闘うコラム大全集

  • 2015.04.18
  • 一般公開

川崎中学生殺害事件の実名報道で問われる少年法の在り方と情報公開

『週刊ダイヤモンド』 2015年4月18日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1080


今年2月20日、川崎市の河川敷で13歳の上村遼太君が殺害され、1週間後、少年3人が逮捕された。3月12日付の「週刊新潮」が主犯とされた18歳の少年の顔写真と実名を報じ、少年法の在り方が問われている。


少年犯罪についてはこれまで、(1)顔写真の掲載や実名報道は少年法違反であり、少年の更生を妨げると、批判されてきた。加えて、現在は(2)インターネット空間に顔写真や実名だけでなく、加害者とされる少年の自宅、学校まで洗いざらい情報が書き込まれ無法状態が出現、少年法そのものが消失していると指摘されている。


被害者側は、(1)には納得できにくいだろう。被害者の情報は常に顔写真、実名にとどまらず生活態度までありとあらゆることを暴露されてきたからだ。その過程で被害者であるにもかかわらず往々にして晒し者にされてきた。


小学生女児が同級生の女児に殺害された2004年6月の長崎の事件を振り返る。遺族は加害少女と面談することもかなわず、少女がどのような更生教育を受けているかも、知らせてもらえなかった。被害者遺族にとって明らかなことはただ一つ、突然愛する娘を失ったことだ。なぜ娘は殺されたのか、知る術もなく、立ち直りのきっかけさえつかめない。まるで無間地獄のような状況が続いたことと、加害者に関する情報の保護は釣り合わないと被害者側が感じるのは自然なことだ。


(2)については、事実か否かも不明の情報が満載され、ネット社会はまるで法の枠外である。その空間で事件とは無関係の人まで巻き込まれていくケースが目立つのが現状だ。


ネットという新しい手段が広まったいま、必要なのは、少年法の改正と、加害者に関するきちんとした情報の公開ではないだろうか。それによって皆がより深く考える能力を育むことが求められているのではないかと思う。


その意味で考えさせられたのが月刊「文藝春秋」5月号、佐々木史氏が報じた神戸連続児童殺傷事件、酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年Aが犯した事件について家庭裁判所が下した「決定(判決)」全文である。「決定」は少年Aの生い立ちから犯行、拘束後の取り調べまでを詳述している。多くのことを知ったからといって遺族の心が癒やされるわけではないかもしれない。しかし、知ることによってのみ、その先の展望が開け始めるのではないか。同種の犯罪を防ぐ可能性も、被害者側が立ち直る可能性も、そこから生まれるのではないかと思う。


「決定」には幾つも注目すべきことが書かれている。鑑定に当たった専門家は、少年が生後10カ月で離乳されたこと、決して親に甘えないこと、遊びに熱中できないこと、しつこく弟を苛めることなどから「1歳までの母子一体の関係の時期が少年に最低限の満足を与えていなかった疑いがある」と指摘している。これは精神医学で「愛着障害」とされる傾向だ。


少年は幼年時代の唯一の良い思い出として「幼稚園の頃、祖母の背に負われて目をつぶり暖かさを全身で感覚し」たことを挙げているが、「祖母との間に楽しいとか嬉しいとかの感情的共感が成立していた訳でもない」。


「親学」の専門家、明星大学教授の髙橋史朗(たかはし・しろう)氏が指摘する子育て論の重要性が痛感される。子供の心に愛、思いやり、喜怒哀楽の情操を育むには、3歳くらいまでに本当に愛されていると子供が実感できるところまで親の愛を注ぐことが大事だという教えだ。


無論、育成過程の一断面だけで犯罪の背景を解明することはできない。それでも少年に関する情報開示から私たちは幾つもの教訓を読み取れるのではないか。


ちなみに少年Aは1997年に関東医療少年院に入院、04年に仮退院、05年1月に社会復帰を遂げたという。

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