元気になるメルマガ

  • 2012.12.21
  • 一般公開

めぐみさんは生きている ― いま対話よりも圧力を

 北朝鮮の金正日総書記が拉致を認めて今年(2012年)で丸10年が経ちまし た。去年12月に金正日氏が死亡し、金正恩氏が継いだ北朝鮮の体制 はいつ崩壊 してもおかしくありません。

 日本にとって最重要の課題は、なんとしてでも横田めぐみさんをはじめ拉致被 害者を救い出し、無事に日本に連れ帰ることです。全員を救出したい。 いつも 家族はそう願い、家族会の皆さんを支える「救う会」や「拉致議連」も同じ想い で活動してきました。私も一番最初の年から、めぐみさんのお母 さまの横田早 紀江さんたちと共に、拉致問題に取り組んできました。

 そうした取り組みのひとつが12月14日、参議院議員会館の講堂で開かれた国際 セミナー「北朝鮮・拉致被害者最新情報と救出戦略」です。

 脱北者で元朝鮮労働党作戦部資材調達係の李英秀(イヨンス)氏が、めぐみさ んが2007年当時生存していたと思われる情報を報告しました。北朝 鮮側は めぐみさんが94年に死亡したと主張し続けていますが、これまでに彼らが提示し た「めぐみさん死亡の証拠」は、めぐみさんのものとされる遺 骨も含めて全て 嘘でした。早紀江さんも、家族会も、救う会も、そして日本政府も、被害者の皆 さんたちは必ず生きていると信ずるゆえんです。李氏の 情報は改めてそのこと を確認させてくれるものでした。

 李氏の証言については12月27日号の『週刊新潮』に詳述しましたので、是非そ ちらを読んで下さい。

 ここでは国際セミナーにソウルから駆けつけたもう一人の脱北者、金聖玟(キ ムソンミン)氏の語ったことをご紹介します。氏は韓国に逃れた北朝鮮 の人々 と共に、いまも北朝鮮で苦しんでいる同朋のために「自由北朝鮮放送」を創立 し、その代表を務めています。氏は北朝鮮労働党幹部が党内で行っ た講演の テープを入手し、会場で再現しました。内容はざっと以下のようなものでした。

「我々は日本本土、米国本土、韓国本土を同時に攻撃する能力を確立した。1万 3000キロ離れている米国も攻撃出来る。日本は北海道から九州まで 全域を 攻撃するのに1500キロで済む。日本のチョッパリ(日本人を指した蔑称)の 島には原発が51基もある。これをロケット一発で破壊すれば、 広島の数百倍の 破壊が起きる。地球上から日本という国を消滅させることが出来る。だから日本 のチョッパリは我々のミサイルを非難して難癖をつける のだ」

 身内を前にした放言ですから多くはハッタリでしょう。07年段階で彼らが日米 韓全てを攻撃する能力を持っていたかどうかもわかりません。けれ ど、ひとつ 明らかなのは、彼らが核とミサイル技術を磨き続けてきたことです。12月12日に 北朝鮮は弾道ミサイルの発射に成功しましたが、非常に 気になるのが、彼らが ミサイルに積めるほど核を小型化しているかどうかです。
 朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の企画委員でもある西岡力氏は、 「北朝鮮がすでに小型核を持っているとの前提で、その危険に備えよ」 と警告 します。

 北朝鮮とパキスタンは戦略的に軍事技術交流を続けてきました。北朝鮮からは ミサイル技術が、パキスタンからは核技術が提供され、パキスタンはす でに核 を小型化しています。パキスタンは小型の核を、北朝鮮から手に入れたノドンミ サイルに積み込むことで、インドに対する強力な攻撃能力を手に したわけで す。であれば、北朝鮮がパキスタンに核小型化の技術を要求しないわけがありま せん。従って、日本は北朝鮮がすでに小型の核を保有したと いう前提に立つこ とが大事です。北朝鮮の脅威から国土、国民を守るために出来得る全てのことを するのが正しい対処なのです。

