闘うコラム大全集

  • 2018.03.03
  • 一般公開

弾圧に耐えるチベットの人々 暴虐を隠蔽し続ける中国共産党

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月3日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1221
 


中国共産党の弾圧を逃れたチベット仏教最高位のダライ・ラマ法王14世が、インド北部のダラムサラに亡命政府を樹立したのが1959年である。今年から来年の1年間をチベット亡命政府樹立から60年と位置づけ、ロブサン・センゲ首相が国際社会にチベットの自由への闘いの意味を語る旅を続けている。来日した首相が強調した。


「チベット問題はどの国にとっても遠い問題ではありません。日本の問題とも重なります。チベット問題を放置すれば、日本もやがて同じ運命をたどりかねないでしょう」


センゲ首相の来日も、発言もわが国の地上波テレビや大手新聞はあまり取り上げない。そこで私はネット配信の「言論テレビ」にお招きした。首相はこの60年間、中国の弾圧は厳しくなる一方だと強調した。


「中国内のチベット人は約600万人です。チベット人が3人以上で会話したり行動したりすると、反政府活動と見做され逮捕されます。それは殆どの場合、拷問と死を意味しますが、このようなことは全く報じられません。外国人記者はチベット自治区に入ることさえできないからです」


私たちは世界で最も閉ざされた国は北朝鮮だと思いがちだ。だが北朝鮮には時折、外国人記者の入国が許される。制限つきだが映像を撮り、北朝鮮からの中継もできないわけではない。しかしチベットからの中継や報道を私たちは見たことがあるか。恐らく皆無だ。


首相は語る。


「チベット人への拷問、虐殺を含む暴虐の限りを中国共産党は国際社会の目の届かない所で行い、中国の輝かしい経済的発展で世界の監視の目を曇らせようとしています。しかし、彼らは必ずしも成功していません」


首相の説明はざっと以下のとおりだ。毛沢東らはチベット寺院の98%を破壊し、僧や尼僧の99.9%を追放、虐殺に処した。ダライ・ラマ法王は取り逃がしたが、チベット仏教を潰滅させたと毛らは考えた。しかし、約60年後のいま、中国には3億人とも4億人ともいわれる仏教徒が存在し、中国は世界最大の仏教国になった。


昨年10月の第19回中国共産党大会で習近平主席は、宗教は中国化する、社会主義化するという条件で許容すると語った。右の2条件に宗教がどのように合わせていけるのか、よくわからないが、習氏がこのような変な理屈をつけて宗教を容認すると言わざるを得なかったのは、億単位の中国人の心に仏教が根付いてしまい、習氏といえども仏教徒の巨大な塊を無視することができなかったからであろうか。


そこで心配なのがダライ・ラマ法王の健康である。法王は82歳になられた。昨年の日本訪問は医師から止められた。中国共産党は法王の寿命の尽きるのを待っている。法王が亡くなれば、直ちに中国共産党は次のダライ・ラマを自分たちが選ぼうとしている。


法王はその点を見通して語っている。ダライ・ラマの生まれ変わりは、中国共産党の支配する地には生まれない、中国支配以外の地で生まれる、と。


チベット仏教の未来展望について、首相は楽観的だ。


「弾圧に屈せず、中国では多くの寺院が再建されました。中国政府はいまそれらの寺院と僧達の住居に重機を投入して凄まじい勢いで破壊しています。その映像もあります。私が強調したいのは、どんな弾圧にもチベット民族は耐える力があるということです。ダラムサラで最も大切にしてきたのがチベット仏教です。ダライ・ラマ法王の教えを全身全霊で吸収してきた若い世代が大勢育っています。大丈夫です」


チベット人がチベット人らしく、ウイグル人がウイグル人らしく、モンゴル人がモンゴル人らしく生きることができるような世界を目指そうと、改めて思ったことだ。

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