闘うコラム大全集

  • 2013.10.24
  • 一般公開

首相は、今こそ靖国参拝を

『週刊新潮』 2013年10月24日号
日本ルネッサンス 第579回


10月17日から20日まで、靖国神社の秋の例大祭が執り行われる。靖国参拝を長年の強い想いとしてきた安倍晋三首相にとって、現下の国際情勢を分析すれば、参拝すべきときは今を措いてない。

首相は今年8月15日、萩生田光一総裁特別補佐を代理として靖国神社に派遣した。そのとき「先の大戦で亡くなった先人の御霊に尊崇の念をもって哀悼の誠を捧げてほしい。本日は参拝出来ないことをお詫びしてほしい」と語り、10月11日にはBSフジの「PRIME NEWS」で、「国のために戦い命を落とした英霊に対して尊崇の念を示し、冥福を祈るのは国のリーダーとして当然の思いで、当然の権利だ」とも語った。

首相の靖国神社参拝への強い想いが伝わってくる。その想いを挫いてきたのが参拝を政治問題化する中韓両国の反発だった。そしていまも秋の例大祭に向けて首相参拝が「外交上の問題」として論じられている。

自民党幹部が語る。

「最大の問題はいまや中国でもなければ韓国でもない。米国なのです。オバマ大統領は中国と問題を起こしたくない。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、北朝鮮、シリアなどの問題もある。国内問題で手一杯のオバマ政権は日中間の波風を大きな負担だと考えているのです」

元々靖国参拝に反対の人々はそのような米国の意向を追い風に、首相が参拝すべきでない理由を殊更に探す。たとえば、①「A級戦犯」ゆえに天皇陛下も参拝出来ない、②戦場で命を落としたわけでもない人々が祀られるのは国民には納得出来ない、国民は支持しないなどである。

これらは本来問題にならない事柄だが、未だ蒸し返される。たとえば①である。天皇陛下が最後に靖国神社を参拝なさったのは1975年11月21日である。A級戦犯合祀の事実が明らかになったのは、それから3年半後だ。つまり、天皇陛下が参拝されないことと「A級戦犯」合祀は無関係なのである。

米国の批判

天皇皇后両陛下が靖国参拝を見合わせられたのは当時国会で議論された政教分離との関係を心配されたからではないだろうか。

その証拠に天皇陛下以下、秋篠宮さま、その他の宮家の方々も、「A級戦犯」の御霊がその他の多くの御霊と共に眠る靖国神社に、毎年、春も秋も、例大祭の度に勅使を派遣なさり、或いは供物を奉納しておられる。

次に②について。東條英機元首相も広田弘毅元首相もたしかに戦場で死亡したわけではない。しかし両氏も含めて「A級戦犯」7名は軍事占領という戦争状況の下で絞首刑となった。占領軍の支配下に置かれ、日本は法的にも物理的にも無力だった状況下での死を日本政府は法務死と呼んだ。その死は戦いの結果としての死であり、まさに戦死であろう。

元々、靖国神社は必ずしも戦場で死亡した人々だけを祀ってきたわけではない。シベリア抑留者も、もっと遡れば安政の大獄で捕らえられて刑死した吉田松陰も、祀られている。従って先述の指摘は成立しない。

「A級戦犯」合祀は国民の認めるところではないとの誤解は靖国神社にお参りすれば、氷解する。国民が祖国に殉じた人々にどれだけ感謝しているかは、参拝者の波を見ればよくわかる。春も秋も8月も、「A級戦犯」の御霊を他の戦死者の御霊と共に祀る靖国神社のあの広い境内が、身動き出来ないほどの人々で埋まる。国民が「A級戦犯」を許さないとの事実は存在しないと実感する。

首相補佐官の衛藤晟一氏が驚くべきことを指摘した。

「首相を取り囲む官僚の中には、首相参拝を命にかえても阻止するという御仁もいます。彼らも安倍政権は大事だ、長期政権にしたいと考えるから、その種の言葉が出てくるのです。しかし、国民の期待に応えるには、靖国参拝が欠かせません」

国民の期待に応えるためだけでなく、日本国の道を切り拓くためにも靖国参拝は欠かせない。首相がアーリントン国立墓地で米国軍人の霊に献花し祈りを捧げる一方で、祖国の英霊への祈りを捧げることが出来ない日本であれば、一体、誰が祖国のために働くだろうか。そんな国が持つはずはない。

だが、いま、同盟国の米国が、参拝に関して日本の前に立ち塞がろうとしているというのだ。首相参拝によって生ずる中国や韓国の対日批判を乗り切るには、米国との関係に細心の注意を払わなければならないのは当然である。そこで同盟国である米国の批判を考えてみよう。

米国の反発には少くともふたつの要素がある。①中国が主張するように、日本は歴史の修正主義に走り戦後の国際秩序を破壊しようとするのかという反発、②日中間の摩擦が米国外交に新たな負担となってのしかかるという懸念、である。

静かな決意

①に関して、日本政府は十分に米国の誤解を解くことが出来るのではないか。日米安保条約はすでに61年の歴史を有する。米国の歴史の4分の1強の長きにわたる同盟国が日本である。民間に、歴史に関してさまざまな研究や議論があるのは当然だが、日本がサンフランシスコ講和条約と戦後体制をどれだけ真面目に受け入れ、守ってきたか。その点は当事国の米国こそ知っているはずで、日本はその点を繰り返し強調すべきだ。

②については、私たちは冷静に指摘し続けなければならない。問題を起こしているのは日本ではなく中国なのだと。国際社会はすでに国際法を顧みない中国の横暴を知っている。孤立しているのは中国である。

如何なる国にとっても当然の、祖国に殉じた人々への弔いを材料にして、中国や韓国と足並みを揃えて日本非難に走ることが、如何に米国の国益に負の効果をもたらすかを、日本は米国に説かなければならない。

米国にとって日本がどれだけ重要なパートナーであるかに気付かせる努力こそ、いま最も必要だ。米国の内向き外交を、同じ価値観を共有する日本であればこそ補完出来る。日本が経済においても安全保障においても信頼出来る同盟国であり、誇りある国であり続けることが、米国の国益である。そのような日本になる第一歩が普通のまともな国にとって当然の英霊への祈りを果たすことだ。

そして私たちは好い加減、気がつきたい。中国、韓国、そして米国と、外国の思惑を気にした条件整備を優先する外交姿勢そのものが靖国参拝を政治の道具に貶めていることに。大事なのは、日本が国としての基本姿勢を静かな決意で示し続けることだ。中国の横暴が明らかないま、内向きの米国を勁い日本が補完出来るのだ。道は険しくとも、日本にこのような好機が与えられたことはかつてないはずだ。安倍首相はこの機を逃さないでほしい。

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