闘うコラム大全集

  • 2016.02.06
  • 一般公開

震災5年であらためて考える原子力規制委の権限と在り方

『週刊ダイヤモンド』 2016年2月6日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1119


「読売新聞」が「震災5年」と題して、東日本大震災の当事者たちの証言を連載している。1回目は宮城県南三陸町町長の佐藤仁氏、2回目は福島県飯舘村村長の菅野典雄氏だった。小町村の首長がどのような思いで震災に向き合い、住民を守ろうとしてきたか、読めば胸を締め付けられる。当事者の皆さん方の思いはどれほどのものかと思う。

 

そして連載3回目、班目春樹氏(元原子力安全委員会委員長)の証言を読んで、当時の民主党政権の愚策にあらためて憤りを覚えた。3・11発生の夜、氏は官邸に招集された。氏の役割は菅直人首相(当時。以下同)への助言である。ところが東京電力や現地の保安検査官からの情報は、一切班目氏らには伝えられなかった。首相補佐官の細野豪志氏が福島第1原子力発電所の吉田昌郎所長と電話で連絡を取り合っていたことも、伝えられなかった。


「それを私は知りませんでした。後で知ってがくぜんとしました」と氏は証言している。

 

情報が極度に少なく、手元にある限られた情報さえも共有できなかったのが菅政権の実態だった。氏は3月12日朝にヘリコプターで菅首相と福島第1原発を視察したときのことを次のように語っている。


「東電の武藤栄副社長の説明はとても参考になりました。(中略)次の対策を考えるため、原発で何が起こっているのかをもっと聞き出したかった。ところが、首相はその話を遮ってしまった。大事な機会を逸しました」「原子力を知らない政治家との対話には苦労しました」

 

氏の証言は専門家としての後悔の言葉で満ちている。例えば、11日夕方、原子炉を冷やせない緊急事態になったとの報告が東電から届いたとき、「大丈夫だ」と思い込んでしまった。自らの甘さを責め、「結局、私は何ができたのか。今も同じ問いを繰り返す日々です」と語っている。

 

班目氏はいま、あの事故で起こったことを忘れないうちにまとめるべく執筆しているという。日本が2度と同じ間違いを繰り返さないためにも、氏の著作は重要な意味を持つはずだ。

 

各種の事故調査報告書によって明らかにされたのは、3・11の被害を拡大させた要因の1つが菅政権だったということだ。自身の知識をひけらかして現場の混乱に拍車を掛けたのが菅首相だが、氏の肝いりで設置されたのが原子力規制委員会である。日本の原発再稼働阻止の意図で設置した機関だと、菅首相自身が「北海道新聞」の取材で語ったように、強い政治的意図を背景にした規制委は、原発や放射能の安全を高めるという本来の仕事をしてきたのだろうか。

 

その問いに国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが答えてくれた。12日間にわたって調査し、「迅速な改善、しかし、課題あり」という暫定評価を公表した。そこには規制委に対する厳しい意見が書き込まれている。

 

IAEAが規制委の改善すべき具体例として筆頭に挙げたのが「もっと能力のある経験豊かな人材を集め、教育、訓練、研究および国際協力を通じて原子力と放射能の安全に関係する技術力を上げるべきだ」という点だ。

 

原子力施設の検査をより効率的に行えるように、関連行政手続きを修正すべきだとの指摘もされた。

 

規制委に関しては活断層問題をはじめ、科学的根拠を欠く議論が注視されてきた。原発再稼働の申請に当たって無意味なほど大量の文書を作らせたこともすでに明らかにされている。

 

国際社会の権威から「能力ある人材を集めよ」と言われてしまう規制委に、わが国は内閣からも独立した強い権限を与え、国の未来を決するエネルギー政策の根幹を任せているわけだ。規制委に助言する専門家集団の設置が必要だと強調するゆえんである。

言論テレビ 会員募集中!

生放送を見逃した方や、再度放送を見たい方など、続々登場する過去動画を何度でも繰り返しご覧になることができます。
詳しくはこちら
Instagramはじめました フォローはこちらから

アップデート情報など掲載言論News & 更新情報

週刊誌や月刊誌に執筆したコラムを掲載闘うコラム大全集

  • 異形の敵 中国

    異形の敵 中国

    2023年8月18日発売!

    1,870円(税込)

    ロシアを従え、グローバルサウスを懐柔し、アメリカの向こうを張って、日本への攻勢を強める独裁国家。狙いを定めたターゲットはありとあらゆる手段で籠絡、法の不備を突いて深く静かに侵略を進め、露見したら黒を白と言い張る謀略の実態と大きく揺らぐ中国共産党の足元を確かな取材で看破し、「不都合な真実」を剔抉する。

  • 安倍晋三が生きた日本史

    安倍晋三が生きた日本史

    2023年6月30日発売!

    990円(税込)

    「日本を取り戻す」と叫んだ人。古事記の神々や英雄、その想いを継いだ吉田松陰、橋本左内、横井小楠、井上毅、伊藤博文、山縣有朋をはじめとする無数の人々。日本史を背負い、日本を守ったリーダーたちと安倍総理の魂と意思を、渾身の筆で読み解く。

  • ハト派の嘘

    ハト派の噓

    2022年5月24日発売!

    968円(税込)

    核恫喝の最前線で9条、中立論、専守防衛、非核三原則に国家の命運を委ねる日本。侵略者を利する空論を白日の下にさらす。 【緊急出版】ウクライナ侵略、「戦後」が砕け散った「軍靴の音」はすでに隣国から聞こえている。力ずくの独裁国から日本を守るためには「内閣が一つ吹っ飛ぶ覚悟」の法整備が必要だ。言論テレビ人気シリーズ第7弾!