闘うコラム大全集

  • 2013.06.06
  • 一般公開

中国の軍事攻勢、尖閣をどう守るか?

『週刊新潮』 2013年6月6日号
日本ルネッサンス 第560回


尖閣諸島沖の領海への中国の侵犯が日常化し、中国の戦闘機の飛来及び軍艦の通過が頻繁に行われている。

中国の尖閣奪取の意図は明らかで、小さな失敗も許されない十分な準備なしには日本は尖閣諸島を守れないだろう。5月24日、ネット配信の「言論テレビ」で防衛大学校教授の村井友秀氏に対処策を聞いた。

村井教授は、中国が「現状変更国家」であることの意味を正しく把握せよと助言する。日本周辺諸国が現状維持を基本路線とする一方、中国のみ軍拡を続け、日本の軍事力を凌駕したと、考えている。

「現状変更国家が現状維持国家を軍事力で追い越したとき、その国は自分の領域を一挙に固めようとして現状維持国家を攻撃すると考えられています。軍事戦略の常識では中国は日本にとって非常なる脅威です」

中国は4月26日、尖閣諸島を核心的利益と公式に発表した。5月8日には沖縄の帰属は未解決との論文を共産党機関紙「人民日報」が掲載した。侵略の意図はこの上なく明らかだ。村井教授が警告する。

「中国観察で注意すべきは、軍の果たす役割が中国と我々の側では全く異なる点です。中国は革命戦争で政権を取った国です。軍の政治への影響は強く、軍事独裁国家のような国です。常に『軍事力を使って解決する』という思考に陥り易いのです」

公明党、社民党、自民党の一部などに「中国とはまず話し合うべきだ」という意見が根強いが、話し合いには余り期待出来ないのである。

「民主主義国家は、平和的な話し合いを優先し、軍事力の行使は最後の手段と考えます。しかし中国にとって軍事的手段は外交的・平和的手段を尽くした後の最後の手段では決してありません。彼らは全ての手段を同時並行的に用意して、最も有利な手段を選んで攻めてきます」

「小さな戦争」

孫子の兵法を基に解釈すれば、中国が外交努力をするときは、自分たちのほうが軍事的に弱いと彼らが感じているときだという。であれば、こちらが中国を軍事的に凌駕するとき初めて、外交による問題解決が可能になる。中国相手に平和的解決を望むなら、必ず強い軍事力を備えておかなければならないということだ。

そのことは南シナ海沿岸国と中国の関係にも示されている。中国はベトナムが領有していた南シナ海北部の西沙諸島海域に常時軍艦を遊弋させている。南沙諸島周辺にも中国の軍艦は度々姿を現す。ベトナム、フィリピン、インドネシアなどの軍事力が中国の軍事力に圧倒されているためだ。

「中国は弱い国には躊躇なく軍事力を使います。しかし日本が相手だと軍事力では押せない。すると外交で押す。それでも押せなければ日本の最も弱いところを突く。彼らが世論戦に走る理由です」

中国の対外戦略の基本は「①世論戦、②心理戦、③法律戦」の三戦である。①は内外の世論をたとえば反日に誘導し日本を追い込むことだ。②は巨大な軍事力を構築し、相手方の戦意を挫くこと。③は法律を駆使し、また中国独自の法に独自の解釈を加えて、主張を通すことである。

「世論戦では中国は圧倒的に有利です。そもそも独裁国家で、デモも自分たちでやるのですから。彼らは好きなように世論を作り上げることが出来ます」と、村井氏。

中国民主化運動のリーダーの1人、崔衛平氏も今年1月に語り合ったとき、2012年9月の反日デモは体験したことのないほど激しかったが、「中国政府による官製デモだった。中国共産党はデモコントロールの術を知っていた」と語っていた。

では、実際に尖閣諸島でどんなことが起き得るのか。村井氏は習近平主席が国内事情で追い詰められ、支持が低下するとき、求心力回復の手段として対日戦争を選ぶことが考えられるという。その場合、中国は「小さな戦争」を目指すと氏は見る。

「大きな戦争の勝敗は国民にはっきりと見えてしまいます。小規模戦争なら最終的決着をつけるところまで行かず、結果、自分たちが勝ったと言えます。絶海の孤島のような、国民の目が届かない所の小規模戦争が都合がよい」

尖閣諸島で戦えば、中国に勝利のチャンスは殆どない。中国軍は尖閣諸島の制空権を確立しておらず、そのため制海権もない。結果として、上陸は出来ないとも、氏は語る。

対照的に、深刻な懸念の声もある。尖閣諸島の情勢を踏まえて、日本は1942年8月17日のマキン島事件を忘れてはならないと警告するのは、元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏である。『読売クオータリー』No.24(2013冬号)で、氏はざっと以下のように書いている。

ミッドウェイ海戦に敗れたものの、中部太平洋全域がまだ帝国海軍の制海空権下にあった当時、2隻の潜水艦に分乗した米海兵隊襲撃大隊200人強が日本軍の支配するマキン島沖に近づき浮上、兵はボートに分乗して上陸し、日本軍守備隊を掃討して、翌日撤収したのがマキン島事件だという。

軍拡を叩くための軍拡

同様に尖閣諸島でも中国特殊部隊による空挺降下や潜水艦からの水中移動による上陸などで島々を確保されかねないと、香田氏は警告する。

尖閣諸島情勢の見通しについて必ずしも一致しないが、村井氏も香田氏も日本が準備すべきこととして、まず日本の国防上の障害となっている法律及び制度上の欠陥を正すべきだと指摘する。

島嶼防衛で最も大事なことは中国の上陸を許さないことだ。しかし、南西諸島には沖縄本島以外には陸上自衛隊も配備されておらず、軍事的真空地帯となっている。与那国、石垣、宮古の主要な島々に自衛隊部隊を配備し増援体制を整備し、空白を埋めなければならないと、香田氏は強調している。地域全体の偵察能力を高めるために、南西諸島へのレーダーサイトの構築も急がれる。これらの任務を遂行するために自衛隊員の不足も早急に補うべきだ。

大事なことは中国の軍拡に見合う軍拡を日本も行い、島嶼防衛の決意を示すことだ。その意思表示が何にも増して力強い国防力となる。

「習近平主席は中国の夢という言葉を度々使います。太平洋を米国と共に二分割統治するのが中国の夢のひとつです。夢の実現には足下の近海、第一列島線から取らなければならない。そのための軍拡です。狙われている日本こそが、中国の軍拡を叩くための軍拡をすべきです。日本の軍事的努力が尖閣諸島を守り、日中の戦いを回避する最もたしかな道なのです」

村井教授の指摘は、およそ全ての専門家の意見でもある。心して耳を傾け、いま日本国の決意を具体化しなければ、同盟国アメリカも力を貸さないのは当然である。

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