闘うコラム大全集

  • 2013.07.13
  • 一般公開

日本よりも中国を向く韓国の対外政策の危うさ

『週刊ダイヤモンド』 2013年7月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 993


朴槿恵韓国大統領の中国訪問時の詳細を知るにつけ、韓国と朝鮮半島の未来が案じられる。6月27、28両日の北京訪問で、朴、習近平両首脳は計7時間半、会談した。中韓間には宗主国としての中国が韓国を属国として扱った過去の既視感が漂っている。

顔合わせの席で朴大統領が「韓国と中国は感性が合いますね」と発言したが、かつて宗主国として支配し、200回以上も朝鮮半島を侵略した中国と、どのような具合に感性が合うのであろうか。自主独立の精神を持つ人間や国家にとってこの発言は理解できない。

朝鮮半島をめぐる力関係を見詰めれば中国に心を許すことが韓国の悲運を招くのは自明の理だ。にもかかわらず朴大統領は中国の顔色をうかがう。その姿は隣接する大陸国家におびえ続けなければならない半島国家の宿命を示しているのではないか。現実を見れば、中国の危険を察知できない大統領は韓国の安泰を保証できるとは思えない。

中韓首脳会談は20年以内に朝鮮半島の統一が実現することを前提に行われた。統一がどのような形で実現するのか、周辺諸国のすべてが深い関心を抱くのは当然のことだ。

日本も米国も韓国主導で、自由、民主主義、市場経済、法治などの価値観を軸に、南北統一が達成されることを切望している。そのために最大限の支援をする用意は、日米共にある。

だが、朴大統領が習主席と合意した「未来ヴィジョン声明」を読むと、朴大統領は日本のみならず、米国よりも、中国優先の政策ではないかと感ずる。右の声明には「韓半島の平和的統一の実現」を中国は支持すると記された。その後の記者会見では、しかし、中国は「自主的平和統一の実現」と「自主的」の言葉を加えた。

桜美林大学客員教授の洪熒(ホン・ヒョン)氏は、「自主的」という言葉には米国排除を狙う中国の意図が込められていると指摘する。朝鮮半島統一のプロセスからも、統一後の朝鮮半島からも、米国の介入や影響を排除するという中国の考えが「自主的」の3文字に凝縮されているというのだ。中国は米国の介入阻止に全力を挙げる一方で、自らは必ず介入し、中国の思い描く統一の形を実現させようとすると、洪氏は断言する。

こうした危険性を読み取れない朴大統領の下で、韓国は560億ドル(約5兆6000億円)相当の通貨スワップ協定の3年延長を、現行の協定に1年以上の有効期間があるにもかかわらず決定し、2017年10月まで有効とした。必要に応じて額も増やすそうだ。日韓通貨スワップ協定、総枠130億ドルの30億ドル分が、韓国が延長を要請しなかったために、7月3日に失効したのとは対照的である。

韓国はまた中国との戦略対話を従来の次官級から閣僚級に引き上げた。他方、日本の申し入れは無視し、わが国との首脳会談に応じようとしない。ブルネイでの7月1日の日韓外相会談では尹炳世外相が岸田文雄外相に、日韓会談が開催されない理由は日本にはわかっているはずだと語り、歴史問題で事実上日本を非難した。歴史問題で韓国は、中国と対日共闘体制も築きつつある。韓国の対日政策がこれほど激しく反転したことは戦後、初めてだろう。

民族の生残は四囲の状況を冷徹に観察し、自国のために最善の道を見極める能力があるか、その道を歩み続ける意思力と国家的能力があるかにかかっている。世界で孤立する中国に追随する国など、恐らく韓国くらいのものだ。対日歴史あつれきと反日感情は乗り越えられないと韓国側は言う。だが、そうした反日感情の暴発を自らに許す前に朝鮮半島が中国によって歴史上、どれほど痛めつけられたかを学ぶことだ。

客観的に考えられない国の未来こそ不安である。わが国はその隣国の戦略と国益の欠落した外交から多くを学ばなければならないと思う。

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