 このように軍事攻撃能力を充実し続ける北朝鮮ですが、金正恩体制に重大な異 変が生じていると金聖玟氏は指摘します。西岡さんに通訳してもらいま した。
「金正恩体制発足からたった1年、その間に北朝鮮軍の軍団長9人の内6人が粛 清されました。正恩体制と粛清は背中合わせです。しかし、どれほど粛 清して も、正恩体制は安定しません。そのことを示す新たな人事がありました。崔竜海 の降格です」

 崔竜海は、金日成と共にパルチザン活動をした崔賢の息子です。父の威光も あって彼は活躍していたのですが、98年に何らかの理由で、上下水道管 理事務 所に左遷されました。この竜海が金正恩体制下、突然、総政治局長兼次帥という 高い地位に就きました。

 彼は張成沢の側近といわれています。張成沢が金正日の実妹金敬姫の夫であ り、いま金正恩体制を事実上支えている実力者であるのは、指摘する必要 もな いでしょう。復活の背景にこの人脈があったのかもしれません。
 それでも、崔竜海はまたもや降格されたのです。12月17日、1年前に死亡した 金正日総書記の一周忌中央追討大会で、金正恩体制下の軍の最高実 力者だった はずの竜海が大将に降格されていました。強力な人脈があっても、いつでも降格 はあり得る。粛清もあり得るということを今回の人事が示し ています。西岡氏 の解説です。

「崔竜海は金正恩同様軍歴がありません。軍歴ゼロの男が次帥という軍のナン バー2に就任し、かつまた総政治局長としてこの1年に9人の軍団長を粛 清し たわけです。これだけでも異常ですが、その竜海がわずか1年足らずで、大将に 降格されました。内部の権力構造が不安定だということです。金正 恩の身辺警 護がとりわけ厳しくなったという情報も加味して考えれば、北朝鮮でいま異常事 態が進んでいると思います」

 北朝鮮のミサイル発射は当初12月10日~22日の間で予定されていました。しか し、12月11日になって突然ミサイルが発射台から取り外され 始めたという情報 が流れました。かと思うと、翌12日に9時49分に、世界を欺くかのようにミサイ ルが発射されました。

 情報はなぜ錯綜したのか、検証が続いていますが、西岡氏はこう語ります。

 「ミサイル発射は、金正恩が本部に陣取って指揮することになっていました。つ まり、ミサイル発射の日程を知られることは正恩の行動について、日時 を知ら れることを意味します。そのような危険を避け、正恩暗殺を狙う者の目を眩ます ための情報攪乱戦術だったという見方があるのです」

 反正恩勢力が存在しており、正恩氏自身、そのことを警戒しているということ でしょう。人々の心は政府や軍の高官も含めて、金正恩から離れている と見る べきでしょう。

 金聖玟氏が指摘したのは、金正恩の指導者らしからぬ一連の行動でした。正恩 氏は12年7月、妻の李雪主を公開し、若い女性だけで構成するバンド の演奏を 2人で楽しみ、そこにディズニーの縫いぐるみなどを登場させました。贅沢好き のドラ息子の姿を得意気に見せたわけです。これでは餓えに苦 しむ2000万 の人民の頂点に立つ資格も、軍の頂点に立つ資格もありません。

 こんな正恩体制を維持するには、最低、国民を食べさせることが欠かせませ ん。そのために正恩政権は日本に接近し、資金をはじめとする援助を得よ うと するでしょう。日本はそのような策略にのってはならないと思います。

 めぐみさんの生存情報をもたらした先述の李英秀氏は、小泉純一郎氏が訪朝し た2002年、日本が100億ドル(当時の換算で約1兆円)の資金を 提供す ることになったと、北朝鮮では語られていたと証言しています。勿論、日本政府 関係者はこのような情報を否定していますが、仮初めにもこの種 の援助を渡し てはならないと思います。

 北朝鮮に対しては圧力よりも対話で臨むべきだという意見もありますが、「直 接的、間接的に金正恩体制に圧力を加えていくことが必要です」という 金聖玟 氏の主張こそ、正しいのではないでしょうか。


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