闘うコラム大全集

  • 2017.11.25
  • 一般公開

米国と対等の地位を印象づけた中国 日本にとって最悪の国際環境が到来

『週刊ダイヤモンド』 2017年11月25日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1208
 


後世、ドナルド・トランプ米大統領の初のアジア歴訪は、米中の力関係逆転の明確な始まりと位置づけられるだろう。そこに含まれている歓迎すべからざるメッセージは中国共産党の一党独裁が、米国の民主主義に勝利したということであろう。中華民族の偉大なる復興、中国の夢、一帯一路など虚構を含んだ大戦略を掲げる国が、眼前の利害に拘り続けるディールメーカーの国に勝ったということでもある。


日米両国等、民主主義でありたいと願う国々が余程自覚し力を合わせて体制を整えていかない限り、今後の5年、10年、15年という時間枠の中で国際社会は、21世紀型中華大帝国に組み込まれてしまいかねない。


孫子の兵法の基本は敵を知り、巧みに欺くことだ。中国側はトランプ氏とその家族の欲するところをよく分析し、対応した。自分が尊敬されているところを形にして見せて貰うことに、過去のいかなる米大統領よりも拘る性格があると、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」が11月10日付で書いたのがトランプ氏だ。中国側はこの特徴を巧みに利用した。それが紫禁城の貸し切りと100年以上未使用だった劇場での京劇上演に典型的に表れた。


トランプ氏は、中国訪問後にベトナムのダナンでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に出席し、その後ハノイに向かったのだが、ダナンからハノイに向かう大統領専用機で行った随行記者団との懇談で、以下のように語っていた。


「紫禁城のあの劇場は、今回、100年ぶりに使用されたんだ。知ってるか? 100年間で初めて、彼らは劇場を使ったんだ。なんとすばらしい(amazing)。我々は相互に凄い友情を築いた」


トランプ氏がどれ程喜んでいるかが伝わってくる。ちなみに氏の話し方の特徴は、同じ内容を2回、3回と繰り返すことで、辟易する。たとえば、「習(近平)とは非常にいい関係だ。彼らが準備した接遇は、今までにない最大規模のもてなしだ。今まで一度もなかったんだ。彼は『国賓待遇プラス』と言った。彼は言った。『国賓待遇プラスプラス』だと。本当に凄いことだ」という具合だ。


もう一点、中国が活用した対トランプ原則が「カネの効用」だった。28兆円に上る大規模契約(スーパービッグディール)で、元々理念のないトランプ氏は民主、自由、人権、法治などの普遍的価値観に拘る米国の「理念外交」を捨て去って、彼特有の商談を優先する「ディール外交」に大きく、わかり易く転じたのである。


ではこれで中国側が得たものは何か。実に大きいと思う。まず、北朝鮮問題では、中国が最も懸念していた米軍による攻撃が、少なくとも暫くの間、延期されたと見てよいだろう。日本政府には今年末から来年にかけて何が起きてもおかしくないとの見通しがあった。しかし、米中が握った今、軍事紛争に発展する可能性は、金正恩氏が新たな核実験や今まで一度も行っていない米国東部に到達する大陸間弾道ミサイルの実験に踏み切らない限り、少なくとも、先延ばしされたと見てよいだろう。


孫娘のアラベラさんが中国語で歌う姿をトランプ氏はアイパッドで習近平夫妻に披露したが、曲目は、「希望の田野の上で」だった。習夫人の彭麗媛氏が1982年に歌ってスターダムに駆け上がるきっかけとなったものだ。「満点だ」と習氏は破顔一笑した。米国がまるで教師にほめられた学生のように見えた場面だった。


北朝鮮対処という個別案件で「最悪の軍事衝突」を回避したうえに、世界注視の中で中国は米国と対等の地位を印象づけ、中国の時代の到来を誇示して見せた。米国圧倒的優位から米中対等関係への変化は、日本にとって最悪の国際環境であることを肝に銘じたい。

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