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闘うコラム大全集

2017.10.19号
米国の日本核武装論の正体

『週刊新潮』 2017年10月19日号

日本ルネッサンス 第774回


アメリカのテレビネットワークNBCは10月4日午前、国務長官のレックス・ティラーソン氏がドナルド・トランプ大統領を「moron」と評し、辞任も考えていたと報じた。moronはidiot同様、バカ者、或いは知能の低い者の意味だ。


同日、ティラーソン氏は突然記者会見を開き、辞任は考えたこともないと否定し、トランプ氏を激賞した。トランプ氏もティラーソン氏への「全面的な信頼」を表明した。だが、アメリカのメディアは一斉に、ティラーソン氏がトランプ氏との政策上の対立ゆえに辞任する、或いは解任されるとの推測記事を報じた。


「ワシントン・ポスト」紙は5日、政権関係者19人への取材をまとめて報じたが、全員匿名で登場した19人は、国務長官は遅かれ早かれ辞任に追い込まれるという点で意見が一致していた。有力シンクタンク、外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏は「政権内での意思の疎通がはかれないティラーソン氏は辞任すべきだ」とコメントを出した。


ティラーソン氏の身の処し方は、対日外交も含めてアメリカの外交政策に大きな影響を与える。


トランプ、ティラーソン両氏がイラン核合意、ペルシャ湾岸諸国の覇権争い、パリ協定など重要問題で対立しているのは明らかだ。日本も深刻な被害を避けられない北朝鮮問題で両氏の考え方は正反対だ。


9月30日、ティラーソン氏は訪問先の北京で「アメリカは北朝鮮政府と直接接触(direct contact)している」「アメリカには2~3のルートがある」として、北朝鮮との話し合い路線を強調した。


するとトランプ大統領が翌日のツイッターで「小さなロケットマンとの交渉は時間の無駄だ」とティラーソン氏に告げたと公表、「レックス、エネルギーを温存して、やるべきことをやろう」と呼びかけた。


前述の「moron」報道は、このやりとりの直後に出たことになる。


有事発生もあり得る


そうした中、上院外交委員長で共和党の重鎮の1人、ボブ・コーカー氏はティラーソン氏を高く評価し、国防長官のジェームズ・マティス氏、ホワイトハウスの首席補佐官ジョン・ケリー氏と彼の三氏のお陰でアメリカは混乱に陥らずにすんでいると語った(「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)10月5日)。


伝統的な共和党の政策を重視する人々と、前例に全く縛られないトランプ大統領とのせめぎ合いである。


トランプ政権内の外交・軍事政策の亀裂は日本の核武装についても顕著だ。約ひと月前の9月5日、ハドソン研究所研究員でバード大学教授のウォルター・ラッセル・ミード氏がWSJに、日本の核武装についてトランプ政権の考え方が二分されているとの論説を寄稿した。第一の勢力は日本の核武装はアメリカの国益だと考えるトランプ氏自身で、日本が核武装すれば韓国も台湾も日本に倣い、アメリカの軍事費は削減され、中国に対してより強固な抑止力を構築できるという考え方だ。


ここで私たちが忘れてならないのは、北朝鮮の核に対して日韓両国は自前の核保有をひとつのオプションとして考えよと大統領選挙で主張したトランプ氏を、アメリカの有権者が選んだという事実だ。


トランプ大統領にも強い影響を与えている「アメリカ第一主義」の元祖、パット・ブキャナン氏は、アメリカが考えるべきことを以下のように書いている。GDPで日本は北朝鮮の100倍、韓国は40倍。北朝鮮はGDPの25%を軍事費に回し、韓国は2.6%、日本は1%だ。日韓両国は対米貿易で巨額の利益を得ながら、アメリカに、隣の小国、北朝鮮の脅威から守ってくれと言う。眼前の北朝鮮危機が一段落するとき、日韓両国はアメリカ同様、国防の努力をせよ。自力で核抑止力を持て。そうすることで中国のアジアを席巻する勢いも止まる、という主張だ。このような考え方にトランプ氏は影響を受けていると思われる。


これに対して、ミード氏のいう第二の勢力は、日本のみならず、韓国、台湾の核武装にも反対する人々だ。アメリカが核の傘を担保し、現状維持で核拡散を防げという意見だ。


ティラーソン、マティス、ケリー三氏らがこの第二勢力に当たる。しかし、彼らは閣僚で、人事権を持つのはトランプ氏だ。両者間に齟齬がある場合、最終的に任命権者のトランプ氏の判断が優先されるのは明らかだ。従って、北朝鮮には話し合いではなく強硬な軍事戦略が選択され、日本には核保有のオプションを含む国防力の顕著な強化が要求されると考えてよいだろう。


北朝鮮情勢は日々変化している。年末或いは年明け早々の有事発生もあり得る。そのとき日本は国として国民を守れるのか。行動できるのか。ミード氏は、数か月で核爆弾を作る能力を日本は有していると書いた。技術的にはそうかもしれない。しかし日本国民は憲法の一文字を変えることにさえ後ろ向きのまま今日に至る。核武装を日本人が許容することなど予想できない。


安倍自民党しかない


日本人の究極のパシフィズム(平和主義)を見透かしたかのようなアメリカの日本核武装論は、同盟国日本への究極の軽視の表現にも思える。ミード氏も含めてアメリカの戦略研究家の多くは、日本の核武装を対中カードとして使う。北朝鮮が核保有国になれば、日本は防衛のために核武装する。日本の核保有は中国への大きな脅威となる。日本をとめるために中国の影響力で北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせろという主張である。


価値観を共有し、信頼関係を築いてきた同盟国日本の核武装を阻止するために、政治体制も価値観も異なり、「偉大なる中華民族の復興」を掲げる野望大国、中国と手を結ぼうというのが日本核武装に関してのアメリカの姿勢である。同盟国の核武装をあってはならないことのように位置づけ、中・長期的に見て事実上の敵である中国と協力するというアメリカに、日本は提言すべきだ。


日本はアメリカの誠実な同盟国だ。これからもそうありたいと願っている。国際社会にも誠実に貢献してきた。日本は侵略戦争をしない。憲法を改正するのは、強固な軍事力を整備して日本国民を守り、世界に貢献するためだ。強い日本はアメリカの国益でもある。核武装も含めての議論こそ、北朝鮮への抑止力となる、と。このように議論できる信頼関係を、日米両国はすでに築いているはずだ。


今月の総選挙は、こうした危機的問題にどう対応すべきかという国家としての根本を問う選挙だ。北朝鮮有事近しという状況下で日本国民の命と日本を任せられるのは、事実上の旧民進党と小池百合子氏ではあるまい。安保法制反対の枝野幸男氏でも、日本共産党でもあるまい。やはり安倍自民党しかないであろう。



櫻井よしこ


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