2026.02.07NEW!
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闘うコラム大全集
- 2026.02.12
- 一般公開
- NEW!
高市氏を待ち構える国際社会の荒波
『週刊新潮』 2026年2月19日号
日本ルネッサンス 第1183回
2月2日、「朝日新聞」が8日の衆議院選挙は自民党圧勝の勢いだと報じた。朝日の選挙予測はその正確さで知られる。選挙戦は残り6日、まだ何が起きるか分からず、高市早苗首相の圧勝が確定したわけでもないが、兆候としてはよいことだ。なぜなら課題山積のわが国は選挙後、圧倒的に国民の信を得た権力基盤のしっかりしている総理大臣でなければやり切れない程、大変な仕事が待っているからだ。
1月20日、カナダのカーニー首相がスイスで開催されたダボス会議(世界経済フォーラム)で画期的な演説をした。トランプ米大統領の名前こそ出さなかったが、演説全体がトランプ外交への批判だった。カーニー氏はまず、世界秩序は断絶し、(たとえそれがフィクションであっても)かつて信頼されていた「ルールに基づく国際秩序」という心地よい夢は砕け散ったと断じた。米国が支援してきた国際法や公正な貿易ルール、安定した金融システム、集団安全保障などのグローバル体制はもはや機能せず、大国は経済統合を武器化し、関税を梃子(てこ)とし、金融制度で圧力をかけ、サプライチェーンの脆弱性を利用する。互恵は虚構で、従属を強いるばかりだ。かつての秩序は戻らない。だから、カナダはミドルパワー、中堅国の先頭に立って価値観の一致する国々との連携を分野ごとに進めるとして、各国に自立と連帯を呼びかけた。米国への依存度を下げ、独自の道を切り拓こうと語った氏に異例のスタンディングオベーションが贈られた。
トランプ米大統領が演説したのは翌日だった。NATOのルッテ事務総長との会談でグリーンランドへの武力行使を否定し、米国の同島領有に反対する欧州諸国への追加関税も撤回した。世界は一安心したが、これは米国の株、債券、通貨が市場で売られるトリプル安が生じたからだ。
紙クズだとして無視
カーニー氏への熱い拍手からも推測できるのだが、先進7か国(G7)の国々はトランプ氏の外交、関税、グリーンランドへの姿勢に反発して、中国への接近を図っている。1月中旬のカーニー首相に続き、同月下旬にはスターマー英首相が訪中した。その前にはアイルランドとフィンランドの首相が北京を訪れている。メルツ独首相は2月に訪問予定だ。フランスのマクロン大統領は一番乗りで昨年12月に訪中済みだ。
西側諸国は訪中で立場を強化できたのか。中国に4日間滞在し、その後わが国に1日だけ立ち寄ったスターマー氏の場合を見てみよう。スターマー政権は野党の保守党から中国に融和的だと批判されており、習近平国家主席は対英関係強化で米英の離間を進める好機と見ているはずだ。
英中は戦略的パートナーシップの構築で合意し、ヘルスケアから金融、法務サービスまで幅広く政府、民間レベルでの協力拡大で合意した。
英国側は英国人に対する短期ビザの免除を勝ち取ったと発表し、製薬大手アストラゼネカは中国に150億ドル(2兆2500億円)を投資する。中国は喉から手が出るほど欲しい外資の投資を得たわけだ。
英国の通信社、ロイターは香港、北京の特派員を動員して記事をまとめた。その中でスターマー氏は「率直な対話」の他に得るものがなかったと酷評した。中国は英国とのパートナーシップを結ぶに当たっても、英国側の欲する民主的な姿勢は少しも見せなかったからだ。具体的には中国の台湾に対する強硬路線は強まるばかりだ。ウクライナ侵略を続けるロシアとの絆も深まるばかり、英国の元植民地、香港の弾圧は徹底され今や自由な空気は全くない。異形の中国の行動様式は不変だと指摘した上で、では、貿易面で英国はどのような利益を予定しているのかと、以下のように報じた。
オランダのGDPに匹敵する貿易黒字を欧州から得ている中国だが、国内消費が弱すぎて自国生産品を買うこともできない。その国に期待を寄せ経済統合を図ろうとしているのがスターマー氏だと冷たく突き放した論評である。
両首脳の会談で習氏はトランプ氏を念頭に「国際法は各国が順守して初めて効力を持つ」と語っている。だが、南シナ海のフィリピン領有の島を力ずくで奪ったのは中国だ。常設仲裁裁判所が中国にはフィリピン領有の島を奪う権利はないと判定したのに、それを紙クズだとして無視したのも中国だ。親中派スターマー氏にはそこが明確に見えないのだ。
カナダも同様だ。2018年に中国の通信機器大手、ファーウェイの副会長をカナダ当局が逮捕、25年3月には中国が薬物事件で逮捕したカナダ人4人を死刑にした。貿易面でも両国は軋轢を抱えていた。24年10月、カナダは米国に足並みを揃えて中国の電気自動車に100%の追加関税を課した。中国はカナダ産のキャノーラ製品に84%の関税をかけた。
欧州に冷水を浴びせる
今回両国は新戦略的パートナーシップを結び貿易障壁を撤廃し、関税削減で合意した。カーニー氏は「中国は米国より予測可能だ」と語り、30年までに対中輸出を50%増やし、米国への依存度を減らすと語る。台湾を念頭に「カナダは一つの中国政策を実行する」とも発言した。中国が最も聞きたい言葉だ。
次々に中国詣でをするG7のメンバー国。中国は当然のこととして、それを国際宣伝に使いたい。中国共産党機関紙、環球時報が、「カナダや欧州は、中国は信頼できるパートナーだと認識した」と報じ、恰(あたか)も、西側諸国が軸足、ピボットを米国から中国に移したかのように報じた。中国のイメージを改善し、国際政治に微妙な影響を与える情報である。
だが、中国の現実は厳しい。ロイターは中国の貿易統計を伝えているが、米国市場への依存度を減らして中国との貿易を増やしたいと考える欧州に冷水を浴びせる内容だ。
中国の対欧州貿易における黒字幅は年々増加し、30年には3兆ドル(450兆円)、33年には5兆ドル(750兆円)に達する見込みだそうだ。対英輸出が去年7.8%増だったのに対し、英国の対中輸出は0.4%減だった。対カナダ輸出は3.2%増だったがカナダの対中輸出は10.4%減だった。英国もカナダも米国との貿易で黒字を楽しんでいたが、中国相手ではそうはいかないということだ。
カーニー氏は中堅国として価値観を共有できる国々との連携を深めるとダボスで語った。対中接近はカーニー氏の価値観共有の基準を満たすのか、疑問である。わが国の視点で見れば、中国の軍事的脅威や歴史認識の相違を感じることの少ない欧州が、中国と接近すれば、中国の罠にはまりかねない。だからこそ、高市氏は、対中戦略で欧州をわが国に引きつけ、米国をアジアにコミットさせ続けるための大仕事をこなさなければならない。強い経済、強い軍事力を実現し、そして何よりも中国とは対極にあるわが国の価値観を、欧州にも米国にも理解して貰うこと、日本の価値観を戦略にも戦術にも表現してみせることなのだ。
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