闘うコラム大全集

  • 2017.02.23
  • 一般公開

日米首脳会談、大成功のなかの懸念

『週刊新潮』 2017年2月23日号

日本ルネッサンス 第742回


ホワイトハウス正面で車から降り立った安倍晋三首相を、思わず引き寄せ抱擁したドナルド・トランプ米国大統領、19秒間の長い握手、首相の手を両手で包み込み甲を撫でる大統領、その後フロリダの華麗な大統領別荘への招待、盛り沢山のもてなし、都合27ホールを回ったゴルフ、多くの話題に及んだ限りなく長い時間。

 

これら全てが安倍首相の対米外交の成果として記憶されるであろう。このようなおつき合いは、恐らく、安倍首相にしかできない外交でもあろう。日本にとって余人をもって代え難く、世界にとっても重要な存在に、首相はなっている。

 

現時点で、首相訪米はこれ以上ない程の成功をおさめた。国防費負担が少なすぎると日本を非難し、日米同盟を軽視するかに見えたトランプ大統領から、➀揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄、及び自由の礎、➁核及び通常戦力の双方による、あらゆる種類の防衛に対する米国の対日コミットメントは揺るぎない、➂日米安保条約第5条は尖閣諸島に適用されるとの確約を引き出し、それらを共同声明に盛り込み、文書化した。

 

この外交上の成果を、北朝鮮がさらに後押しし、強化した。2月12日朝、ミサイルを撃ち上げた北朝鮮に対して、安倍、トランプ両首脳は大統領別荘で揃って記者会見に臨んだ。首相が北朝鮮の蛮行は「断じて容認できない」と非難すると、大統領は「米国は、偉大な同盟国、日本と100%共にある」と語った。

 

北朝鮮の核に対する防衛として、日本も韓国も自らの核のオプションを考えてはどうかなどと、つき放すかのような数か月前の発言とは正反対の確かなコミットメントを、大統領が正式の記者会見で語った。その意味は大きい。安倍首相は強運の人であると改めて思う。


大統領の衝動発言


一連の事柄は今回の安倍外交の大きな成果だが、より重要な核心部分は別にある。トランプ大統領を重要政策決定のメカニズムから、事実上切り離し、個々の具体的政策への大統領介入の余地を、さらに狭めたことである。

 

安全保障問題では、先にジェームズ・マティス国防長官が来日し、安倍首相及び稲田朋美防衛相との会談を重ねて、日米同盟が揺るぎないこと、これまでも、そしてこれからも、アメリカは100%、日本と肩を並べて進んでいく決意であることを表明し、尖閣諸島有事の際には日米安保条約第5条を適用するとも言明した。国防長官の敷いた日米協調の路線に今回、大統領が従ったのである。

 

安全保障政策と同様の仕組みを、安倍首相は巧みに経済分野にも広げることに成功した。新設が決まったハイレベル経済対話である。首相が記者会見で述べた、「麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領の下で分野横断的な対話を行うことで合意した」ことこそ今回の訪米の最大の成果である。

 

安倍首相は麻生・ペンス両氏を軸にした経済対話の仕組みをディナーの席で提案し、トランプ大統領が即決したという。北朝鮮のミサイル発射を非難する共同会見も、両首脳間で、即、決まった。首相の側に明確な戦略があってこそ、絶妙なタイミングでの提案や決定が可能だったはずだ。それは大統領関与を最少にすることがより良い結果をもたらすという本末転倒の政治の中に、アメリカも世界も落ち込んでしまっていることを意識したものだろうか。

 

マティス国防長官、ペンス副大統領、レックス・ティラーソン国務長官らは、皆、共和党主流の考え方を持つ人々だ。彼らとの対話から生まれてくる政策であれば、大統領の衝動的かつ突飛な考えとは自ずと異なるだろう。日米交渉はいつの時代も厳しかったはずであり、共和党主流との交渉が必ずしもいつもうまくいくとは思わない。しかし、少なくとも国際情勢の趨勢を無視した無茶苦茶な要求を突きつけられる可能性は減少するだろう。

 

トランプ大統領の政策提言の危うさは台湾に関する発言に、典型的に示されている。周知のように、トランプ氏は大統領に当選後、蔡英文台湾総統から祝いの電話を受けた。中国の反発にトランプ氏は激昂し「なぜ『一つの中国』政策に縛られなければならないのか」とまで言い出した。ここまでは余りにもよく知られている「大統領の衝動発言」である。

 

この一連の発言で氏はアメリカの対中貿易赤字や中国による意図的な通貨切り下げを問題視し、「一つの中国」という原則を米中関係の前提にしないことで中国との交渉に活用する構えを見せていた。

 

ところが、2月8日、トランプ氏は中国の習近平主席に書簡を送った。続いて9日には習氏と約1時間にわたって電話会談を行った。安倍首相を迎える直前のタイミングだが、習主席との電話会談で、トランプ氏は「米政府は『一つの中国』政策を堅持する」と明言した。


中・長期の戦略がない

 

日本が、なぜ、このタイミングかと思うのは当然だが、台湾にしてみれば、とんでもない言動である。アメリカによる「一つの中国」政策の見直しは台湾の命運を握る一大事だ。12月31日の記者会見で蔡総統は、しかし、冷静に対処した。トランプ氏の「一つの中国」政策見直し発言について、「米国の政策は、米国が自ら解釈するものだ」と述べて、中国側の反発を牽制し、その一方で、「米新政権発足後は我々も不確実な時期を迎えるだろう」と語った。

 

蔡氏に近い情報筋によると、台湾は決して突然の大きな変化を望んではいない。台湾の真意は、時間をかけて台湾の防衛力をはじめ、あらゆる分野の力を強化していくことであり、その先に独立国としての台湾の未来を担保する機会を作りたいというものだ。急激な変化は台湾も望んでいないのである。

 

安倍首相の訪米が成功をおさめた理由のひとつは、トランプ大統領が日本叩きともなりかねない以前の発言を全て封印して、安全保障問題で180度の転換をしたことにある。これは日本にとって大いに歓迎すべきことだった。しかし、もし反対の現象が起きていたらどうなっただろうか。

 

台湾問題での180度の転換と、日米同盟に関しての180度の転換は、意味合いの異なる結果を生み出してはいるが、「病根」は同じである。トランプ大統領には目の前の問題に対処する戦術はあっても、中・長期の戦略がないのである。

 

アメリカとの関係を大事にしながらも、日本がいつまでもアメリカに頼っていられないゆえんであり、首相に問われているのは、そうした事態へのこの上なく真剣な対処である。

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