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闘うコラム大全集
- 2026.01.15
- 一般公開
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ベネズエラ攻撃に見る米政権の思惑
『週刊新潮』 2026年1月15日号
日本ルネッサンス 第1179回
日本時間の1月3日、トランプ米大統領の下、米軍特殊部隊が「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」を実行した。ベネズエラに地上攻撃を加え、マドゥロ大統領らを拘束。4日早朝には、マドゥロ氏らの身柄はニューヨークに移された。
国際法違反の疑いは当然提起されるだろう。そのことを承知した上で現在のロシア、中国の行動に見られる通り、かつてのように国際法を現実世界に当てはめることはもうできない。それは地政学的に不可能だという前提に立って、わが国日本の国益を軸に、米中の戦略を考えてみたい。
昨年12月初旬、トランプ政権が公表した「国家安全保障戦略」(安保戦略)に明記された内容が今回のベネズエラ攻撃で実行された形だ。安保戦略には中国に関わる重要な柱が二つあった。⓵台湾の重要性、⓶米国が南北アメリカ大陸を軸に西半球を守る、である。
⓵の台湾の重要性は、半導体メーカーのTSMCが存在しているからだけではないとして、「部分的には(partly because)、台湾の半導体故に」「しかし主として(mostly because)台湾が第二列島線へのアクセスとなり、北東アジアと東南アジアの分岐点になっているからだ」としている。第一列島線上に位置する台湾を中国に奪われれば、中国が第二列島線まで進出してくる、それは許さないとの意思表示だ。
⓶は、南北米大陸から他の国の勢力を取り除くという意味で、これも中国が恐れ、忌み嫌う。中国が南アメリカ大陸にこだわる理由を笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏が解説した。
「中国は近未来に核抑止力で米国に並び立つと自負しているが、通常戦力では米国に遠く及ばないからだ」
米国には中国本土を通常戦力で攻撃する能力があるが、その能力は中国にはない。米国を軍事攻撃する場合、中国は核兵器に頼らざるを得ない。だが中国には大陸間弾道ミサイル(ICBM)がある。あるいは南シナ海の深い海に潜行させている原子力潜水艦から通常爆弾を搭載したミサイルを発射すれば、対米攻撃は十分に可能だが、この戦術は機能しないと小原氏は指摘する。
価値観の共有
人民解放軍(PLA)によるICBM発射に米軍は数分以内に反撃可能だ。だが、PLAのICBMに積まれているのが核弾頭か通常弾頭かの見分けはつかない。すると米軍は核弾頭で応ずる可能性が高い。結果、中国は米国の核攻撃を受けかねない。核の抑止力で米国に並び立とうとする中国にとって、核以外の通常戦力による抑止力を持たなければならない理由がここにある。
そこで中国が切望するのは、米国東海岸まで中国の空母打撃群を展開することだ。米軍はすでに台湾海峡、南シナ海、東シナ海などで中国の眼前を航行しているのであるから、中国も米国近海を航行する権利があると中国は考えている。
自由に使える港や空港を南米諸国に確保してきたのはそのためだ。南米諸国への働きかけは習近平政権になって極めて積極性を増した。中国の攻勢が南米大陸の国々に深く浸透してきたのは事実であり、トランプ氏が西半球支配を強める政策を掲げたのは中国の浸透に対抗するためである。
麻薬密輸を直接の理由としたトランプ氏によるベネズエラ攻撃の結果はこれから出る。次期政権の樹立まで米国はルビオ国務長官、ヘグセス国防長官らが中心となってベネズエラを支えるとトランプ氏は語った。米紙WSJはこれを「トランプ氏のレジームチェンジ」と呼んだ。
WSJは、トランプ氏の軍事作戦への非難として米国内の左派勢力が国際法違反、議会の承認なしでの独断を挙げるだろうと予測した上で、「軍事行動は正当化される」「米国憲法は国家の安全について幅広い裁量(leeway)を行政府に与えている」とトランプ政権を擁護した。1989年のパナマのノリエガ将軍の逮捕及び20年にわたる米国での拘留に関して、米議会は採決もしていない。マドゥロ氏はノリエガ氏よりも大きな脅威をもたらすというのがWSJの主張だ。
ちなみにノリエガ氏を強引に逮捕された経験をもつパナマのムリーノ大統領は、今回の米軍の攻撃を非難せず、反対にマドゥロ氏を非難した。理由は2024年のベネズエラ大統領選挙でマドゥロ氏が民意を無視し、強引に自身の3選を宣言したからだ。パナマは中国の一帯一路政策から離脱し、パナマ運河を運営する香港企業の排除にも乗り出した。中国支配から脱しようとする背景に、自由や人権を重視する西側の価値観への共鳴がある。この価値観の共有こそ、トランプ氏が最重視しなければならない点である。
行動で判断してほしい
その意味で、記者会見でトランプ氏が昨年のノーベル平和賞を受賞したベネズエラの野党指導者、マチャド氏に冷淡だったのは解せないことだ。トランプ氏は、マチャド氏はベネズエラ人の尊敬と支持を受けていないと語ったが、彼女の他に誰がいるのか。彼女こそ野党勢力を結集し、命懸けで戦った人物だ。不法選挙で排除された後も、彼女は生命の危険を冒してベネズエラに潜伏し続けたのである。
指導者に誰を選ぶかは、遠からず行われるであろう選挙でベネズエラ国民が決めることだが、その際に米国が特定の人物を排除するようなことは慎まなければならないだろう。
ベネズエラ攻撃で判明したのは、トランプ氏は孤立主義者でも非介入主義者でもないということではないか。ワシントンの情報筋によると、米国政府が非公式に日本側に度々伝えていることは、トランプ氏の言葉よりも行動を見て判断してほしいということだそうだ。安保戦略では米国の西半球重視政策が強調されているが、米国がそれ以外に関心を持っていないという意味にはとらないでほしいというメッセージだそうだ。
トランプ政権が台湾海峡にもアジアにも関心を持っていることは、台湾への111億ドル(1兆7300億円)に達する武器の売却決定や、ベネズエラから中国に向けて出航した石油タンカーを拿捕していることなどによっても裏づけられている。行動で判断してほしいとの米政府関係者らのメッセージは日本にとって歓迎すべきものだ。
高市早苗首相はこの事態にどう対処すべきか。まず米国非難を避けて静かに黙認することが肝要だ。米中冷戦を米国と共に勝ち抜くための政策を決然と実行するのがよい。中国共産党との関係改善は無理に進める必要はなく、対米協力は積極的に進めるのがよい。80兆円に上る対米投資の具体案を、首相の3月訪米までに決定し、日米協力の象徴として世界に発信する。それを対中依存度を着実に下げるサプライ・チェーンの構築につながるものにする。その上で真に高市氏の思いをぎっしり詰めた政策に一直線に走り進むことだ。
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