闘うコラム大全集

  • 2018.01.13
  • 一般公開

中国の野望の牽制へ十分な抑止力を 現実主義で対峙する日本政府は評価に値

『週刊ダイヤモンド』 2018年1月13日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1214
 


中国の実像は、その言葉ではなく行動の中にある。1951年、建国間もない中華人民共和国はチベットに「17か条の協定」を突きつけた。中国共産党がチベットを支配するという強硬策の表明だったが、彼らはこうも約束していた。


(1)ダライ・ラマの地位及び職権は変更しない、(2)宗教の自由を守り、ラマ寺廟を保護する、(3)チベット固有の文化、言語、教育を発展させる。


チベット人懐柔を狙った公約なのだが、周知のように、後にこれらはすべてが反古にされた。


カリフォルニア大学教授でトランプ政権の通商製造業政策局委員長のピーター・ナヴァロ氏が、著書『米中もし戦わば』(文藝春秋)で書いている。54年、インド初代首相のジャワハール・ネルーは「インドと中国は兄弟だ」というスローガンの下、相互不可侵条約を結んだ。当時ネルーは友好の証として両国間に横たわる辺境山岳地帯の地図を周恩来に贈った。


国家機密の地図の贈呈は特別の友情と信頼の表現だ。地図を受け取り、周はこう述べた。


「中国はこの山岳地帯の飛地やインドの領土に何の下心も抱いていない」


だが2年後、中国は同山岳地帯で横断道路の建設に取りかかった。現在、両国が激しく領有権を争うインド北部のジャム・カシミール州東端のアクサイチン問題の、これが始まりだった。アクサイチンはスイスとほぼ同じ面積を持つ重要な戦略地点だ。


さらに2年後、中国の公式地図にアクサイチンが中国領として記載された。チベットに対する約束もネルーの友情も、中国は無視したのだ。


さて、中国は2017年12月末、南シナ海における埋め立てや建設を「軍事防衛」のためだと正式発表した。中国政府の特設サイト「中国南シナ海ネット」には、「中国は必要な軍事防衛の強化などのために島嶼の面積を適切に拡大した」「面積はさらに拡大し、関連設備の配置ニーズはより満たされるだろう」などと書かれている(「産経新聞」12月26日)。


中国共産党はもっと島々を奪うと宣言したのである。17年10月の党大会でも習近平国家主席は、南シナ海の埋め立てと建設を自身の第1期、5年間の功績として報告した。


フィリピンからミスチーフ礁を奪い取った95年当時、中国は嵐で難破する漁民の避難港建設のためだと弁明した。それが現在は軍事拠点であるとして誇っている。横暴な国だ。他国の思いも歴史的事実も考慮せず、自らの言葉を変えるのも平気な国だ。


日本人が覚悟しなければならないのは、南シナ海と東シナ海の運命は重なるという点だ。南シナ海を奪い、軍事拠点とし、これからも奪い続けると言明する中国は、近い将来、必ず同じことを東シナ海のわが国領海でも行おうとする。それを阻止する唯一の方法は力を持つことだ。中国のわが国に対する野望を牽制するのに十分な抑止力、軍事力を持たなければならない。


安倍晋三首相は12月15日、現在改訂作業を進めている「防衛計画の大綱」について、「従来の延長線上ではなく、国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めていきたい」と語った。


小野寺五典防衛大臣も同月22日、インターネット配信の「言論テレビ」で日本への配備を計画する「イージスアショア」をはじめ最新鋭の軍事設備について語った。米国がイージスアショアの装備と技術を外国に引き渡すのは、日本が初めてだということだ。


政府は年来の専守防衛政策を事実上転換して、相手よりも長距離射程を有するスタンドオフミサイルの導入も考えている。取れる時には必ず取る中国の脅威を正確に読み取り、現実主義を以て対峙し、必要な装備を整えようとする政府の姿勢を評価する。

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