闘うコラム大全集

  • 2017.09.09
  • 一般公開

北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本 正しく理解したい戦後日本の体制の歴史

『週刊ダイヤモンド』 2017年9月9日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1197
 


8月29日午前5時58分、北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を越え襟裳岬の東方、約1180キロメートルの太平洋上に落下した。


Jアラート、つまり空襲警報が影響を受けると予想される各県に早朝鳴り響いた。その後、国民の反応が報じられたが、「子供をつれてどこに逃げればよいのか、どこが安全なのか、分からない」という若い母親の言葉には実感がこもっていた。警察への問い合わせで最も多かったのが避難場所についてだったという。


それに対して当局が答え得るのは「近くのできるだけ堅固なビルへの避難」というような内容だ。これでは多くの人はどうしてよいか分からないだろう。しかしこれが自力で国を守ることを禁じてきた日本の当然すぎる現実である。


憲法前文には明確に書かれている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、と。9条2項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と明記されている。


国を守るためであっても、国民を守るためであっても「交戦権」、すなわち国家が戦う権利を認めないのである。国の最重要の責任は国民を守り、国民の暮らし方の基盤である文明や文化、価値観もみんな包摂する形で国柄を守ることにある。にも拘らず、そのために戦うことまで否定した。そんなことはおかしい、憲法改正が必要だという意見に対して、多くのメディアや言論人はこぞって反対し、憲法改正を目指すことは悪事を企むことだというような主張を展開する。


なぜ、こんな日本になったのかという疑問を、私は幾十回も繰り返してきた。明確な答えは見つからないが、色摩力夫(しかまりきお)氏の『日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか』(黙出版)が貴重な示唆を与えてくれる。氏はまず、日本の、大東亜戦争の戦い方と敗北のし方について次のように指摘する。


「わが国における降伏は、かつて経験したことのない大事件でありながら、いかなる意味でも国内を混乱、崩壊させるものとはならなかった。そして国際社会の中で整然と規律をもって降伏を受諾し、連合国が課した降伏条件を誠実に履行した。近代国際社会の歴史を通じても、国民がこれほどの一体性をもちながら、秩序をもって終戦に対処できた例は、大戦争の敗戦国において稀有と言ってよいだろう」


日本は「高度の規律を維持して降伏した」にも拘らず、戦後は国際社会の中で毅然とした態度をとれずにきた。その理由は日本人が降伏の本質的意義を正確に認識しなかったからだというのが、色摩氏の指摘だ。


降伏は征服とは異なる双務的な契約である。その契約が成立したのが、東京湾、戦艦ミズーリ号上で日本代表と連合国代表が降伏文書に署名したときである。少なからぬ日本人は誤解しているが、日本の降伏は無条件降伏ではなかった。敗者ではあるが、降伏という契約を結ぶ立場においては対等だった。百歩譲って日本の降伏が無条件降伏だったと仮定しても勝者が敗者に勝手に振舞うことは許されない。


だが「米国は日本占領の初期の段階から『降伏文書』の契約的性格を無視し、むしろそれには縛られないという立場」をとったと色摩氏は指摘する。その最たる例が「東京裁判」だ。


契約破りのマッカーサーの前で、日本人は腰くだけとなった。歴史の事実に照らしてみれば、日本はドイツに較べても、歴史上敗戦を喫したどの国に較べても「誇り高き降伏」を実現する資格を持っていた。しかし、「それをみすみす放棄」したと、氏は惜しむ。


北朝鮮の攻撃の前に無力な姿に陥りかねない日本の現状を見るにつけ、戦後日本を形づくった体制を正しく理解したいと願うものだ。

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