闘うコラム大全集

  • 2019.10.17
  • 一般公開

文在寅打倒なるか、保守のデモが街を埋めた

『週刊新潮』 2019年10月17日号

日本ルネッサンス 第872回


10月3日、平穏な年なら韓国は国民こぞって「開天節」を祝っていただろう。開天節は朝鮮の神話に出てくる檀君即位の日、韓国の建国記念日だ。だが、今年のこの日、首都ソウルは文在寅政権に反対する保守派の怒りで埋まった。


インターネット配信の「言論テレビ」でデモの映像を紹介しながら、朝鮮問題専門家の西岡力氏がデモの参加人数を面積を基に計算すれば約50万人になると説明した。


デモに関しては往々にして過大な数字が発表されるが、誇張ではなく、正味50万人がデモに参加したことの意味は大きい。


「2017年3月1日、保守派勢力が当時の大統領、朴槿恵氏に対する弾劾に反対してデモをしました。光化門からソウル市庁前、南大門まで人が一杯になり、その時はやはり面積比で30万人とされました。今回は南大門からさらにソウル駅までの大通りが人で埋まっています。50万人説には信頼性があると思います」


と西岡氏。


朴前大統領擁護の保守派デモより、はるかに多い人々が街に繰り出したのだ。他方、産経新聞ソウル支局の黒田勝弘氏は、朴氏を辞任に追いやった左翼勢力主導の「ロウソクデモ」よりも今回の人数が多かったと報じている。


2年前の左右のデモを超える人々が、いま、反文在寅の旗を立ててデモをしているのである。「言論テレビ」で「統一日報」論説主幹の洪熒氏が説明した。


「主催、参加団体は多様でした。キリスト教の牧師、YouTubeなどのメディアや言論機関、大学の教授たち、これまで文政権と連携してきた弁護士、会計士などまでが曺国法相の辞任を求めて、文批判を強めました」


今回のデモは、或いは、韓国世論が大きく変化する予兆ではないのか。普通の人の姿も目立った。キリスト教会の動員力のせいか、若い男女や主婦も少なくなかった。


多くの脱北者も座り込んだ


彼らを突き動かしている要因のひとつが香港だという。750万の香港人が、14億人を擁する中国共産党と戦っている。その気迫に韓国人は目を醒まされたと洪氏は指摘する。


香港以前に、全世界は、中国共産党が中国本土で国民からあらゆる自由を奪い取るのを見詰めている。宗教弾圧はとりわけ厳しく、キリスト教徒も無慈悲な迫害の対象だ。


だが、文氏も曺氏も韓国民の中国共産党支配に対する危機感には鈍感である。むしろ中国共産党に近づくかのように、社会主義革命路線をひた走る。一般の国民が、そのような彼らに国政を委ねることへの危機感を抱き始めた。それが、10月3日の大規模デモだ。


キリスト教徒に加えて、デモに参加した海兵隊予備役官らも注目を集めたという。


「彼らは皆、文政権への抗議の意味を込めて剃髪したのです。坊主頭の屈強な男たちの一群ですから、目立つでしょう」


と洪氏。


大学の教授たちも1万人以上が「正義と真実」を求めて抗議声明に署名し、デモに合流した。


YouTuberの若者たちはデモの現場で大手メディアに抗議した。西岡氏の説明だ。


「10.3デモの取材に大手テレビ局のKBSが来ていたのです。大手テレビは本当に左傾化しています。保守の言動どころか存在さえ報じません。ですから若者たちは大型放送車の窓に『本当のことを報道しろ』と書いたプラカードを貼り付けたのです。暴力も破壊もありませんでしたが、KBSの記者たちには痛烈なメッセージになったでしょう」


10.3デモは、史上最大規模のデモでありながら、香港のような激しい暴力沙汰は起きなかった。事前に各団体が注意事項を呼びかけたからだ。武器と誤解されるようなものは一切身につけないこと、台風の影響で雨が懸念されるため、雨合羽を持参すること、但し、傘は武器と見做されかねないとして禁止した。


「体力のある者は徹夜でデモをして、そのまま青瓦台の前に座り込む。従って、寝袋と腹ごしらえの食糧を持参するようにという通達も出ました」


と洪氏。


6月から青瓦台前で一人で座り込みをしてきた全光焄牧師が指導して、3日夜、1000人単位の人々が青瓦台前で夜をすごした。週末になっても人数は減らず、座り込みが続いている。多くの脱北者も一緒に座り込んだ。彼らは人間を人間として扱わない北朝鮮から命がけで脱北した。それなのに、韓国はいま、北朝鮮に同調しようとしている。彼らはそれだけは決して許せないのである。


政治運動と関わったことのない多様な人々が街に繰り出したのは、文政権の所業が「臨界値を超えた」からだと洪氏は強調する。


反日が支柱


社会の中間層に属する「大人しい人たち」までもが行動を起こしたことをどう解釈すべきか。明らかに暫く前とは様子が違う。それを向こう側から息を詰めるようにして、逆転劇を恐れつつ見詰めているのが文氏と曺氏ではないか。娘の不正入学、不正論文、妻の金銭疑惑、その背後の黒幕である曺氏本人は暴力革命を信奉するレーニン主義者である。曺氏を罷免すれば、文氏への評価は好転するかもしれないが、文氏はそうはしない。ここで退けば彼の革命の夢は潰れてしまうことを知っているのだ。


この段階でも文氏にはまだ4割弱の支持がある。理由は主として二つ、第一の理由を洪氏が説明した。


「共産主義への盲信から目が覚めることは、自分の頭で考える力がどれだけあるかということに直結します。文氏支持の左翼たちは盲信が深いために、自分の目で見て自分の頭で考えることがなかなかできないのです」


第二の理由を西岡氏が熱を込めて語った。金日成の主体思想を奉ずる人々が今日まで存在し続けているのは、マルクス・レーニン主義に依拠するからではなく、反日民族主義に依拠しているからだという。


金日成の「偉大さ」は「日本と戦った」ことによるが、韓国の主流派は残虐な日本と手を組んだ。その汚れた親日派が親米派になり、反共派になって韓国を支配した。世界で社会主義が衰退しても関係ない、親日派を倒せば韓国は再生する。そのように信ずる人々は、日本が悪いと言っている間は大丈夫なのだ。反日が支柱である限り、社会主義や共産主義がすたれても、彼らは倒れない。


であれば、韓国再生のためには反日の間違いを正さなければならない。そのことを韓国の保守派はようやく悟った。それがベストセラー、『反日種族主義』を書いた李栄薫教授であり、弟子の李宇衍教授らだというのだ。ストンと納得のいく分析である。彼らと連帯していくのが日本の正しい道である。

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