闘うコラム大全集

  • 2016.07.23
  • 一般公開

南シナ海問題で完敗でも拒否する中国 常軌を逸した習近平体制の暴走

『週刊ダイヤモンド』 2016年7月23日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1142


国際法を守る陣営と、守らない陣営との対立が、際立つ形で浮上した。

 

2016年7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約に違反するとしてフィリピン政府が訴えた件に関して、中国が南シナ海に独自に設定した境界線「九段線」には法的根拠がないとの判断を示した。裁定は確定的で上訴は許されない。


「南シナ海は2000年前の古代から中国の海」としてきた主張が全面的に否定された。中国の完敗である。

 

裁定の骨子は、南シナ海のほとんど全てを中国領だとする根拠としての九段線の否定の他は、以下の通りだ。


・中国がスプラトリー諸島のミスチーフ礁で造成した人工島はフィリピンの排他的経済水域の200カイリ内にあり、フィリピンの主権を侵害する


・スプラトリー諸島には国連海洋法の定義で認められる島はない。従ってそこに人工島を造成しても、人工島を基点にして排他的経済水域、領海などは形成されない


・中国はフィリピンの漁民の活動を著しく妨害した


・中国は生態系に取り返しのつかない害を与えた

 

習近平政権には、さぞ激震が走ったことであろう。だが、先週の当欄でも一部触れたが、中国側はこの裁判自体を認めず、裁定も受け入れないと早くから宣言してきた。米国が空母10隻を南シナ海に展開しても中国は恐れないなどと、強弁してきた。

 

実際に、仲裁裁判所の裁定公表の日程が決まると、中国はその直前まで、1週間にわたって南シナ海でこれまでで最大規模の軍事演習を行った。

 

裁定の公表当日も、習主席を筆頭に強い拒否の意思を示した。習主席は北京で開かれた欧州連合(EU)の会議でトゥスクEU大統領に向かって、「中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は、いかなる状況下でも裁定の影響を受けない。裁定に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と宣言した。王毅外相は「裁定に至る手続きは終始、法律の衣をかぶった政治的茶番だった」と批判した。

 

それにしても、国際法を真っ向から否定する姿を見せつけても、アジアインフラ投資銀行に参加し、出資し、共に仕事をしようとする欧州諸国の理解を得られると、中国首脳は考えているのだろうか。法を守らない中国に、透明な金融政策を期待することなどできないと思われるとは、考えないのだろうか。中国側の反応は、常軌を逸しており、習体制の異常を感じる。

 

言葉による拒否だけでなく、彼らは新たな軍事行動も取った。南海艦隊は海南省三亜市の海軍基地に最新鋭のミサイル駆逐艦「銀川」を配備し、命名式をしてみせた。スプラトリー諸島のミスチーフ礁とスービ礁には建設済みの飛行場があるが、そこで民間機による試験飛行を行い、成功したと発表した。中国は法の支配を離れて力の支配を選択したことを示したのである。

 

法に基づく国際社会の秩序を尊ぶ国々にとっての課題は、今回の裁定をどう具現化していくかである。まず、南シナ海の支配を着々と強める中国に対して、二一世紀のアジアの秩序は国際法、平和的話し合い、各民族の尊重という普遍的価値と原則に基づくべきだと主張し続けることが大事である。

 

次に中国の暴走を抑止する力を形成することだ。各国が共に助け合う仕組みを構築し、米国を中心とする軍事的枠組みの強化に、日本が貢献しなければならない場面だ。

 

南シナ海で起きることは東シナ海でも必ず起きる。アジアの秩序と安定のために、力を尽くすことが日本を守ることになる。そのためには、参院選で得た議席を基に、3分の2の議員の発議で憲法改正を実現するよう国民に語りかけなければならない。

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