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闘うコラム大全集

2016.11.19号
トランプ勝利の混乱で高まる危機 日本はTPP成立と憲法改正が必要

『週刊ダイヤモンド』 2016年11月19日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1158


「米国のメディアの全てが間違った。なぜか」「トランプ氏は世論調査など信じないと言い、われわれはそれを軽蔑したが、結局、彼が正しかった。なぜか」。自問する声が米国大統領選挙の開票番組で飛び交った。


「クリントン優勢」「クリントンの圧勝でも驚かない」と報道される中、「目の覚めるような大逆転」でドナルド・トランプ氏が勝った。ヒラリー・クリントン氏はその当日、トランプ氏に電話をかけ、自らの敗北を認めたものの、支持者の前に立ち、敗北宣言をすることもなく、「今日は語らない」とのメッセージを出しただけだった。彼女の敗北感がいかに深かったか。

 

トランプ氏は上下両院の過半数も制し、強力な共和党体制が出来上がる。これは米国国民の強い不満が、政治、経済、知性、文化、制度などあらゆる分野で専門家を否定する形で噴出した結果だと、米「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙のコラムニスト、ロジャー・コーエン氏は書いた。

 

米国国民はグローバリズムの名の下に波状攻撃のようにやって来る変化に耐え切れなかったのであり、アフリカ系大統領の次に女性大統領を受け入れるゆとりはなかったとの分析だ。

 

だが、それだけではないだろう。ワシントンの体制に染まったクリントン氏への反発は尋常ではない。例えば一連のメールで判明した凄まじいカネまみれ体質のクリントン夫妻の方が、女性への暴言で非難されたトランプ氏より、より深刻な悪だという思いが強かったのではないか。クリントンびいきのNYTでさえ、「高貴な政治的大義と、疑惑にまみれた個人資産形成の間のあまりに細い道を歩む」クリントン夫妻に、人々は嫌気が差したと書いた。

 

トランプ政治はどうなるか。当初からトランプ勝利を予測した木村太郎氏は、トランプ氏は言ったことの99%を実行するだろうと語る。ざっと見て、TPPは見直す。ロシアのプーチン大統領とは対立よりも話し合いを優先する。中国に米国人の職を奪わせるようなことはさせず、日本やNATO諸国には、安全保障のただ乗りは許さないということになるだろう。

 

世界各地を荒波が襲うような状況が生まれてくるだろう。他方、米国の新体制は、なかなか整わない。こうした中で日本が構えるべきは万が一の危機、尖閣諸島有事に対してである。中国が一挙に上陸してこない保証はどこにもない。中国側に立てば、外国の紛争に「介入したくない」大統領が米国に生まれ、新体制はできておらず、最強国米国が一種のショック状態に陥っており、当事国日本の国防体制は憲法上も現実の装備上も全く整っていない今ほど、好機はない。

 

このような状況下では万が一の危機が起きかねない。安倍政権はまず、この最も身近な足元の危機に対して、可能な限りの構えをつくり、国家としての意思を中国に明確に示すべきだ。

 

その上で最速で2つのことをすべきである。まず、TPPを可決成立させる。民進党にはトランプ氏が否定するTPPを今更やる意味はあるのかという声があるが、このような無責任な発言をする政党に未来はない。TPPを成立させ、過半数を取った共和党に働き掛けることに力を注ぐのだ。

 

次に、憲法改正である。日本周辺には中国が押し寄せている。北朝鮮は核の小型化に成功し、ミサイルも手にした。朴槿恵政権は事実上崩壊し、韓国は親北朝鮮勢力にのみ込まれつつある。朝鮮半島全体が親中の色に染まる可能性がある。安倍晋三首相のロシア接近には、中国とロシアの脅威に対処する二正面作戦は不可能だという思いもあるのではないか。だが、いかなる国といかなる関係を結ぶにしても、日本に地力がなければ、しょせんは属国のようにされるだけ。憲法改正を断行して、強い日本をつくるしかないのである。



櫻井よしこ


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