闘うコラム大全集

  • 2015.10.01
  • 一般公開

日台の絆を深めた安保法制

『週刊新潮』 2015年10月1日号

日本ルネッサンス 第673回


9月18日午後、台北に向かい、19日午前には「両岸関係とアジア太平洋地域国際平和セミナー」に出席した。午前8時すぎに会場に行って驚いた。台湾の関係者らが「安保法制成立、おめでとうございます」と次々に声を掛けてきたのだ。


彼らは、真夜中すぎまでずっとテレビで見ていたという。中国の脅威を生々しい現実として、また重圧として感じている人々にとって、日本の安保法制の議論は到底、他人事とは思えなかったのであろう。


事情はフィリピンやベトナムなど、東南アジア諸国にとっても同様だ。アジア諸国の安保法制に対する評価は台湾同様、極めて前向きで高い。実に嬉しそうな台湾の人々の表情が強い印象となって私の胸に残ったが、「戦争法案だ」「徴兵制がやってくる」と叫ぶ人々は、中国の脅威や危機に目をつぶる余り、アジア諸国の懸念を理解していないのではないか。


台湾をはじめアジア諸国にとって、中国との向き合い方は、即、国家と国民の運命に直結する。とりわけ台湾は、自分たちが中国の一番の標的であることを常に意識させられており、独立国としての台湾の現状が、日米の存在によって維持されていることを十分に認識している。特に米国が鍵だと骨身にしみている。


そのためか、セミナーの冒頭で講演した民主進歩党主席の蔡英文氏は非常に慎重だった。来年1月の総統選挙で、彼女が台湾初の女性総統に選ばれる可能性は高い。それだけに、米中共に彼女の言葉に神経質な視線を投げかけており、彼女も必然的に慎重になっている。


かつての学者らしいイメージを残している蔡氏は、演説では安全保障や外交政策には触れず、専ら国内問題を語った。少しでも独立志向を見せれば中国の怒りを買い、波風が立つのを嫌う米国をも苛立たせる。米国の支持を揺るぎないものにするためにも、蔡氏は独立志向の色合いを見せるわけにはいかないのであろう。氏の慎重さは、中国の脅威と米国の意向を気にしなければならない厳しい台湾の現状を反映している。


最も親和性の高い民族


南シナ海の7つの島の埋め立てが完成したと中国が発表したのは6月末だった。中国は世界に工事停止の印象を与えたが、この国が侵略を中止することなどあり得ない。9月15日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のサイト「アジア海洋透明性イニシアチブ」に、中国が依然として複数の岩礁で埋め立てを続けている映像が公表された。


米国側の発表に対して、中国外務省副報道局長の洪磊氏は事実を認め、「南沙の主権は中国にある。合法で筋道が通った完全に正当な措置だ」と反論した。


南シナ海における覇権を中国が握るにつれて、台湾の運命が危うくなる。台湾の重要性は単に戦略上のことだけではないという事実を、日本はいまこそ認識しなければならないだろう。台湾人は日本にとって、恐らく世界で最も親和性の高い民族であること、それがどれ程日本にとっても大事であるかということを知っておかなければならない。


セミナーを終えた翌日、私は初めて台湾の新幹線に乗って台中に向かった。人口約270万人、緑の水田が広がる平野部を抜けるとやがてビルの林立する台中の市街地が広がる。新幹線の駅からは離れているが、街中には風情のある「臺中驛」が残されている。かつて日本人が建てた駅舎が大切に手入れをされて使われているのだ。市役所の建物も日本人が造ったままに、赤レンガと白い壁の美しい姿が青空に映えていた。


その台中市に寶覺禅寺というお寺がある。元駐日代表の許世楷氏と盧千惠夫人、黄木壽氏の案内で訪ねた。お堂を正面に見て境内左手に「日本人遺骨安置所」と刻まれた、上部が半球体の石造りで高さ2メートル余の塔がある。日本国陸海軍人及び軍属として大東亜戦争時に台湾で散華した3万3千余柱の遺骨がおさめられている。


この塔から少し離れた奥には、これまた高くて立派な碑が立っている。碑に刻まれた「霊安故郷」の文字は李登輝元総統の揮毫による。さらにその後方に「追遠亭」がある。大東亜戦争で日本国民として戦った20余万の台湾の人々の碑である。


日本国政府は戦後長い間、これらの戦没者の遺骨収集や、遺族への弔慰金支払いなどに取り組むことも出来ずにいた。「台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律」が、「台湾戦没者等問題議員懇談会」によって議員立法されたのは、1987年になってからだったと、碑の台座に刻まれている。


日本人が遺骨収集や慰霊のためにようやく台湾を訪れた時、彼らは思いがけないことを知らされた。この時までに台湾の人々が、台湾に残されていた日本人及び台湾人戦没者の遺骨を拾い集めて、台北、台中、台南の3か所におさめ、手厚く回向していたのである。


「新生国家」


私が案内された台中の寶覺禅寺はその内のひとつである。台湾で亡くなった日本人と台湾人、多くの軍人と軍属のご遺骨と御霊を祭る碑の前で手を合わせ、大東亜戦争下の台湾で没した全ての人々に心からの慰霊と深い感謝の祈りを捧げた。


日本人、台湾人の区別なく、ご遺骨をこのように集めて塔を建立し、回向を続けてくれる国や民族が、台湾の他に存在するだろうか。


台湾には、このような日台の深い絆を示す足跡がそこかしこに刻まれている。盧千惠氏が2012年に出版した『フォルモサ便り』(玉山社)には、台湾人の心優しさと日本人の心優しさが溶け合って築かれた絆の事例が多く紹介されている。その台湾が中国の一部とならずに済むことこそ、日台双方の国益である。


許世楷氏は、台湾が平和裡に国連加盟を目指すことが未来永劫中国に併合されない台湾の地位を確立する唯一の道だと主張する。目的達成の理論は、台湾は「新生国家」であるということだ。


まず、台湾は蒋介石の中華民国を継承する国ではないと明確にし、中華人民共和国は一度も台湾を支配したことがなく、台湾は中国からの分裂国家ではないと宣言する。そのうえで国連加盟を申請する。国連憲章は紛争当事国(この場合、中国)に投票権を認めない。つまり中国は台湾加盟に関して拒否権を使えない。


このような状況を作り、台湾は中国ではないと理を尽して国際世論に訴え、10年単位の時間をかけて国連加盟を目指したいと許氏は主張する。


いま日本では議員立法で台湾関係法を制定する動きがある。総裁特別補佐の萩生田光一氏は1年後を目標に置いている。日本の明確な意思表示は日台双方の国益のみならず、アジア全体に希望を与えるとの思いを強くした。

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