元気になるメルマガ

  • 2015.04.13
  • 一般公開

「母様の目に届くか、鯉のぼり」





# 端午の節句を前に

 関東地方はさくらも散り、瑞々しい若葉が広がり始めました。

 四月に入って、母の部屋に鯉のぼりを飾りました。ここからの話は上
に載せた二枚の写真をご覧になりながら読んでいただけたらと思います。

 写真に見られるように、緋鯉と真鯉、端午の節句を祝ってもらう男児
の人形、男の子の背中には小さな人形、そしてお寿司や卵焼き、野菜の
煮物に紅白のかまぼこ、子供の好きそうなもなかや笹もち、子供だけで
なく大人も所望したくなる花びらもちなど、沢山飾りました。

 実はこれらは全部、縮緬の布地で作ったものです。色鮮やかなご馳走
はつい本物かしらと思ってしまう程の出来映えです。その美しさと可愛
らしさ、加えてその小ささに驚きます。巻き寿司の直径はわずか一セン
チです。鉄火巻やかっぱは、なんと、直径五ミリ以下です。

 作者は母のお世話をして下さっている小苅米喜久子さんです。大柄で
ふくよかな彼女がこの小さなお人形やお菓子やお寿司をどのようにして
作ったのか。


# 端切れとの対話

 尋ねましたらピンセットを使って作り上げたそうです。きっと長い時
間をかけて、端切れの取り合わせを考えながら丁寧に作ったことでしょ
う。それにしても昔ながらの日本の生地はなんと美しいことでしょうか
。色も鮮やかで、ひとつひとつのお菓子やご馳走が粒立ってみえます。
どんな端切れも大事にしまっておいて、針を使って子供や孫のために鮮
やかな人形を作ったり、お茶の稽古に通う際のお懐紙入れや財布など、
本当に沢山の小物を作った昔の人のことを想像してしまいます。

 さて、鯉についているひもの結び目は御覧になれますか。結び目が整
った正方形になっています。これは引き手結びという結び方だそうです。

 男児の人形の背中にさらに小さい人形がしがみついているのも見て下
さい。この小さな人形は子供が病気になったり怪我をしたりしないよう
、邪気を払う役割を担っているそうです。邪気払いの人形は真鯉の背中
にも乗っています。男の子たちが無事に成人するように守っているので
すね。


# 祖母トキのこと

 ひと昔前まで、日本各地のご家庭で、女性たちは世代を超えて端切れ
を集めていろいろなものを作りました。ひと針ひと針願いを込めて完成
させた丁寧な作品を眺めている時、私は裁縫が上手だった祖母、トキの
ことを思い出します。

 私の母方の祖母は、母が幼いころに亡くなってしまったので、私にと
って「おばあちゃん」といえば父方の祖母、トキおばあちゃんなのです。
大分県竹田市出身のしっかり者の祖母は、記憶の中では大概、白い割烹
着を身につけ、忙しく働いています。家の中で立ち働くときは手ぬぐい
で髪を被い、着物の袖が邪魔にならないようにタスキ掛けでした。庭に
出るときは下駄を愛用していました。

 手先がとても器用で、私の七五三の着物は振袖や帯だけでなく、足袋
まですべて縫ってくれました。小学校の学芸会で着物を着て踊ったこと
がありました、たしか男の子が三人、女の子が三人で踊ったと思います。
そのとき祖母が全員の子供の着物を縫ってくれたのです。

 小学校高学年の時には、童謡の「赤い靴」に合わせて踊りました。女
の子たちは皆ステージで赤いシューズを履いたのですが、このときも全
員の分を祖母が縫ってくれた記憶があります。トキおばあちゃんはしっ
かり者できびしい面もありましたが、手先は本当に器用でしたし、誰よ
りも働き者で手間を惜しまない人でした。


# 春の日の幸せ

 いま、私の手元には縮編だけでなく、母の古い着物や、私の着物の端
切れがたくさんあります。私はお針が上手でなく、小刈米さんのような
可愛らしい作品や祖母のように足袋や巾着などを作ることはできません
。それでも端切れ一つ一つの色や柄の美しさ、手触りの優しさ、搾りや
染めの技、その技術を駆使して美しい布を創り上げた職人さんたちへの
尊敬の思いを新たにしながら、布を眺めることは本当に楽しいものです。

 原稿の締切りや押し寄せてくる中国の脅威など、一瞬忘れて、ゆった
りとした時間を過ごす。そんなうららかな春の日こそ、日本人であるこ
とを味わえる幸せな日です。

                           櫻井よしこ


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