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闘うコラム大全集

2017.11.02号
与党大勝の今、憲法改正を進めよ

『週刊新潮』 2017年11月2日号

日本ルネッサンス 第776回


10月22日の総選挙は、安倍自民党の圧勝、改憲勢力の大勝に終わった。ひと月足らずの選挙戦はどんでん返しの連続だったが、日本が取り組むべき重要課題、即ち憲法改正に積極的に取り組める枠組みができた。


日本の前には数々の難題や課題がある。今回の総選挙で国民は、まさにそれら国難に立ち向かい、日本の愁眉を開く道を、選んだのだ。


まず、足下の北朝鮮問題である。見通しは非常に厳しい。日本は直ちに堅固な国防体制を整えなければならない。だが、中・長期的に見て日本のみならず、西側陣営全体が警戒しなければならないのは中国である。


この原稿を執筆中の10月22日、北京では5年に1度の中国共産党大会が開催中だ。開幕当日の習近平国家主席の演説から多くが読み取れる。3時間半の演説で私が最も注目したのは「人類運命共同体」という言葉である。


習氏は中国人民だけでなく、人類全体を中国共産党の支配下に置くべき存在だと見做しているのだろうか。この表現はざっと以下のような文脈の中で使われている。


習政権の下で5年がすぎた。この間の成果は反腐敗を徹底し、貧困率を改善し、気候変動対策(パリ協定)の国際協力を主導し、南シナ海の島嶼建設を積極的に進めた。広域経済圏構想の一帯一路を提唱し、アジアインフラ投資銀行も創立した。こうしたことによって人類運命共同体の構築を提唱した、という主張である。


アメリカがパリ協定から脱退を表明したのを好機として、中国はパリ協定を擁護し、積極的にCO2削減に取り組むと、言葉の上では賛成した。中国がその言葉通りに行動するという保証は全くと言ってよいほどないが、こうした事例を挙げて、習氏は「人類運命共同体の構築」と言っているのである。これからの中国を見詰める際に、この言葉は重要な意味を持つが、その構想は「偉大なる中華民族の復興」「中国の夢」と対であることを忘れてはならない。


専制政治の強権志向


偉大なる中華民族を政治経済面で分析すると、「現代化した社会主義強国」に行きつく。習氏は自身の思想を「新時代の中国の特色ある社会主義」思想と呼び、中国共産党の行動指針であると宣言する。人類は皆、中国と運命共同体になることを期待されているのであるから、習氏の思想は中国共産党と中国人民のみならず、日本を含む人類全体が信奉しなければならない価値観だと決めつける思想である。


強い違和感が先立つ。習氏の演説には到底受け入れ難い強硬な言葉もちりばめられている。たとえば「台湾独立勢力のいかなる形の分裂活動も打ち破る断固たる意志と自信、十分な能力がある」として、現実には存在しない「92年コンセンサス」(ひとつの中国の原則を中台双方が認め合ったとするもの)の受け入れが中台間の対話の条件だと、蔡英文台湾総統に突き付けている。


チベットなどを念頭に、宗教は「中国化の方向を堅持し、社会主義社会に適応するよう導く」と言う。チベット人がチベット仏教を禁止され毛沢東語録を学ばせられているようなことを指すのであろう。


習氏は、建国100年の2049年までに中国は「社会主義現代化強国」となり、そのとき「中華民族は世界の諸民族のなかにそびえ立つ」と展望してみせる。その実現のために、国防、軍隊の現代化を35年までにやり遂げ、今世紀半ばには世界一流の軍隊を築き上げるという。


こうした一連の目的達成のためには共産党の指導を全党員全国民に徹底させなければならない。その仕組みを完全に作り上げると豪語する。


専制政治の強権志向が、新たなる習体制の特徴である。中国人民のみならず、日本を含めた全人類を中華圏に組み込むべく、軍の強大化を軸に強権を振るうという野望は、「世界制覇宣言」とでも呼ぶのがよいだろうか。


中国の姿勢を異例の率直さで批判したのが、アメリカの国務長官、レックス・ティラーソン氏である。氏はアメリカ東部時間の10月18日、有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で「次の世紀を見据えた米印関係」と題して講演し、質問に答えたが、その内容は驚くほど、踏み込んだものだった。


ティラーソン氏はインドと中国を比較してこう語ったのだ。


「米国はインド・太平洋地域が平和、安定、継続的成長の繁栄の地となり、無秩序と摩擦と略奪の経済圏とはならないように、インドと協力していく必要がある」


膨大な債務


CSIS所長のジョン・ハムレ氏がその意味を尋ねると、ティラーソン氏はざっと以下のように答えた。


この地域において中国の活動、たとえば中国式の金融は、地域諸国に膨大な債務を負わせるだけだ。通常なら多くの雇用を生み出すインフラ整備事業でさえ、中国は労働者を連れて来る。中国式の融資に乗る限り、アジア諸国の将来展望は暗い、と。


ティラーソン氏は今年8月に行われた東アジア首脳会議で各国と、中国とは異なる融資制度を考えようと相談したという。中国が政治的思惑で大規模融資を繰り出してくるとき、こちら側は対抗できないかもしれない。しかし健全な金融、経済を営むには、こちら側の制度に寄り添う方が合理的だ。国の主権を守り、自国の将来を自らの手に握り続けるために、アジア諸国はよく考え、正しい道を選ばなければならない、とティラーソン氏は強調する。


だが、貧しく弱い国にとっては、中国が差し出す法外な額の無利子融資や無償供与の資金は喉から手が出る程欲しい。受け取ったが最後、中国の支配下に組み込まれてしまうと解っていても、受け取りたくなる。中国に頼ると、見返りに国土を奪われ、やがて国そのものを土台から奪われる。中国は周辺諸国を奪い、呑み込む国なのである。


「その国は誰のものか。誰が支配するのか。その国はその国民のものであり、その国の政府が統治すべきだ」とティラーソン氏はアジアの小国に言い続けているという。アメリカの国務長官として中国と激しく闘っていることが窺える。


ティラーソン氏の考える闘いは、中国への対抗軸としてアメリカ、インド、日本、オーストラリアの4か国連合を形成することだ。このような戦略は、日本にとって測り知れない国益である。日本こそが旗振り役となるべきである。今回の選挙結果は、習氏が築こうとしている中華帝国ではなく、より普遍的な価値観を軸にした自由陣営の基軸国のひとつに、日本がなる道を切り拓く力である。そのために日本はアメリカ、インド、オーストラリアなどと真の意味で対等な国にならなければならない。憲法改正を進める時である。安倍首相の背中を今や国民が押している。



櫻井よしこ


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