闘うコラム大全集

  • 2023.12.28
  • 一般公開

朝日が歪める政治資金「不記載」問題

『週刊新潮』 2023年12月28日号

日本ルネッサンス 第1079回


自民党派閥、とりわけ安倍晋三氏が会長を務めた清和会による政治資金規正法違反疑惑で岸田政権が大揺れだ。支持率はどの社の調査でも最低水準となり、来年の総裁任期満了を待たずに退陣か、との見方が強まる。


今回の事態は政治資金を巡る清和会の脇の甘さ、検察のリークに踊らされるメディアと、その報道に振り回される岸田文雄首相の信念のなさを鮮やかに切り出して見せた。


お金を巡る対応はその国、社会、人々の価値観や成熟度をもろに反映する。12月15日、「言論テレビ」は元東京高検検事の髙井康行氏、作家の門田隆将氏、政治ジャーナリストの石橋文登氏、『月刊Hanada』編集長の花田紀凱氏をゲストに「政治とカネ」について論じた。


番組冒頭、私が「安倍派の裏金疑惑はどこまで広がるか」と発言すると、髙井氏が遮った。


「その表現は不正確だと思います。金の流れ自体は違法でも何でもない。金の流れを記載しなかったというところが問題になっているわけです。裏金というのはマスコミが作り上げた言葉であって、事態を正確に表しているとは思いません」


すかさず門田氏が踏みこんだ。


「メディアが裏金という言葉を使うのは安倍派、清和会に対してだけで、他の派閥、岸田派が出たら不記載になる。意図的ですね」


たしかに「朝日新聞」は12月12日、1面トップで「安倍派裏金5億円か」と見出しを打ち、2日後の紙面では「岸田派不記載2000万円超か」と打った。門田氏ならずとも、「安倍派の裏金疑惑」を煽り立てようとの意図を感ずるのは当然だ。


振り返れば12月1日に朝日は「安倍派裏金1億円超か」と1面トップで伝えた。翌2日には「二階派も不記載1億円超か」と報じた。8日には「松野官房長官に1000万円超」、翌9日には「安倍派6幹部裏金か」と報じ、12日には先述の「安倍派裏金5億円か」、14日に「岸田派不記載2000万円超か」という記事が続いている。


朝日の特ダネはどう見ても検察のリークだと思える。安倍派潰しで朝日と検察は共同歩調をとっているのか。検察は朝日に書かせ、世論を形成し起訴までには「安倍派が悪い」という流れを決定づける意図か。


資金管理の杜撰さ


検察の思惑について問うと、髙井氏が反論した。「検察官は証拠という神に仕える司祭」だと強調し、証拠が全てであり、思惑などないと強く言う。


髙井氏はロッキード事件で田中角栄首相を追い詰めた伝説の検事、吉永祐介氏の言葉を紹介した。「検察ファッショだと酷く叩かれた帝人事件の轍を踏んではならない。証拠のない捜査を強行してはならない」と吉永氏は常に戒めた、その教えに検察は今も従っているという。


それでも、一連の情報リークは、検察による安倍派狙い撃ちを疑わせる。と同時に、客観的に見れば、安倍派の資金管理の杜撰さには検察の集中捜査を受けても仕方がない面がある。政治資金収支報告書には、各政治団体における全ての収支金額を記載することが義務付けられている。しかし清和会は長年、政治資金パーティーで集めた資金総額も、各議員がノルマ以上のパーティー券を売って、議員側が返してもらっていたその額も記載していなかった。ノルマ以上に売った人には、よく頑張ったと言ってその分を活動費として渡すのは何もおかしなことではない。にも拘わらず記載しなかった。


派閥も議員事務所側も記載義務を怠っていた一方で、清和会の会計責任者だけはノルマ以上の売り上げと、各政治家に戻した分の両方をきちんとリストにしていた。加えて各政治家の資金担当者を派閥事務所に呼び出し、戻したカネの受領書に署名させていた。東京地検の調べを受けたとき、なぜか安倍派の会計責任者はこうした資料一式を提出したという。驚くほど明確な証拠を入手したからには特捜部が捜査するのも当然だ。石橋氏が語った。


「政治資金規正法は一言で言えばザル法です。政治家が自分の名前で、組織活動費或いは政策活動費の名目で3000万円を党から下ろすとします。その後は一切、領収証不要なのです。小沢一郎氏が自由党の党首で、幹事長が藤井裕久氏だったとき、藤井氏は党から15億円という大金を組織活動費の名目で引き出した。そのカネは一時小沢邸に積み上げられていたなどと報じられたりしました。当時の自民党は徹底的に追及したのですが、藤井氏は覚えていないとか言って逃げ切った。藤井氏も小沢氏も罪には問われていません。彼らはよくも悪くも政治資金規正法を勉強していたのです」


国民の抱く不公平感


石橋氏の指摘どおり、政治資金規正法はザル法だ。ということは法律の内容さえしっかり理解して処理すれば、資金は自由に使えるということだ。こうしたことを知れば知る程、国民の抱く不公平感は強くなる。当然だ。


国民はマイナンバー、インボイスなどによって、所得の実に細かいところまで明らかにされ監視されている。物価も高い。それでも我慢しているのに政治家だけはこんなゆるいルールで好き放題かということになる。その上、そんなゆるいルールさえ守れずにどうするのかという怒りも湧き上がる。


ただ清和会の中でこの問題にいち早く気づいたのが安倍晋三総理だった。安倍氏は2021年11月11日に会長として清和会に戻った。派閥を長く離れていた安倍氏が派閥の資金に関する状況を聞いたのは22年になってからだ。石橋氏が語る。


「総理は政治資金について記載していない額があると知って激怒したといいます。22年2月、こんな馬鹿なことをしてはダメだと会計責任者を叱責、早速改めるよう指示した。その後、派閥の事務総長、西村康稔氏に政治資金の取り扱いを適法に行うよう指示を出したが、安倍さんは夏の選挙の応援演説の最中、7月8日に凶弾に斃れ、西村氏は翌月、事務総長を辞して高木毅氏と交代したのです」


政治資金不記載問題は安倍氏が引き起こした問題ではない。また清和会だけの問題でもない。にも拘わらず、岸田首相は朝日の報道に振り回されて安倍派切りに走った。そんな表面的な対処ではなく、政治資金をどのように扱うのか、対策を国民に示すことが必要だろう。政治資金の使途にはインテリジェンスに関するものなど含めて公開できないものも少なくない。かといって全て秘密でよいはずもない。髙井氏は一定の枠をはめて国会の秘密会で報告させ、参加者には守秘義務を課すなどの手があると語る。


検察の捜査の行方はまだ分からないが、政治資金を国益のために使える国になれるか、そこを基点にして揺るがない姿勢を岸田氏が見せられるか。それが最も重要な点だ。

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