闘うコラム大全集

  • 2015.08.15
  • 一般公開

来日の台湾・李登輝元総統を厚遇 日本の国益に合致する人権・人道外交

『週刊ダイヤモンド』 2015年8月8・15日合併号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1095


7月22日に台湾の李登輝元総統にお会いした。お訪ねすると扉のところで迎え、手を取って室内に導いて下さった。92歳になられたが、声も力強く、主張は極めて明快だった。

 

李総統は同日午後、永田町の衆議院第1議員会館で約300人の国会議員を前に1時間、講演した。総統退任後、今回が7度目の来日だが、国会施設内での講演は初めてである。「産経新聞」は7月24日、1面トップで、安倍晋三首相が李総統と23日に会談したと報じた。日台関係は着実に緊密化の度合いを強めている。来年1月の総統選挙で台湾人の政党、民進党の蔡英文氏が勝利する可能性も高く、李総統への厚遇は日本の国益に合致する。

 

李総統は、講演「台湾パラダイムの変遷」で、台湾・中国関係の問題点を以下のように語った。


「台湾の国民党政権内部には保守と革新の対立、閉鎖と開放の対立、国家的には台湾と中華人民共和国における政治の実態についての矛盾があった」

 

台湾を統治した国民党保守派の心の中には、いつの日か中国共産党に打ち勝って中華人民共和国を併合するという執念があるが、これは台湾と中国の政治の実態にはそぐわない。李総統はそうした、現状に即さない問題が生じる根本的理由は中国を中華民国の一部と定義する中華民国憲法にあり、台湾は憲法改正を含む第2次民主改革を行うべきだと述べた。

 

一方、外国特派員協会で李総統は、国民党の馬英九総統の対中接近路線は「中国一辺倒」であり、中国に過度に依存する台湾経済は「深刻な状況」に陥っていると警告した。尖閣諸島は日本に帰属するという以前からの主張も再び強調した。馬総統は李総統発言に強く反発したが、長期的に見れば李総統の考えこそ、台湾の国益になる。

 

日本と台湾は、尖閣諸島周辺海域の漁業協定に2011年4月10日に合意済みだ。台湾側に入会権を与えたこの協定は、見方によれば日本側の譲り過ぎでもあり、馬総統は同協定に関して「日本の友人の誠意と善意」に感謝した。しかし、協定も含めて緊密な日台関係の構築は他ならぬ日本の国益である。

 

中国は台湾漁民の不満を利用して彼らに抗議活動の資金を与え、政治的に領土主権の要求を掲げさせてきた。日本が台湾に大きく譲ったのは、中国が尖閣諸島の領有権を主張するのに対し、台湾は領有権を主張せず、日本と共に漁をするための入会権を優先していたからだ。中国の脅威の前で日台両国は分断されないことを示したのが日台漁業協定の政治的意味だった。


「尖閣諸島は日本領」という李総統発言は、そうした日台の政治判断を踏まえたものだ。昔の経緯をよく知る世代として、また中国の脅威に対処しなければならない政治指導者としての、常識に基づく妥当な発言でもあった。

 

日台の国益は重なるという基本理念に人権・人道重視の価値観を重ねて集ったのが、今回李総統を招いた300人の議員だった。

 

安倍氏は自民党総裁時代の12年4月にチベットのロブサン・センゲ首相も国会施設内に招いた。ダライ・ラマ法王を囲んでも同様の会を催した。いずれも3桁の議員が集った。

 

中国政府はいずれの場合も強く反発し、個々の議員に出席を取りやめるよう働きかけ、圧力を加えた。しかし、21世紀のいま、日本が中国の反対に屈することなく、自由と人権を守り、少数民族の文化文明、宗教や暮らしを尊ぶ国際社会の構築に範を示すのは、人類発展の歴史における尊い使命だ。

 

この努力は日本が日本らしく生き続けることを可能にする世界の構築にもつながる。中国は21世紀の中華大帝国の構築に余念がない。だからこそ、安倍政権の台湾やチベットに対する人権・人道外交には特別の意味がある。

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