闘うコラム大全集

  • 2019.11.28
  • 一般公開

桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

『週刊新潮』 2019年11月21日号

日本ルネッサンス 第877回


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政治家たる意味はない。


にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのように政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的に」追及するそうだ。


首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。


「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多いのが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見てもやりすぎです」


民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。


「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠があって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績があるのか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張っている方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同じでしょう」


国会で説明すると明言


安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安すぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島氏が語った。


「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代は精々1人2000~3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なことでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解しています。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識しているからです」


立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つのは難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。


「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっての公明党よりも重要だと思います」


安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受け止め)2019年11月15日」から見てみよう。


氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者クラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。


立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放った。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。


求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの姿勢ではない。


夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭などの費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。


さらに14~15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるのであれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。


「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見ということであれば、今質問して下さい」と促した。


安住氏こそ記者を侮辱


昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、いま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたのであり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下のように批判した。


「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問しろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」


どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたいとして要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答えこそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メディアを冒涜してもいない。


安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。


安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。


「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識のない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。


官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。


日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意味さに、私は戦慄する。

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