闘うコラム大全集

  • 2015.02.07
  • 一般公開

危機に弱く役に立たない政府機関 対外情報機関の設置が急務

『週刊ダイヤモンド』 2015年2月7日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1070


オレンジ色の囚人服をまとい、鎖と手錠で拘束された後藤健二さんが、1月24日午後11時すぎには殺害されたとみられる湯川遥菜さんの写真を、27日夜にはイスラム国に捕らわれているヨルダン人パイロットの写真を両手に持たされ、メッセージを発信させられた。


29日午前段階でのイスラム国の要求は、後藤さんとヨルダン政府が拘束している女テロリストの交換である。


日本人のためにヨルダン政府が、拘束中のテロリストを解放するという一対一の交換は、日本およびヨルダン政府にとって非常に厳しい条件だ。事態は予断を許さないが、私たちは事件が世界に発信していることを読み取り、次なる状況に備えなければならない。


安倍晋三首相の、人命は尊重するが、テロには屈しないという方針を、国民の6割が支持していることが世論調査で明らかになった。非常に心強い。法も道理も踏みにじり、暴力による支配を押し広げていく勢力は、これからも存在し続け、根絶は容易ではないだろう。私たちが慣れ親しんできた国際社会の秩序や道理が公然と否定される事態は発生し続けるだろう。


日本はこうした事態に無防備であり続けてきた。だからこそ、今、国民を守るために何をすべきかを考えたい。まず第一は、世界各地域の情報を自力で取り、分析する能力を養う体制をつくることだ。日本は、先進諸国の中でインテリジェンスに最も疎い国である。これまで日本人や日本の企業が海外で危機に陥ったとき、ありていにいって各国の在外公館をはじめとする政府機関は、ほとんど役に立たなかった。


危機に直面して、大使館や日本政府に情報を提供してきたのは日本の総合商社やメディアだった。国家としての情報収集能力を備えていないこのような実態は今も基本的に変わっていない。


大国米国が海外での紛争に介入することをためらい、軍事介入に非常に消極的になったことが、世界のルールが大きく変わることにつながっている。今回の事件に限らず、予想を超える事件が発生し続ける構造的な変化が世界政治に起きている中、日本はなんとしても国際社会の動向を察知し、備えるための情報機関をつくるべきだ。


情報機関は、世界を広く俯瞰し、およそ全ての問題を「国際社会の中の日本としてどう対処すべきか」という発想で眺め、分析し、対応策を打ち出せる能力を備えていなければならない。


例えば日米、日中関係にしても、今回のようなテロリスト問題にしても、二国間あるいはその相手との関係だけで考えるのではなく、日本の国益を担保し、日本国民の命を守るために何をするのがよいのか、全体像を見詰めた上で戦略を描けるものでなくてはならない。


であれば、北米課や中国、モンゴル課など、縦割り構造の発想にとらわれがちな外務省では役に立たないということだ。新しい情報機関は既存の役所の外に、首相直属の独立機関として設置するのがよい。


安倍首相の強い意思で設置した国家安全保障会議(NSC)も、本来、きちんとした情報を上げてくる下部組織を持っていなければ、機能しない。


NSCが正しい判断を下し、正しい戦略を打ち出すためには、判断材料と優れた情報がなければならない。あらゆる意味で、対外情報機関の設置を急ぐことだ。


次に、海外での邦人救出のためにわが国は一体、何をなすべきか、具体的に論じるべきだ。

海外で予想外の事件に巻き込まれると、日本人は現行憲法と現行法の下では、日本政府が助けに来てくれることはないという現実に直面する。助けてくれる国家を持たないこのような状況に、これからも私たちはずっと甘んじていくのか。官民挙げて現実的に語り合うときだ。

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