闘うコラム大全集

  • 2016.06.16
  • 一般公開

中国が展開する騙しの常套手段

『週刊新潮』 2016年6月16日号

日本ルネッサンス 第708回


6月6日、北京で米中戦略・経済対話が開かれた。両国の主要閣僚が勢揃いして、およそあらゆる問題を話し合うこの会議は2009年以降定例化したものだ。開幕式での演説で習近平国家主席が強調したのは、中国の大国意識を表わす「新型大国関係」だった。

 

米中が互いの「核心的利益」を認め合い、干渉し合わないことで衝突を避け「ウィンウィンの関係」を築こうというもので、中国側はここ数年の米中対話で必ずこの原則を持ち出してきた。習氏は今回も同じ主張を繰り返し、こう述べた。


「敏感な問題を適切に管理し、実務的、建設的に対立を乗りこえるべきだ」

 

南シナ海に限らず、問題を起こすのは常に中国だ。自らの狙いを定め、時間稼ぎをしながら目的を達成しようとする。

 

これは中国の常套手段であり、日本は尖閣問題で同手法による目眩ましを食らった。1978年、来日した鄧小平は尖閣問題を現役世代の自分たちが解決できないのであれば、後の世代の平和的な話し合いに任せればよい、と提案した。鄧小平は記者会見で、尖閣問題は日中両国で棚上げしたと発言した。日本側は尖閣諸島に領有権問題があるとは認めない立場から、棚上げに合意した事実はなかったが、中国に配慮して、その場で反論することもなく、巨額のODA(政府開発援助)を中国に与え始めた。中国がいきなり新しい国内法をつくり、尖閣諸島も東シナ海も中国が領有すると宣言したのはそれからわずか14年後だった。

 

今回の習発言は往時の鄧小平発言と重っている。彼らが決して尖閣諸島を諦めないように、南シナ海も諦めることはないだろう。


中国の孤立

 

北京で米中戦略対話が行われる直前まで、両国はシンガポールで開催されたアジア安全保障会議で火花を散らしていた。6月3日から5日まで続いた同会議には約30の国々の国防大臣や専門家が集った。中国の譲歩が考えにくい中、最大の焦点は、南シナ海における中国の侵略的行動をアメリカがどこまで抑止できるか、だった。

 

米国防長官のアシュトン・カーター氏は4日の基調講演で南シナ海の航行や飛行の自由の重要性を強調し、国際法に基づいた領土主権の原則を、各国が守り続けることを要請した。氏は「原則」という言葉を36回も繰り返し、南シナ海の軍事拠点化を進める中国の行動を「孤立を深める万里の長城」だと批判した。

 

カーター氏は、西太平洋及びインド洋の安全と秩序の維持は、2国間、3国間の協力でなされるとして、日米韓、日米豪、日米印の軍事協力について具体的に語り、さらに米国がベトナム、フィリピン、シンガポールとの2国間協力に積極的に取り組んでいることを詳細に説明した。タイもインドネシアもラオスさえもアメリカに協力していると語り、中国の孤立を浮き立たせた。

 

南シナ海での中国の侵略的行為に関して、フィリピンがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した件で、カーター氏は近々示される判断を中国が受け入れ、「当該地域諸国と共に、外交機能を強化し、緊張を鎮め、原則重視の将来を築く機会とすべきだ」と説いた。

 

カーター演説への中国側の反応は驚く程感情的だった。中国代表団を率いる人民解放軍副参謀長の孫建国氏は演説直後に会場を後にし、洗練とは程遠い太い地声でメディアに語った。


「中国は孤立などしていない。カーター長官の発言は間違っている」

 

翌日演説した孫氏は「我々は問題を起こさないが、問題を恐れることもない」と予想通りの強硬発言を繰り返した。


「中国は結果責任を負わない。主権と安全保障に関する侵害も許さない。南シナ海における無責任な国々の行動についても無関心ではあり得ない」と、穏やかならざる発言だった。

 

アジア安全保障会議での中国の発言は、ここ3年程顕著に強硬さを増している。安倍晋三首相が基調講演を行い、国際社会の公共財としての開かれた海、航行の自由、問題の平和的解決と国際法の順守を説いたのが14年だったが、この時、日本の首相の思いがけない正論に、会場に詰めかけた専門家らが総立ちで拍手する場面が続いた。

 

日本の名誉は中国の怒りを誘う。中国代表は用意した演説メモを横に置いて安倍首相を口汚く批判した。南シナ海は2000年前から中国領だと豪語して失笑も買った。

 

なぜこの時中国側は怒りの感情に搦めとられたのか。


危機に対応できる国


当時彼らは南シナ海の埋め立てを急ピッチで進めており、そうした後ろめたさを隠すための発言だったと考えられる。

 

15年にはシンガポールのリー・シェンロン首相が基調講演で、南シナ海問題の解決は(アメリカや日本などの関与を許さずに)当事国の話し合いで解決すべきだと、中国の主張に沿う形で訴えた。中国の圧力があったと考えて間違いないだろう。

 

そして今年の強硬発言である。孫氏は演説で、フィリピンの提訴及び仲裁裁判所の判断は「受け入れない。従わない。中国の南シナ海政策は不変である」とこれまでの主張を繰り返した。

 

中国共産党機関紙の海外版「環球時報」は、孫氏の発言を南シナ海に関する挑発への中国の明確な回答であるとして、高く評価した。挑発に対して中国は経済的にも軍事的にも防衛する力があり、その準備も整っていると自信を示した。

 

中国の強硬発言に対して、中谷防衛大臣は、中国が国連海洋法に基づく仲裁裁判所の判断を受け入れない場合、「日本も声を上げなければならない」と語り、ベトナムの国防次官、グエン・チー・ビン氏は中国の姿勢は「戦争に発展しかねない」と警告した。

 

シンガポールの会議は険悪な空気に満ちていたのだ。それに対して習主席は「敏感な問題の適切な管理」と、その間の「実務的、建設的な対立解消」を提案したが、問題はオバマ政権があと半年で終わり、次期大統領が誰になるか、アメリカの外交、安全保障政策が読みにくい中、時間はアメリカやアジア諸国の、必ずしも、味方ではないかもしれないことだ。

 

アメリカには日本もNATO諸国も十分な防衛努力をしていないとの不満が強い。そうした不満がアメリカをさらに内向き志向に追いやる危険性もある。その時、日本もアジアもどのように中国の脅威に立ち向かうのか。

 

明確に問われているのは、日本が危機に対応できる国になるか否か、その決意を持てるか否かである。それによって日米関係が決まり、その先に日中関係が形成される。

 

中国の膨張とアメリカの展開の不透明さの中で、私たちは日本の国防の根幹を見直さなければならない。

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