闘うコラム大全集

  • 2016.06.23
  • 一般公開

トランプよりも自国第一主義の日本

『週刊新潮』 2016年6月23日号

日本ルネッサンス 第709回


昨年5月及び12月の事件に続いて、イスラム国(IS)への忠誠を誓う犯人が6月12日、アメリカで3度目の殺戮を行った。

 

49人もの死者を出したフロリダ州オーランドの銃乱射事件の犯人はアメリカで生まれ育った中東移民2世だった。オバマ大統領は、犯人がISの発信に操られて米欧諸国を襲っているとの主張は「醜い嘘」だとして、今回の事件の背景勢力を「イスラム教過激派」ではなく「暴力的過激主義」と呼んだ。

 

オバマ大統領は昨年11月13日、ISは封じ込めたと語った人物である。その直後にパリでの大規模テロが発生し、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は11月15日、「目をさましなさい、大統領閣下」という社説で大統領の認識の甘さを批判した。

 

この一件に見られるようにオバマ大統領は今回の事件でもテロ攻撃の側面に目をつぶり、同性愛者への憎しみが生んだ事件と位置づけたいのではないか。同性愛者が集うことで知られるナイトクラブで発生した今回の事件は、人々の生き方、愛し方、共有の仕方、信仰心を含めて人生を形づくるあらゆる価値観の多様性を受け入れるか否かに行き着くとのとらえ方だ。

 

その視点も必要ではあるが、ISとの関連に触れないのでは事件の本質に迫ることはできないだろう。

 

アメリカで生まれ育ったイスラム教徒によるテロの脅威から目を背けるオバマ氏の姿勢を、共和党のドナルド・トランプ氏は早くもイスラム教徒への弱腰対応だと非難した。

 

だが、イスラム教徒や移民・難民問題は彼らを排斥したからといって片づくものではない。殆どが穏やかな人々であるイスラム教徒を乱暴にひと括りにして排除する政策は、一夜にしてアメリカを全世界16億人のイスラム教徒の敵にしてしまうだけである。それでも支持率が下落し始めたトランプ氏は、今回の事件を利用してその回復を狙うだろう。ここは、アメリカの有権者が試される局面である。彼らはオーランド事件の悲惨さを超えて冷静に考えることができるか。


右翼勢力の台頭

 

同様の問いが欧州諸国にも突きつけられている。トランプ氏的「自国第一主義」が、欧州に広がっているのは周知のとおりだ。

 

6月23日に実施される、イギリスのEU残留か離脱かを問う国民投票にも事件は少なからぬ影響を及ぼすだろう。イギリスには、この1年でEU内外から33万3000人の移民・難民が流入した。人、モノ、カネの移動の自由を謳うEUにとどまる限り、他民族は流入し続ける。それには耐えられないという思いが離脱派英国人の背中を押している。

 

押し寄せる他民族に職を奪われ、医療、福祉、住宅、教育などあらゆる面の手当を負担しなければならない。テロリストがまぎれ込むことも、オーランドの犯人のように地元生まれのテロリスト出現の危険もある。移民・難民の制限が問題を解決すると信じて、EU離脱で独自路線を歩みたいと多くの人々が考え始めている。

 

イギリス同様、フランス、オランダ、スウェーデン、ポーランド、オーストリアなどの欧州諸国がEUの機能に疑問をつきつけ、独自の道を歩む動きを見せ始めた。世論を独立方向に強力に誘導する右翼勢力の台頭は、即ち、ヨーロッパ版のトランプ式思考、自国第一主義そのものだ。

 

諸国がこうして孤立主義に向かい国際社会の枠組みが揺らぐいま、日本の喫緊の課題は中国の脅威からどのように自国を守り通すかという点である。アメリカの軍事的コミットなしで、日本だけの力で国を守り通すことはできない。いま一国だけで自国防衛を完遂できるのはアメリカ、中国、ロシアだけであろう。

 

日本を見放しかねないトランプ氏を、しかし、批判する資格は日本にはない。なぜなら、国家基本問題研究所副理事長の田久保忠衛氏が喝破するように、日本こそ「自国第一」の孤立主義国だからだ。


「いま、皆がトランプ氏は孤立主義だと言います。アメリカで孤立主義というのは軽蔑の言葉です。しかし、日本は経済以外のことでは、全く孤立主義ではないですか。どんな問題もまともに議論せず、アメリカ第一の言葉でごまかしてきたトランプ氏も驚くほどの孤立主義国が日本でしょう」

 

状況は少しずつ変化してはいるが、日本は自衛隊の海外展開に消極的であり続けてきた。憲法上、自衛隊は軍隊ではないとの解釈も守っている。その憲法は一言一句も変えず、殻に閉じこもっている。アメリカよりも欧州諸国よりも、日本は孤立主義である。国際情勢の変化の中で、この殻を打ち破らなければ日本は自国を守り通すことができない。この局面に立たされているいま、如何にして孤立主義を脱することができるのか。


第3の衝撃波

 

田久保氏が語る。


「日本の歴史を振りかえってみると、日本を根本的に変化させてきたのはアメリカだということがよくわかります。国際情勢が日本を変えると言うけれども、一番変えたのは、間違いなくアメリカです。1853年にペリーが来て日本は開国しなければならなくなった。その結果が明治維新です。これで国体が変わりました。次にペリーの国と戦争して、1945年に敗れ、現行憲法を与えられた。再び大きな変化を強要されました。そしていま、第3の衝撃波が同じくアメリカからやってきつつあります。仮にトランプ氏が大統領となって、安保条約廃棄だと言われた時、日本はどうするのか。そのような仮説は極論だというのは容易ですが、最悪の事態を想定して備えるのは国家の責務です。憲法なんか脱ぎ捨てないと、どうにもならなくなるのは明らかです」

 

このような状況が眼前で展開している中、沖縄ではいま、女性殺害事件をきっかけに新たな反米軍基地の波が起きている。普天間飛行場の辺野古への移設反対を超えて、全ての米軍基地に反対する運動である。

 

軍属のシンザト容疑者による犯罪は許し難く、日本の法律に基づいて厳しく処罰するのは当然だ。だが、そのこと故に全ての米軍基地の撤去を要求するのは間違いである。


「憲法改正も9条改正も反対という人々は、アメリカ抜きでどのように日本を守るのか。非武装中立で行くのか。アメリカ軍が本当に引き揚げる場合、反米軍基地の運動家たちは振り上げた拳を一体、どこにおろすのか」と田久保氏は問う。

 

日本こそが「自国第一主義」の国であり、トランプ氏を批判する資格など実はないのだ、という指摘をこそ心に深く刻みたい。そうしてトランプ氏の問題提起を、日本覚醒につなげていかなければならない。

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