闘うコラム大全集

  • 2013.07.25
  • 一般公開

投票で示せ、憲法改正の国民世論

『週刊新潮』 2013年7月25日号
日本ルネッサンス 第567回


いま、憲法改正を論ぜずして、いつ論ずるというのであろうか。私たちに出された宿題は疾うの昔に期限切れだ。にも拘わらず、政党も候補者も、メディアを含む日本全体が憲法改正を論ずることを避けているのではないか。

眼前に迫る参議院選挙の最重要の争点は、紛れもなく憲法改正である。日本はいま、憲法改正を実行しなければ、自主独立の国として存続出来なくなると思える厳しい国際情勢下に置かれている。中国がどれほどの軍拡をこの瞬間も続けているか、どんな強い決意で日本を含むアジア・太平洋制覇を意図しているかを認識し、対照的に米国が内向き志向を強め、米国頼みのアジア・太平洋の安全と秩序の維持が難しくなっていることを知れば、日本の直面する状況の深刻さが見てとれる。そうした状況で、日本国民と日本国を守るのに、真に頼れるのは自国の力なのである。

そのために必要なのが憲法改正だ。現行憲法を続ける限り、日本自身が日本を守ることなど不可能である。改正しなければならないいま、私たちはどんな憲法を目指すのか、どんな国になるのがよいのかを考えなければならない。今週末の参議院選挙は責任ある日本人として、憲法改正を進めるためにこそ、投票行動を通して意思表示したい。

選挙後に、憲法改正の具体的論議を進めなければ、日本はもたないだろう。そのときに参考になる幾つかの改正案がすでに示されている。自民党、日本青年会議所、読売新聞、産経新聞などの案である。その中で最も優れているのは産経の「国民の憲法」ではないだろうか。理由は、何よりも、日本らしさ、歴史、文化、価値観を大切にしていることだ。同時に日本だけに通ずる偏狭さに陥ることなく、21世紀に通用する国際性と普遍性に富んでいる。

日本国への憎しみが出発点

ちなみに「国民の憲法」起草委員会の長を務めた田久保忠衛杏林大学名誉教授は、シンクタンク国家基本問題研究所(国基研)の副理事長である。田久保氏と4人の委員が起草委員会を構成するが、その内、西修駒沢大学名誉教授、大原康男國學院大学名誉教授、百地章日本大学教授の3氏も実は国基研の理事である。

いずれも識見豊かなこれらの人々が起草した「国民の憲法」の冒頭で、憲法改正の必要性として、田久保氏がこう喝破している。

「歴史、伝統、文化を破壊された屈辱感、という一言に尽きる」

胸に突き刺さる指摘ではないか。敗戦から占領へ、そして占領軍司令部が、憲法、教育、宗教など日本の根本的価値観や制度に変質のメカニズムを組み入れ、日本の国柄の解体を促したことを思えば、誰しも屈辱に身を灼かれるだろう。

現行憲法、とりわけ前文には「『日本』がない」と田久保氏は断じている。憲法を創った米国人には、日本人のための憲法を創る気はなかったといえる。だからこそ、日本国民の生活の隅々にまで行き渡る決め事の根本をなす最高法規としての憲法であるにも拘わらず、日本らしさが欠落しているのだ。

日本の伝統や文化の替わりに、彼らは米国の成り立ちを表現する幾つかの演説を基に日本国憲法を創った。

古代神話の時代から国と民の安寧を祈り続けてきた天皇をいただく日本と、祖国英国と税の多寡を巡って激しい戦いを経て独立を勝ちとった米国の国柄は全く異なる。戦火の中から生まれた米国の、日本とは全く異なる価値観を表現した数種類の演説の部分部分を抜きとって継ぎ接ぎし、それを日本に持ち込んで創ったのが日本国憲法である。木に竹を接いだに等しい。そんな経緯で生まれた日本国憲法に、日本の深い歴史への敬いや理解などが一切、見られないのは当然である。

日本人や日本国への憎しみを出発点とする憲法だけに、日本人にとってよいことはあまりない。その具体例を「国民の憲法」は第一章「『日本国憲法』では日本人を守れない」にまとめている。現行憲法を肯定する人もこの章を読んでみるのがよい。読んでも尚、いまの憲法を守りたいという政党は、その理由を国民に説明する責任がある。なぜなら、現行憲法では本当に日本と日本人を守ることは出来ないからだ。

日本国憲法とその精神がどれだけ変な現象や結果を生み出しているかを右の章から拾ってみる。

東京大学は最新型ロボットの開発を自ら制限してきた。結果、福島第一原発で放射線量の高い原子炉建屋の中に入れるロボットも作れなかった。なぜか。「憲法に国防の概念が欠けている」ことから生まれた軍事アレルギーゆえだそうだ。

3・11のとき、日本政府は機能的に対処出来なかった。災害列島であるにも拘わらず、現行憲法には緊急事態条項がないことが一因である。

サイバー時代の21世紀であるにも拘わらず、日本はサイバー攻撃から身を守れない。憲法の精神から専守防衛と定められているが故に、攻撃を受けてからでなければ反撃は出来ない。サイバー戦争では先に攻撃した側が圧倒的に有利である。従ってサイバー攻撃から日本を守ることは出来ないというわけだ。

憲法を守れば守るほど、日本国民と日本国を守ることが不可能になる体制なのである。

祭祀王としての天皇

続いて、「国民の憲法」は第二章「『憲法9条』が国民を不幸にする」を書いた。まさに真実そのものの章である。これは是非、読者の皆さんにも読んでほしい。そうした問題提起のあとに、「国民の憲法」は味わい深い前文を提示している。

「日本国は先人から受け継いだ悠久の歴史をもち、天皇を国のもといとする立憲国家である」という書き出しは、神話の時代から、祈る主体、祭祀王としての天皇を有する、世界で唯一の国としての日本に相応しい。「前文」はさらに続く。

「日本国民は建国以来、天皇を国民統合のよりどころとし、専断を排して衆議を重んじ、尊厳ある近代国家を形成した。山紫水明の美しい国土と自然に恵まれ、海洋国家として独自の日本文明を築いた。よもの海をはらからと願い、和をもって貴しとする精神と、国難に赴く雄々しさをはぐくんできた」

約600字、簡潔で、日本の香り高い前文である。

人間に人柄があるように、国には国柄がある。日本と韓国や中国の違いは、歴史と文化、すなわち、国柄の相違である。米国とも同様である。日本は日本の国柄を大切にするところから、日本国の未来を確かなものにしなければならない。そう考えれば、憲法改正の重要性が分かる。そのことを念頭に、参議院選挙を日本国の未来のために活かしたいものだ。

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