである」として、この件を事実上、決着済みとした。


徴用工問題は、現在韓国側が言っているようなものではなかったのである。これを第二の慰安婦問題にしてはならない。韓国側の捏造に満ちた歴史戦に、日本人はできるだけ多くの知識をもって立ち向かわなければならない。

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