闘うコラム大全集

  • 2017.04.01
  • 一般公開

ツイートとは異なるまともなトランプ外交で西側総崩れは回避でも厳しい北朝鮮対応

『週刊ダイヤモンド』 2017年4月1日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1176
 


「米国外交における最重要の二人の大人」。3月21日付の「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)紙に、こう書かれたのは、国防長官のジェイムズ・マティス氏と国務長官のレックス・ティラーソン氏だ。

 

ドナルド・トランプ大統領のツイートは依然として矛盾だらけで、米国外交の展望が見えない。私がそう言うと、米国のヴァンダービルト大学教授のジェイムス・E.アワー氏が笑った。氏は米海軍で駆逐艦の指揮官を務め、名著『よみがえる日本海軍』を上梓した知日家である。


「大統領のツイートは読み流して下さい。国務・国防両長官の実際の行動を見て、判断すればよいと思います」

 

大統領と閣僚の意見が大きく異なる中で確かなのは、閣僚が実際に進めている政策である。マティス氏は2月1日から日韓両国を訪問した。トランプ大統領が「米軍駐留経費全額を払え」などと批判したのとは対照的に、マティス氏は米軍基地への日本の支援に感謝し、他国の模範だと語った。日本とは「肩を並べて」歩み、常に助け合うと語った。「私が政権発足後の早い時期に来日したのは、日本の懸念を払拭するためだ」と説明して、日米同盟の堅固さを保証した。

 

氏は北大西洋条約機構(NATO)は米国の重要な同盟であると強調し、「NATOは時代遅れで無意味だ」という大統領発言も打ち消した。

 

ティラーソン氏も3月15日から日韓中3か国を歴訪。日韓両国に年来の米国の対北朝鮮融和策の見直しを表明した。中国に対しては、中国の反対にもかかわらず、韓国への戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を進める決意を示し、南シナ海を念頭に航行の自由などの価値を強調した。

 

閣僚が従来の米外交、防衛政策は不変であることを同盟諸国に担保する中、トランプ大統領は基本的に彼らの路線を踏襲している。テリーザ・メイ英首相と2月27日に会談して、NATOへの完全な支持を打ち出した。安倍晋三首相とは3月11日の合同記者会見で100%の支持のみならず、通常兵力及び核による日本防衛も表明した。

 

3月17日のアンゲラ・メルケル独首相との会談では、報道カメラの前で握手を拒むなど異例の場面もあったが、それでも2つの重要な点を確認した。(1)トランプ大統領が「私は孤立主義者ではない」と表明したこと、(2)大統領がメルケル首相にNATOへの強い支持を繰り返し約束したこと、である。

 

明らかに大統領は、思い付いたらすぐ発信しているかのような無茶苦茶なツイートとは異質のまともな政策を、国務・国防両長官の提言を受け入れて実施している。この路線が継続されれば、中国やロシアが大喜びするような、米国を起点とする西側陣営の総崩れは、或いは緩和され、回避できるかもしれない。

 

それでも、米国の力に限界があることを、この際認識しておきたい。一例が北朝鮮情勢だ。ティラーソン氏もマティス氏も、韓国に左翼政権が誕生して米韓同盟を本質的に否定し、THAAD配備の合意を無効化する前に、配備を急いで既成事実を作る構えだ。朝鮮半島問題への対応は北朝鮮の攻撃から韓国を守り、南半分に北朝鮮の勢力が及ばないようにすることに尽きる。

 

だが、米国がTHAADを韓国に配備しても事実上機能しないという専門家らの見方がある。北朝鮮は数百基に上るミサイルを有し、移動式発射台から固形燃料で素早く発射する技術も手にした。ティラーソン氏が全面否定したオバマ政権の「忍耐戦略」の下、北朝鮮はここまで核・ミサイル能力を築き上げてしまったのだ。結果としてわが国も韓国もかつてない危険な状況に直面しており、その危険を米国といえども容易に排除できるとは限らない。そのことを忘れてはならない。

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