闘うコラム大全集

  • 2017.10.05
  • 一般公開

北朝鮮脅威の高まりで国難突破解散

『週刊新潮』 2017年10月5日号

日本ルネッサンス 第772回


北朝鮮危機の中で安倍晋三首相が衆院解散を表明した。野党は早速、「大義がない」「森友・加計疑惑隠しだ」などと批判した。だが野党はつい先頃まで、森友・加計問題に関連して、早期の解散総選挙を求めていた。それが本当に選挙となると反対するのはどういうことか。


安倍首相は9月25日夕方の記者会見で解散の理由として、消費税の使途に関しての変更と共に、迫り来る北朝鮮の脅威に言及した。首相はこの解散を「国難突破解散だ」と語ったが、その言葉どおり、日本が直面する危機、とりわけ北朝鮮の脅威は尋常ではない。


韓国で進行中の、革命的変化と相俟って、朝鮮半島情勢の激変は私たちが長年当然だと見てきた極東情勢の一変につながると考えてよい。


文在寅氏という親北朝鮮の人物が韓国大統領になったいま、遅かれ早かれ在韓米軍は沖縄かハワイ、或いは日本本土のいずれかに移転すると、韓国の闘う言論人、李度珩氏は、シンクタンク「国家基本問題研究所」での意見交換会で警告した。


「朝鮮半島の軍事バランスを支えてきた米軍1個師団と1個航空団が韓国から撤収し、韓国軍20個師団以上が機能停止に陥る危険性があります。そのとき日本はどう対応するのか。現在のレベルの日本の軍事力や防衛予算では、到底対処できない危機的状況が生まれます」


氏は近著『韓国は消滅への道にある』(草思社)の中で、韓国で進行中の「赤色革命」について詳述し、韓国の国民も日本の国民も、眼前の危機を見ていないと指摘する。


韓国に深く浸透してしまっている北朝鮮による工作の実態や、韓国人の心に巣食っている恨(ハン)の感情、国や財閥などへの強い嫌悪感を、日本人は知らないと、氏は指摘する。


「駐韓米軍撤退」


文大統領が左翼の中の左翼勢力であり、韓国よりも北朝鮮に親和性を感じていることは明らかだ。従って、北朝鮮が核実験やミサイル発射を断行するのに対して国際社会がかつてない厳しい制裁を科す中、文氏は開城工業団地の再開などを提唱し、北朝鮮を援助しようとする。国際社会の動きに逆行して北朝鮮との和解と南北朝鮮の統合を目指そうとする。韓国建国当時から韓国社会の主流を占めてきた「親日派」を排除するのが韓国の取るべき正しい道だ、と主張する。


このような考え方の氏を72%の韓国人が支持している。


文大統領が日韓関係や米韓関係よりも北朝鮮との関係を重視し、国際社会に挑戦する北朝鮮への支持に傾くのは、自由や民主主義よりも民族主義を優先するからだと、李氏は説明する。「外勢」との協調よりも「同族との同居」を望んでいると言うのだ。


文大統領が目指す同族との同居は、韓国が本来目指してきた自由で開かれた民主主義体制下の同居ではあり得ない。北朝鮮主導の北朝鮮体制下の同居であろう。そのような事態になったとき、韓国は完全にこちら側の体制から外れることになる。


このような韓国の傾向は、しかし、今に始まったものではない。金大中氏が大統領に就任した98年以降、北朝鮮はスパイを南に派遣する必要がなくなっていた。大統領の意向で日々の極秘情報が金正日氏に直接、迅速に報告されるという状況があったからだ。


金大中氏の後任の盧武鉉氏は大統領に当選直後、合同参謀本部に「駐韓米軍撤退とその善後策を研究せよ」と指示した。


驚いた合同参謀本部は駐韓米軍撤退などといきなり言えば韓国の安全保障が大混乱するとして、その言葉を「戦時作戦統制権の返還」に置き換えて大統領の指示に応えた。つまり、戦時作戦統制権返還とは韓国から米軍を追い出すという意味なのである。


盧氏は大統領就任3年目の05年、戦時作戦統制権の返還をアメリカに要求し、07年2月に、米韓両国は12年4月までに戦時作戦統制権をアメリカから韓国に返還することに合意した。


その後、保守派とされる李明博氏、朴槿恵氏が大統領となり、戦時作戦統制権の韓国への返還は無期限に延期されたが、如何に古くから韓国が北朝鮮の工作を受け、北朝鮮化してきたかがわかる。このあたりの事情は日本にも知られているが、李度珩氏はこの間に起きた米軍側の変化について警告する。


「韓国の左翼親北政権の思惑を察知したアメリカは、まず盧泰愚政権のときに板門店の共同警備区域における任務の全てを韓国軍に移譲しました。続いて、韓国における米軍唯一の戦闘部隊である第二歩兵師団を第一線から外しました。こうして90年代初頭までに米軍は韓国におけるワナ線の役割を終えたのです」


日本政府の責任


ワナ線、即ち tripwire とは、攻撃されたら自動的に戦闘に入る仕組みを指す。振れ幅の大きい韓国の政治情勢を見て、米国は自国軍の立ち位置に関して慎重になっているということだ。


今年1月のトランプ政権誕生に合わせるように、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速した。あと1年で、米本土に到達する大陸間弾道ミサイルと核の小型化が完成するといわれている。トランプ政権は自国本土に到達するこのような武力攻撃を絶対に許さない。そこで何が起きるか。いくつかの情報が伝わってくる。たとえばアメリカの攻撃は厳冬の寒さの中、朝鮮人民軍の動きが鈍くなる1~2月に決行される、作戦は38度線に沿って配備されている1万に上る北朝鮮のロケット砲などを一気に無力化する激しいものとなる、戦いは事実上、2日で完了する、などというものだ。


作戦決行の準備には少なくとも2~3か月かかるとされ、その間に在韓のアメリカ国民の、日本やグアム、ハワイへの避難を完了し、陸海空軍の十分な戦力も増派しなければならない。


無論これらは推測であり、トランプ大統領がいつ、どのような決断を下すのかはわからない。ただ危機が迫っているのは確かである。


そうした中、日本はどうするのかが問われている。日本国民を守るのは日本政府の責任である。日本にいる国民も北朝鮮にとらわれている拉致被害者も、最終的に守ってくれるのは日本政府であるべきだ。否、日本政府しかないのが現実である。では、危機のいま、日本は一体どうするのか。そのことを問うのが今回の選挙であろう。


だからこそ、アメリカでは日本の核武装についての議論が活発だ。かつて憲法9条2項を押しつけたアメリカで、今、日本の核武装が議論されているのは、まさに世界情勢が大変化したからである。


なのに、官邸での記者会見では日本人記者の質問は消費税など経済問題に集中していた。余りにも危機に鈍いのではないか。この選挙は、まさに北朝鮮の危機にどう対応するのか、安倍首相の言う国難突破選挙なのである。

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